第276話『位相変換した! してない!?』

魔法少女マヂカ


276『位相変換した! してない!?』語り手:マヂカ  





 ウワ! ドスン!


 

 目が覚めると、目の前にお尻があって、ビックリしてベッドから転がり落ちてしまった。


 イテテ……


 身を起こすと、詰子がお気に入りのパジャマの体を丸めて寝ている。


 寝相が悪くて足と頭が逆になっているんだ。


「ああ、目が覚めたんだ」


 背中から声がしたかと思うと、姉の綾香がトーストを齧りながら半開きのドアから顔を出している。


「夕べ、ドスンて音がしたら、真智香の部屋に詰子が戻っていてな。寝ているというか寝ちまってるんで、着替えさせて真智香の横に放り込んだんだぞ。お姉ちゃん、もう仕事いくから……」


「ちょ、お姉ちゃん……」


 リビングに出ると、我が姉は、パンプス履いてドアノブに手をかけている。


「あ、日付はリープした翌日になってるから、あと、よろ~」


 バタム


「行っちゃった……」


 カレンダーを見ると、確かに、原宿で大正時代に飛んだあくる日だ。


 原宿に戻って、高坂家の跡地である東郷神社に寄って、リープしたことをしみじみ噛み締めたんだけど、やっぱり、頭も体も完全には戻っていない。


「詰子、そろそろ起きなよ……」


 改めて驚いた。ベッドが微妙に大きい、セミダブルだ。


 ああ…………さらに観察すると、部屋も少し広くなっているのでベッドが大きくなっているのに気付かなかったんだ。


 念のため窓を開けて、表の様子を窺う。建物自体が拡大したのでも道幅が狭くなったわけでもない。


 どうやら、綾香ネエが魔法を使ったようだ。


 綾香ネエの本性は地獄の番犬ケロベロス。位相拡大魔法(周囲に影響を及ばさずに、対象物の寸法を変える魔法)を使ったんだ。


 ということは、これからは、詰子と同じ部屋で暮らせというわけだ。


 詰子の本性は、西郷さんの猟犬だ(上野の銅像の横でお座りしてるやつ)。いつも仲間の犬といっしょに寝起きしていたはずで、一人にしてやるのは可哀そうだと、綾香ネエは判断したんだろう。


 まあいい、詰子も大正時代では大活躍してくれたんだ。




「行くよ」


 朝ごはんも終えて詰子を急かせる。


 ガチャン


 お向かいさんと同時にドアを開けて、またビクッリ。


「ブリンダ!?」


「あ、マヂカ!?」


 ブリンダは、部屋ぐるみ位相変換……ではなくて、位相転移させられたようだ。特務師団が出撃するときも、この魔法を使う。出撃の様子を見せるわけにはいかないからね。


 ブリンダはドアを開ける直前までは自分の家に居たという顔をしている。


「フフ、これは、なにか起こる前兆かもですね(^▽^)」


「喜ぶな猟犬」


「ムー、詰子は、もう猟犬じゃないです」


「で、詰子、虎ノ門はどうなったの?」


「うん、難波大助は道路工事に紛れて爆薬を仕掛けていたんだ。ノンコが気づいて、建物の二階で爆破スイッチを押す寸前に霧子が飛び込んで取り押さえて未遂で終わったんだよ」


「爆発はしなかったのね?」


「したよ。でも、車列はノンコが体張って停めてたから、何事も無かったと思う」


「……そのようだな。ネットで検索しても同じ内容が出てくる」


「よかった……」


 わたしも自分のスマホを見て安心する。



 あ、みんなあ!



 大塚台公園まで来ると、交差点の向こうで友里がピョンピョン飛びながら手を振っている。


 そうだ、友里とは原宿でジャンプして以来だ。


 こちらの時間では、たった半日しか経っていないけど、準魔法少女の友里には、その半日の間に大変なことが起こっていて、時間経過も半日どころではないことが分かっているんだ。日光大冒険のパートナーは友里だったしな。


「あれから、司令に聞いて『大丈夫だ、心配するな』って言われてたんだけどね、連絡とったらブリンダまで消えてしまったし、めちゃくちゃ心配だった。よかったよ、みんな無事でぇ!」


 信号が青になるのももどかしく、友里は横断歩道まで飛び出して、三人を抱くようにして喜んでくれる。


「あ、ありがとう。でも、歩道に行こ(^_^;)」


「う、うん。調理研で帰還のお祝いしなくっちゃね」


「うわ、なんかご馳走作るんだよね!」


「詰子、ヨダレヨダレ」


「あ、ジュル」


「もう、子どもかよ」


 ブリンダがティッシュで拭いてやって、四人で懐かしく笑ってしまう。



 ゴゴゴゴゴ



「「「「え?」」」」


 突如、聞き覚えのある轟音が空蝉橋の方から聞こえてきた。


「なんで……?」「あれえ?」「なぜだ!?」「見えてる!?」


 空蝉橋の向こうから、特務師団の高機動車C58が位相変換もせず、轟音を上げて豊島区の空に駆けあがっていく!




※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

ファントム      時空を超えたお尋ね者


 

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