第205話『上野公園でボランティーア』


魔法少女マヂカ・205


『上野公園でボランティーア』語り手:マヂカ    






 やあ、君たちは女子学習院の生徒たちだね。



 救護所に近づくと白シャツを腕まくりしてて仲間の学生に指示を与えている帝大生が気づいてくれた。


「はい、お役に立てることがあればとやってきました」


「授業はいいのかい? たしか女子学習院はほとんど被害は無かったはずだが」


「はい、被災者のお役に立つことならお手伝いしなさいと言われております」


 キリリと霧子が応える。


 半分嘘だ。たしかに言われてはいるが、あらかじめ学校に申し出ておかなければならない。


 もっとも、数週間とはいえ過去にさかのぼっているので、学校にはもう一人の霧子がいる。確認などしたら混乱してしまう。


「じゃあ、このボランティーア名簿に署名してくれたまえ、その間に手伝ってもらうところを決めるから」


 そう言うと、帝大生はたすき掛けの女子学生と替わって、となりの老人たちが手当てを受けているテントに向かった。一人で複数の担当をやっているんだ、これは、真剣にお手伝いしなきゃな。


「あなた、外国の女学生さん?」


「ハイ、アメリカの交換留学生です」


 大使の娘であることは伏せて自己紹介するブリンダ。もっとも大使令嬢というのもフェイクなんだけどね。


「ちょうどいい、通訳が不足しているの、よかったら、池の向こうの通訳テントの方に行ってもらえるかしら」


「外国人も居るんですか?」


「数は少ないけど、被災者もいるんだけど、外国のプレスとかの対応ね。わたしたちの英語じゃなかなか通じなくて、ネイティブさんなら大助かり」


「分かりました」


「サンキュー!」


「ユーアー ウェルカム!」


「あなたたちは、あっち。児童預所、よろしくね!」


 それだけ言うと、たすき掛けは帝大生の向かったテントに戻っていった。テントには『高齢者治療所』と札が掛かっていたが、なにやら言葉を交わしたあと、高齢者の三文字を墨で塗りつぶした。とたんに、ケガをした中年やら子供を抱っこしたお母さんやらがテントに入って来る。どうも、あちこち、救護体制はいっぱいいっぱいのようだ。文字通りお手上げをしたたすき掛けさんが手をメガホンにして「一人、こっちに来てえ!」と救援要請。


「わたし、行ってくる!」


 まなじりを挙げて霧子が向かう。伏見大地震で一番に秀吉の元に駆けつけたご先祖、高坂光孝の姿が心に浮かんでいるのかもしれない。


「マヂカ、魔法で病人とか怪我人とか治してあげられへんのん?」


「へたにやれば、直に噂が広まって、処理できない人数が集まってしまう。我々もいつまでも居られるわけじゃないんだからね」


「そっか、じゃ、子どもたちの相手しにいこうか」


「そうだな」


 児童預所に向かうと、子どもたちが溢れかえっていた。


 大きな子は小学五年生くらい、小さな子は一歳児くらいで、小学生の女の子たちがオンブしている。この時代は、上の子が面倒を見るのが当たり前だったんだ。それより小さな乳飲み子はお母さんが抱っこしたりおんぶしたり。むろん、お母さんたちは赤ん坊の面倒を見ながら避難所での家事をこなしている。


「おねえちゃん、上手だね(^▽^)!」


 むずかる背中の子をあやしてやると、尊敬される。


 もう千年年以上魔法少女をやっているのだ、子守ぐらいは朝めし前だ。


 それに引き換え……


「おねえちゃん、なんにも知らねえんだなあ」


 呆れられっぱなしのノンコ。


 なんせ令和の女子高生だ、大正時代の子どもの遊びなどには通じていない。


 ゴム縄、ケンパ、缶けり、鬼ごっこ、お手玉、おはじき、なにをやっても大正少年や少女にはかなわない。


「……じゃなくって、こーやるんだよ」


「こう?」


「んじゃなくって、こうやったら、敵のおはじきが……ほら、二つ取れた!」


「すごい、みよちゃん天才!」


「天才って、おはじきくらいでぇ大げさ、アハハハ((´∀`))」


「こんどは、オレがだるまさんがころんだ教えてやんよ!」


「ずるいぃ、今度はこっち!」


 なんと、子どもたちがノンコに教えるのを面白がっている。


 そうか、この時代、ここまで遊び方を知らない奴も珍しいんだ。


 なによりも、ノンコ自身が教え教えられると言う子ども同士の感覚が新鮮で、正直面白がっている。


 いや、ノンコのもの喜びして遊びを憶えるのはノンコの才能なのかもしれない。


「こらあ、そんなことでは艦隊は全滅するぞ!」


「姉ちゃん、強すぎい!」


「ふつう、捕まえられねえって……逃げろケンちゃん!」


「ギャー、やられたああああ」


 わたしは、駆逐本艦で元気の余ったガキどもを全滅させて、尊敬……されずに顰蹙を買う。


「大の大人が、子ども相手に本気になんなよなあ……」


「「「「そーだそーだ!」」」」


 夕方には、ノンコは救護所一の人気者になり、わたしといっしょに遊んでくれる子どもは居なくなってしまった(^_^;)。




※ 主な登場人物

•渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

•要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

•藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

•野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

•安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

•来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

•渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

•ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

•ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物

•高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

•春日         高坂家のメイド長

•田中         高坂家の執事長

•虎沢クマ       霧子お付きのメイド

•松本         高坂家の運転手 


 





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