(十)誅せし者や何人ならむ
ひととおりの作業が終わり、グラウンドは、すっかり事件前の姿に戻っていた。昼間、普通の人間から
「ほら。
「歴史的にみると、習合していた時代のほうが長いからね」最後の一滴まで飲み干すために、ぐびっと缶ジュースを
白骨死体が横たわった地面に目を落とした龍は、力を集中させ、
「
きれいな音をぶち壊すような、ガサツなお経が響いた。手を合わせて拝む彩に、彼女の神様としてのプライドはどこにあるのかと、龍は余計な心配をしてしまう。
「あたしも半分は仏教徒だから。
自慢げな顔で胸を
「うっ……なにげに傷つくこと言うなぁ」「……すみません」
月光に照らされた、ふたり分の
すべてを終えた彩は「じゃあ、きょうはもう解散!」と晴れやかな表情で手を叩く。やっと終わったと思い、龍も深呼吸しながら天を仰いだ。彩が手渡してくれたジュースのおかげか、疲れはほとんど感じない。やはり特別な飲み物だったんだろうか、と手もとの缶を見つめる。でもやっぱり、なにが書かれているのかは解読できない。きょう一日で、いろんなことがあった。立ち去っていく彩とキツネの後ろ姿を見つめながら、龍は昼間のことを思い出していた。
…………。
……。
午前十一時に差しかかるころだったろうか。
校舎一階の廊下が
「なに? なに?」「すごーい! 光ってる!」「もしかして、宇宙人がきたとか!」
「まさか……」
その人物の顔を思い浮かべるよりも先に、光の中心へと向かい、龍は駆けだしていた。目当ての人物を見つけ次第、ひと思いに
しかし、闇雲に走っているわけではなく、周囲の気配を少しでも感じられるよう、五感をフルに
脱力した稲穂が膝から崩れ落ち、
なんだろうと注視していると、それらの稲のなかから、むくりと誰かが起き上がる。遠目からだが、その人物は彩だとわかった。稲穂のことを
「なにしてんの」「
龍が返答に
「倒したの?」「いえ……たぶん……」「まさか……これを、稲穂が……?」「はい。恐らく……」
息が荒く、苦しそうに
「でも、どうして、いまになって……? 抑え込めてたはずなのに」「抑え込めてた……? それって……」
「いえ、なんでもないわ」龍の疑問には答えず、彩は首を横に振った。この状況を見てしまった彩は、自分を無理やり納得させようと、何度も
「はい。無事です」「よかった、よかった」
再び白骨へ視線を移した彩は、唐突に誰かの名前を呼んだ。「
すると、どこからともなくキツネが現れて、白骨や稲のまわりをくるくると回り始めた。すぐさま、その円の内側には、両端のつながった注連縄が、宙に浮かんだ状態で出現する。その注連縄に囲われた白骨や稲などは、たちまち姿かたちが見えなくなっていった。龍は、心の中で小首を
「戻ったら、
光が完全に収まってくると、この場所は校舎から丸見えだろうと思っていたが、雨男と晴れ女がいるせいか、雨が降ることはなかったが、太陽の周りには再び雲が群がってきているようだ。どんよりとした空模様のおかげで、いくらか暗いため、気づかれにくいかもしれない。それでも、足踏みしていた警察官たちがくるのも時間の問題で、ここから一刻も早く立ち去りたい。その気持ちは、彩も同様だった。
「教室に戻りましょうか。気絶してるなら、稲穂を担いで行かないと」
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