第149話『草加の茶屋・2』


魔法少女マヂカ・149


『草加の茶屋・2』語り手:マヂカ   






 友里もわたしも調理研なので頑張ってみる。




 茹でて味噌汁の中に入れてみる。あるいは焼いて味噌汁の中に入れてみる。


「う~ん、美味しいことは美味しいんだけど」


 茶店のオバサンは屈託ありげに椀を置く。


「時間がかかり過ぎるね、注文とって、焼いていたらお客がしびれを切らす」


「そうよね、街道の茶屋って、ほんの休憩に腰を下ろすだけだし、お客の回転率もねえ……」


「そうだな、見かけもお雑煮みたいだし、お雑煮を期待して食べると、ちょっとガッカリかもな」


「他のを考えよう……」


「油で揚げるというのは、どうかなあ」


 かまどに油を入れた鉄鍋を掛け、団子を揚げてみる。


 きつね色に揚がったところに大根おろしをかけて醤油を垂らす。


「うん、美味しい!」


 感激はしてくれるが、次の瞬間にはお箸をおいてしまう。


「焼くよりは早いけど、やっぱり手間がねえ……値段も、団子の五割り増しにはなってしまうよ」


 あれこれ手を尽くしてみるが『美味い! 早い! 安い!』のファストフードの三原則を満たすのは簡単なことではない。


「平和になったら、調理研の有りようも考えるとするか」


「うん、だよね……」


 無力感に苛まれたのか、友里は縁台に、ドスンと腰を下ろす。


「フギャ!?」


「どーした?」


「あはは、縁台に転げてた団子がペッタンコだよ(*´∀`)」


「たいしたケツ圧だ……待てよ!?」


「なんか、閃いたのかい?」


 オバサンが興味深げに押しつぶされた団子と、わたしの顔を交互に見る。


「こうすれば、いけるかもしれないぞ!」




 オバサンに七輪と網を借りて、友里のケツ圧でペッタンコになった団子を焼いてみた。




「あら、いい匂い」


「いけるかもお……これって……!?」


「そうだ、これは煎餅だ! そうか、草加煎餅だ!」


 焼けた煎餅を草加名物の醤油を浸して、二度焼きすると、アッパレ草加せんべいの誕生とあいなった!




☆ ピンポンピンポン!!




 ミッションコンプリートのサインが鳴ってバリアーが消えた。


「ありがとう、草加名物が増えたよ、明日っからは余った団子に悩むこともないよ!」


 オバサンに感謝されながら茶屋をたって、まだ温みの残る煎餅の包みを懐に街道を進んだ。




 ズシーーン! ズシーーン!




 茶屋が見えなくなったころ、道は『つ』の字に曲がって、曲がった向こうから大きな地響きが聞こえてきた。


「なにか来る!」


「そこの藪に隠れるぞ!」


『つ』の字を右回り姿を現したのは荒川を渡って見かけた怪物だ。


「大きくなってる!」


「ああ、前はガンダムほどの大きさだったがな」


「初代ゴジラほどはあるよ」


「とにかく、気づかれないことだ」


 友里と二人、息を潜めて怪物の通過を待つ。


「なんで、紅白のダンダラなんだろ……こんなに禍々しいのにい、怪物とか魔物だったら、もっとらしくしなさいよお」


 友里が無理を言う。


「シッ、聞こえるぞ」


「ごめん!」


 怪物は、藪の前で立ち止まり、小さな首の小さな鼻をクンクンさせ始めた。


「なんだろ?」


「あ……草加煎餅の匂いだ!」


「ふぇ?」


「せんべいの包みは置いていけ、逃げるぞ!」


「え、まだ食べてないよ」


「煎餅といっしょに食われるぞ!」


「やだあ!」




 二人そろって包みを投げ出して、一目散に逃げだした。


「あんなちょっとのせんべい、一瞬だよ」


「しないよりはマシだ!」


 チラリ振り返ると、なぜか怪物に見合った大きさになった煎餅を両手に持って、怪物が喜んでいるように見えた。


 バリバリ バリバリ


 煎餅を齧る音が、しばらく耳について離れなかった。


 

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