第203話『常盤橋 ブリンダ可愛くなる』


魔法少女マヂカ・203


『常盤橋 ブリンダ可愛くなる』語り手:マヂカ    






 砂糖に群がる蟻の群れのようだ。


 気が付くのが早かったので、まだ数匹の黒い影が付き添いの侍従や武官にとりついたところ。


 取りつかれた武官は、突風に襲われ帽子を飛ばされたような感じだが、数秒の後には生きたまま体を引き裂かれるだろう。それほどに影たちは禍々しい。


 セイ!


 風切丸を引き抜くと、そのまま数匹の影をぶった切る。視野の端でブリンダが攻撃に移った姿をとらえる。


 いつものサーベルではないようだが、気にしている暇はない。


 行列周辺の影たちを蹴散らして、攻撃の矛先をこちらに向けさせなければならない。


 群がる蟻を一網打尽に始末することはできない、しいて言えば火炎放射で焼き殺すことだが、それをやれば砂糖の山まで焼いてしまうことになる。砂糖の山とは殿下の御行列だ。


 砂糖よりも気にかかるものがあることを示すのだ。


 ただ、砂糖のように甘くはない。こいつらをやっつけなければ砂糖に取り付けないことを思い知らせるだけでいい。


 打合せしたわけではないが、常盤橋の東と西から攻める。


 一撃で十数匹の影を切り倒す。


 斬撃をくらった影は針で突かれた風船のように霧消する。風船ならば破裂の音がうるさいだろうが、影なので音がしない。


 数撃食らわせたところでブリンダと交差し、彼女の得物が、いつものサーベルでも得意のコルトの二丁拳銃でもないことが分かる。


「ロッドか!?」


 思わず声に出る。


 ほんの刹那の間だけど聞こえてしまったのか、ブリンダの頬が一瞬で染まる。


「うっせー!」


 ロッドは魔法少女のデフォルトの武器だ。


 たいてい先っぽに星だとかハートだかが付いていて、振り回すたびに星屑とかのエフェクトがついて、とてもファンタスティック。


 影が密集している間は、エフェクトは隠れて見えなかったが、行列の周辺を排除してみると、その柔軟剤のCMっぽいキラキラが、とても……笑わせてくれる。


 プ( ´艸`)


「わ、笑うな!」


「どうしたの、それぇ?」


「と、とっさにこれしか出てこなかったんだ(-_-;)」


「かわいいよ(^▽^)/」


「か、かわいいゆうな!」


 セイ! とりゃあ! とおおお! とららら!


 掛け声まで可愛らしくなってきている。


 魔法少女の武器は、それに相応しいモーションや掛け声がある。


 武器に合わない掛け声では、十分な働きができない。


 デフォルトのロッドやスティックは、可愛い系なので、クラスが上がると使いたがらない魔法少女が多い。


 アメリカ建国以来250年の経歴を持つブリンダは、さすがにきまりが悪く、技にキレがなくなってきている。


 ゾワワワワワワ!


「ブリンダ、敵の数が増えたぞ!」


「く、くそ!」


「ロッドに合わせたアクションをしなきゃ、効果出ないぞ!」


 ……………。


 一瞬無言になったかと思うと、シュルシュルっと常盤橋上空百メートルほどのところに駆け上った。


 しゅぱーーー!


 めちゃくちゃ懐かしいお花のエフェクトを放射しながら旋回すると、フリフリミニスカートのコスに変わった。


 これがブリンダのデフォルトか!?


 感動した。


 てっきりアメコミヒロインのように、ピチピチのボディースーツの胸にSだかBだかのイニシャル付けて、赤いマントを翻しているかと思ったら、まるでセーラームーン、いや、ランドセルを背負わせたら星屑ウィッチメルルでも通りそうな可愛らしさだ!


「は、早打ちブリンダ! は、はっじっまっるよおおおおお(#^_^#)!!」


 パチパチパチ


 思わず拍手してしまう。影たちも呆気にとられたのか、一瞬動きが停まって、中にはズッコケて川に落ちて消えてしまう者もいた。


「く、くそ、こっちだって恥ずかしいんだからねえええええ!」


 ええい、これでもくらえ! ブリンダスマアアアアアアッシュ!


 上空で旋回してロッドを振り回すと、幾千万のピンクのハートが降り注いで、あらかたの影たちを消滅させてしまい、残りの影たちは橋の東西へと逃げ散った。


 むろん、摂政殿下の行列は無事に被災地に向かっていく。


 この行列の中に霊感の強い侍従見習いの青年が居て「常盤橋に差し掛かると、桃色の童女が上空に現れ殿下の御行列を祝福する幻を見ました」と述懐し、その後優れた童話を世に出すことになったと知るのは、全てが終わって、元の令和の時代に戻ってからのことだった。


※ 主な登場人物

•渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

•要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

•藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

•野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

•安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

•来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

•渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

•ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

•ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物

•高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

•春日         高坂家のメイド長

•田中         高坂家の執事長

•虎沢クマ       霧子お付きのメイド

•松本         高坂家の運転手 


 


 

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