第229話『クマさんとケーキのお使い』

魔法少女マヂカ・229


『クマさんとケーキのお使い』語り手:マヂカ   







 クマさんがお使いに出るのを見守っているだけの箕作巡査。




「ああ、じれったい!」


 二階の窓から偵察していた霧子は、歯ぎしりする。


「仕方ないじゃない」


 後ろから霧子を慰めるんだけど、良心的お節介焼きの霧子は収まらない。


「ええアイデアや思たんやけどね……」


 ノンコは、さっさと諦めてケーキにパクつく。


「普通さあ、好きな女の子が重い荷物持ってたら手伝うでしょ!」


「あれが、箕作巡査のいいとこでもあるのよ」


「はああ……」


 ため息ついてカウチにへたり込んだ霧子は、上出来のケーキに手を付けようともしない。


「食べへんねやったら、あたし食べるよ」


「どうぞ」


「ほんなら遠慮なく(^▽^)/」




 霧子は、あれ以来進展しない箕作巡査とクマさんの関係を進めてやろうと、気をもんでいるのだ。




 朝からキッチンに籠って、あたしたちにも手伝わせて、スゴイ量のケーキを作った。


 家の者や使用人のお八つという名目なんだけど、それにしても多い。


「そんなに美味しいんだったら、倉西子爵さんのところにも差し上げよう!」


 と、言い出した。


 倉西子爵というのは、この原宿に屋敷を構える華族で、日ごろから付き合いがある。


 その倉西子爵へのお使いをクマさんに頼んだのだ。


 近所なので、むろん歩いて行ける距離。


 用件を済ませても十分もあれば帰って来れる。


 ケーキは崩れてはいけないので、丈夫な紙箱四つに分けてある。重さは知れているんだけども、一人で持つにはかさ高い。


 そこが狙いだ。


 小柄なクマさんが両手にケーキの箱をぶら下げて表門から出ようとすると、狙った通りに箕作巡査が声を掛ける。


「大荷物だね」


「ええ、でも、そこの倉西子爵さまのお屋敷までですから」


「そうか……」


「…………」


「手伝ってあげられればいいんだけど、自分は、ここを離れられないから……申し訳ない!」


「いえいえ、箕作さんは、それがお仕事ですから(^_^;)」


「はい、そうであります(#'∀'#)」


「それでは、行ってまいります」


「お、お気を付けて!」


 箕作巡査は気を付けの姿勢のまま、クマさんが角を曲がるまで見送った。


 そして、霧子が歯ぎしりをしているというわけ。


 まあ、この二人は暖かく見守ってあげるしかない。




 しばらくすると、クマさんが帰って来るのが見えた。




「あれ、女学生といっしょやで?」


 ケーキを手に持ったままノンコが窓辺に寄る。


「え、学校の人?」


 女学生というと、霧子や我々の守備範囲、三人窓辺に顔を付きあわす。


「制服が違う」


 学習院は白線三本に黒のリボンだけど、その子は赤線三本に赤のネクタイだ。


 しばらく三人で話し、箕作巡査とクマさんが優しく頷いて、クマさんが、我々のいる母屋に向かってきた。




「真智香さま、赤城さんという女学生さんが来られてます。なにかとても大事なお話がおありのようで……」


 用件を伝えに来たクマさんは軽く上気している。


 箕作巡査と話せたせいか、女学生のことでなのかは分からない。


 分からないけど、ケーキが、二人にコミニケーションのきっかけにはなったようなので、霧子も機嫌を直す。




 第二応接室に通された赤城さん。




 会ってビックリした。先日の天城にソックリ。


 わずか三日ほどしかたっていないけど、赤城には船霊が宿ったようだ。


「お初にお目にかかります。天城の妹の赤城です……」


 優しい笑顔なんだけど、天城の時とはまた違う緊張が走っている。


「どうぞ、お掛けになって、お話を伺います」


「はい、ありがとうございます」


 姿勢よく腰かけた赤城の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。





 

※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

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