第215話『仏蘭西波止場・5・勝利の朝』

魔法少女マヂカ・215


『仏蘭西波止場・5・勝利の朝』語り手:マヂカ     






 ウ~~~~~~~~ン



 両目を渦巻き模様にしてフラフラと出てきたのはJS西郷だ。


「お前が入っていたのか!?」


「ああ……うん……そうなんだけどね……」


 そこまで言うのがやっとで、JS西郷は、パタリと仰向けに倒れてしまう。


「このガキはなんだ?」


 ブリンダはJS西郷とは面識がない。


 しかし、少女が悪者をやっつけるのはカンザスのドロシーで慣れているので、敵対心は無いようだ。


「時々世話になってる。西郷さんのお使いをやっている子で、JS西郷と、わたしは呼んでいる」


「JS?」


「女子小学生」


「なるほど、黄帽に赤のランドセル。これで、赤いラメ入り靴を履いていたらドロシーの日本版だな」


「おい、しっかりしろJS西郷」


「触っちゃラメ……いまから巻き戻るから……」


 ダメと言われても、ひっくり返っているJSを投げ出すわけにもいかない「大丈夫、マヂカが付いているぞ!」と励ます。ブリンダも膝をついて心配そうにJS西郷の顔を覗き込む。


 


 ブーーーーーーーン!




 洗濯機の逆廻しのように目玉の渦巻き模様が逆回転!


 ウワアアアアアアアアアアア!


 凄い勢いで周囲の景色が旋回する。


 JS西郷と、彼女を抱っこしている自分の体だけがジッとしていて、景色だけがマッハの速度で旋回するので、すぐそばにいるブリンダも横方向に回って、周囲の景色に溶け込んでしまい、壮大な縞模様の渦の真ん中にいるような感じになる。


 プシュ~~~~~~


 空気が抜けるような音がしたかと思うと、ゆっくりと旋回が落ち着いていき、やがて、ゴトンと音がして、完全に停止した。


「ああ、やっと落ち着いたあ……」


 人心地ついたJS西郷だけど、感覚を取り戻すように、視線は上空を向いたままだ。


「おい、マヂカ、コスがリペアされてるぞ」


「え、あ、ほんとだ」


 ビリビリに破れてしまい、令和の時代に戻らなければスペアが無いので、どうしようかと思っていたところだ。


「ブリンダのコスも……横浜の街も戻っているぞ」


 横浜の街は、震災でボロボロになっていたところに、魔法少女と上陸妖軍の激突が起こって、まるで、48年後に原爆を落とされたようになったみたいに破壊されつくしたんだけど、巻き戻しによって、震災後の姿にまで戻っている。



「西郷さんにね『儂は上野公園を出るわけには行かないから、代わりに行っておくれ』って頼まれて、大仏の首を買ったアメリカ人の記者も『役に立つんなら、権利を放棄するよ』って承諾してくれて、神田明神の巫女さんが『このお守りを持って行って』て、これを預かって……」


 そう言うと、JS西郷は首にかかった紐をスルスルと抜き出した。


「なんだ、ドッグタグか?」


「これだよ」


「ああ、お守りだ」


「おお、アミュレットか……なるほど、これが渦巻きになっているからトルネードのようになったんだな!」


 神田明神の紋は、俗にナメクジ巴と言われる、尻尾の長い三つ巴。御利益と思っても……いや、きっとご利益なんだ。以前、日光街道を行った時もそうだったが、神田明神は人に力を貸して陰ながら支えるというのがスタンスなのかもしれない。


「うまくいったようね」


「西郷さんや神田明神のお蔭でもあるんだろうが、JS西郷、おまえが名乗り上げてくれなかったら、もっと苦戦していたはずだよ。ありがとうな」


「あはは、照れるなア(^_^;)」


「さて、どうやって帰るかだぞ……」


「え?」


 空を飛べば簡単なことだと思ったけど、どうも魔力を使い果たしてしまったようで、その気になっても体は一ミリも浮き上がらない。それに、役目を果たした後とはいえ、大仏の首をそのままにしてはいけない。


「魔法少女のまま電車に乗るわけにもいかないしな」


「あ、そうだな……エイ」


 パチンと指を鳴らしてみる。コス解除……する力も残っていない。


 魔法少女のコスは、セーラームーン以来、膝上と言うよりは股下何センチと言った方がいいようなミニスカだ。


 大正12年の電車に乗れば奇異の目で見られるだけでは済まない、きっと警察に通報されて逮捕されてしまう。


「あ、あれはどうですか?」


 JS西郷が指差した保税倉庫の瓦礫からコーヒー豆を入れる茶色の麻袋が覗いている。


「ドンゴロスの麻袋か……背に腹は代えられんな」


 ブリンダは、器用に首と手を通す名を開けると、スッポリと被って、腰の所をベルトで締めた。


「あ、かっこいいかも!」


 JS西郷は面白がって、同じようにドンゴロスのワンピースにして上から被った。


 ひとりでは恥ずかしいけど、三人揃ってやってみると様にならないこともない。


「問題は、大仏の首……」





 三人で腕を組んでいると、海岸通りを陸軍のトラックがやってきた。





「おーい、迎えに来たよ!」


 一個分隊の兵隊に混じって乗っていたのは、ノンコと霧子だ。


「師団長閣下が神田明神のお告げを聞いたとおっしゃって、トラックを派遣してくださったの。こちらが隊長の石原少佐です」


「石原です。これが、大仏の首ですな。おい、回収作業急げ!」


 部下に指示すると、お弁当を出してくれる。口をへの字にしてきかん坊のガキ大将のような顔だが、数百年生きている魔法少女の感覚では、ちょっと面白い男に見えた。


「隊長さん、ひょっとしてフルネームは石原莞爾とおっしゃるのでは?」


「いかにも、石原莞爾ですが、どこかでお会いしましたかな?」


「あ……そんな気がしたものですから」


 なんとも間抜けな答えをしたんだけど、石原少佐は、意外に優しい笑顔になって「そうですか」と応えて、大仏回収の指揮を執った。


 帰りは、トラックの荷台に乗せてもらった。


 兵隊さんたちから「コーヒーの匂いがする」と言われて、ちょっとドギマギ。


 出発すると、入れ違いに仏蘭西波止場に瓦礫を捨てに来たトラックたちとすれ違う。


 横浜は、震災復興の新しい朝を迎えていた。


 


 

※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る