第270話『富士山頂決戦・1』

魔法少女マヂカ


270『富士山頂決戦・1』語り手:マヂカ  





 上るにつれて鈍色に深まる霧の中に山頂の輪郭が浮かんでくる。


 グオーー! ズズズーーン!


 裂ぱくの声々と地響きは、まるで富士の噴火をいざなうように激しくなり、衝突や斬撃の火花までがチカチカと見えるようになってきた。


 ガシガシ! ガシガシガシ!


 打ち合う音が続いたかと思うと、二つの何かが、もつれ合うようにして転がり落ちてきた!


「こんにゃろー! くたばれえ! 犬化け!」


「させるかあ! 死ねえ! クソガキ!」


 悪態をつきながら転がり落ちていくのは、ファントムの黒犬と詰子だ。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………


 声を掛ける暇もなく、二人は目の前を転がり落ちていく。


「……あいつ、寝ていたんじゃないのか?」


「後部座席で涎を垂らして寝ていたよ……」


 ズダダダダ、バシ!


 あっという間に駆け上がってきて、きれいなファイティングポーズを決める詰子。


「敵を欺くには味方から! 御殿場からは黒犬が付けてきていたワン!」


「え?」「そうだったのか?」


「二人が登って行った後を、あいつが付いていくので、先回りして戦っていたワン!」


 ズダダダダ


 下から黒犬が駆けあがって来る。


「二人は、先に上がって! あいつは詰子が相手しておくから!」


「よし、頼んだ! 行くよ、ブリンダ!」


「おお!」


 駆けるのももどかしく、山腹の岩々を蹴り、勢いをつけて山頂のカルデラに降り立つ。


 決めポーズ!……している暇はなかった。


 トオオオオオオオオオオ!


 カルデラの四方から声がしたかと思うと、四つの火の玉が飛び上がり、山頂300メートルほどの高みでもつれ合う二つの玉の片方に四方から激突した!


 ピシャーーーーーーーーン!!


 目もくらむようなスパークが起こったように見えたが、四つの火の玉は勢いを削がれて放物線を描いてカルデラの反対側に着地、火は四人の巫女の姿に戻っている。


「あれは、神田明神の巫女たちか?」


「うん、赤・黒・白・青の四人の巫女レンジャー……ちょっと敵わないみたいね」


 四人の巫女は、端正な姿勢は保ってはいるけど、巫女服はズタズタ、髪もザンバラになって、もう二三合打ち合えば、実体を失ってしまいそう。


 ゴオオオオオオオオオオオ!


 もう一つの大玉が激しく振動し、数秒で人の形をとる。


 ビシャーーーーーン!


 派手なスパークがしたかと思うと、スパークは緋縅の大鎧の荒くれ武者の形になった。


「将門どの……!」


「あれが神田明神の!?」


 ブリンダは、瞬間、神田明神・将門の迫力に目を奪われる。


 日本を代表する荒ぶる神に驚嘆してくれるのは、長年の友としても、ちょっと嬉しい。


 天神や毘沙門天などとは違って、素性が荒武者の平将門、ピカピカの五月人形よりは戦のさ中という荒くれ姿の方が頼もしい。


「どうだ、赤地錦の直垂に緋縅の大鎧、大星八間兜の大鍬形の間には憤怒の獅噛、弦走りには不動明王、据文には三つ巴、ナメクジ巴の金物打って、箙(えびら)を緩めに取り回し、黄金づくりの大太刀を流し下段に構えた姿は、ほれぼれとするだろう……!」


「い、いや、その説明、ちょっと難しいぞ(^_^;)」


「そうか、まるで銀幕から飛び出してきた、市川歌右衛門か片岡千恵蔵、いや長谷川一夫の風格じゃないか!」


「そ、それも分からん(;'∀')」


「チ」


「舌打ちすんな!」


「仕方ない、アメリカ人だもんね」


「渡辺謙とかなら分かるぞ。ゴジラとセットだしな……あ、うん、ゴジラに通じるものがあるかもな」


「そう?」


「うん、ゴジラに似て、安定の短足だ!」


 ズコ


 微妙な、しかしハッキリしたエフェクト付きで将門がズッコケる。


 グゥオーーーーーーン!


 その隙を狙って、ファントムの大剣が振り下ろされ、寸でのところで将門は大太刀で受け止める。


 ガキーーーン!


「マヂカさま、感激なさるのは嬉しいのですが……どうか……」


 赤巫女が恨めしそうな目を向け、黒・白・青が続ける。


「「「ご助勢を!」」」


「ごめん、つい見とれてしまった(#-。-#)」


「いくぞ、マヂカ!」


「おお!」


 ブリンダと二人、将門・ファントムの間を割るように跳躍した! 





※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査





 

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