第214話『仏蘭西波止場・4・激突!』

魔法少女マヂカ・214


『仏蘭西波止場・4・激突!』語り手:マヂカ     






 上野大仏!?


 それは、震災で大破して首だけになった上野大仏だった!




 座った姿勢だけで6メートルの大仏は、首だけになっても人の背丈ほどもある。


 その大仏が、くわッと特大の中華鍋ほどに口を開いて、竜巻を横にしたような烈風を放って妖たちを吹き飛ばしているのだ!


「避けろ! 傍にいると吹き飛ばされるぞ!」


 突然の大仏出現にほとんどゲシュタルト崩壊していたわたしをブリンダが突き飛ばす。


 その勢いで仏蘭西波止場の上空を百メートルあまりぶっ飛んでしまい、魔法少女コスの半分を千切られてしまった。


「大仏の口から出ているのは、本物のカンザストルネードだ!」


「ブリンダのはニセモノだったの!?」


「オズの魔法使いからライセンスを買い取ったものだ、オレのジェネレーターでは50%の力しか出ない……くるぞ!」


 大仏の首を大きく回り込むようにして回避する。


 回避しながらも、運よく逃げおおせた妖どもをぶちのめす!


 セイ! トー! オリャー!


 詠唱している余裕もないので威力は半分に落ちているが、敵の妖どももトルネードにもみくちゃにされているので、大半を撃破できる。


 ズボボボボボ!! ズボボボボボ!! ズボボボボボ!!




 江戸時代生まれの大仏は、首だけになっても律儀で、ほとんど首を振動させるようにしてトルネードを吐き出しているので、目鼻も髪もブレまくって、ほとんど球体のようになっている。


 それでも、遠く離れた妖どもは躱す者が居て見逃すわけにはいかない。


——これから船を攻撃する、あなたたちは取りこぼしをやっつけて——


 意外に幼い声で大仏の思念が飛び込んでくる。


 高速旋回している影響で声が高くなっているんだろう。


 大仏だけに負担はかけられない『いくよ!』『いくぞ!』と思念を交わし合って、マッハのスピードで妖たちを追い回す。


 ザバッ!


 大波が砕けるような音がしたかと思うと、大仏の首が三倍ほどに膨れ上がる。膨れ上がった球体はグラデーションになって、まるで小さな太陽が熱戦を放射しているように見える。


『爆発するのか!?』


『いや、違うみたい』


 大仏は、桟橋を目指している敵の艦船に突入する姿勢をとったので、様子がハッキリする。


『螺髪(らほつ)が解けたんだ』


『ラホツ?』


『パンチパーマみたいな髪だ、勢いがすごいので伸びてしまったんだ』


 解した螺髪は、けっこう長く、もし胴体が付いていたら腰の上に届きそうなくらいだ。


 この姿……どこかで見た事がある。


 考えている余裕は無かった。足の速い残敵は三浦半島を超えて外海の上空に差し掛かろうとしているのだ。


 セイ! セイセイ! トー!


 なんとか湘南の沖に逃げた一匹を撃墜し、横浜の上空を目指して旋回する。


 ドン ドン ドン


 腹の下から突き上げるような衝撃!


 しまった、伏兵か!?


 反射的に高度を取って縦旋回、身構えたまま眼下を窺う。




 あれは!?




 それは、半ば傾いた戦艦三笠だった。


 三笠は、横須賀の岸壁に係留されていたが、震災の衝撃で岸壁に激突して浸水して、ほとんど死にかけていたはずだ。


——ごめん、やっと立ち直って、少しは役に立ちたくてね——


 三笠の船霊の声だ。


——日露戦争以来、二回も爆沈したり座礁したり、この震災でも傾いてしまって世話のかけっぱなしだったから、少しはね……——


 ドン ドン ドン


 三笠は、その傾斜を利用して主砲の仰角を上げて、横須賀の山間に隠れた妖を潰していく。


 まだ残敵がいたんだ。


 負けていられない、夏島を飛び越えて横浜に戻る。


 ウオーーーーーーー!


 雄たけびを上げながら、髪を振り乱して敵の主力艦にトルネード攻撃を加える大仏。


 この姿は……将門の首だ!?


 ドッコーーーーン!


 主力艦はド級とか超ド級の語源になったドレッドノートで、装甲も厚く、大仏は体当たりするのではないかと心配するくらいの近距離で、やっと仕留めることができた。


 ドーン ゴロンゴロン ゴロゴロ……


 ドレッドノート爆沈の衝撃で吹き飛ばされた大仏の首は、海岸通りまで吹き飛んできて、舗装道路の上をゴロゴロと百メートルほど転がって、やっと停まった。


「大丈夫か、大仏!?」


「大仏!」


 山手の方から戻ってきたブリンダと共に地上に降りる。


 やっと停止した大仏の首からは、二本の華奢な脚が覗いていた……。 




※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男



 

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