第141話『なめくじ巴はどっち巻き?』
ライトノベル 魔法少女マヂカ・141
『なめくじ巴はどっち巻き?』語り手:マヂカ
中央通を渡って西へ、湯島聖堂の緑青を噴いた大屋根を見当に歩いて行く。やがて右手に大鳥居が見えてきて、これが神田明神の正面だ。
普段は東側から男坂の階段を上る。
アキバからの最短ルートであるだけでなく、階段を上るというロケーションがアニメの絵面としては出来ていて、『ラブライブ!』ではドラマの重要な舞台になり『ラブライブ!サンシャイン!!』では聖地になっている。
しかし、単に絵面がいいと言うだけでなく、東の男坂がいわば神田明神の勝手口であり、神や神に準ずるものは大鳥居から入るのが作法とされているのだ。
司令からの指令と洒落ているわけではないが、言いつけ通り正面の大鳥居を潜る。
「急な呼び出しにもかかわらず、お運びいただきまして有難うございます」
巫女さんが頭を下げて出迎えてくれる。
「あ……いつもの巫女さんじゃないんだ」
「はい、アオさんは男坂の巫女。正面大鳥居は、このアカが受け持っております。まずは、これへ……」
アカ巫女が左側の甘味処を示すと友里が声をあげた。
「あ、高坂穂乃花の実家!?」
「え、そうなのか?」
千年の歴史を生きてきた魔法少女は、そこまでは分からない。やはり、いまを生きている女子高生にはかなわない。
アカ巫女の後を付いて店内に入ると、「いらっしゃいませ!」と看板娘が出迎えてくれる。茶髪だが頭の小さなサイドポニーテールが可愛い。
「穂乃花だ……」
ペコリと頭を下げて友里が喜んでいる。
外からは分からなかったが、内暖簾の中は一間幅の廊下が奥まで続いている。
二回角を曲がったところに『ここより中奥』と表示があって、アカ巫女が「お着きいーーー」と声をあげ、同時に杉戸が開けられる。
さらに、二回廊下を曲がって広書院に出た。
「しばしお待ち願います」
アカ巫女がお辞儀をして去っていくと、数秒の間を開けて、神田明神が出御して上段に収まった。
「すまんな、わざわざ呼びつけて。ダークメイドは取り逃がしたようだが、黄泉の国では大層な働きぶりであったと聞いておる。おお、ひょっとして、それがジャーマンポテトだな。まずは、それを頂いてからの話にしよう。たれかある、酒と取り皿を持て!」
パンパン
神田明神が鷹揚に手を叩くと、アカ巫女が三方に載せた酒と取り皿を捧げ持って現れた。三方と徳利には神田明神のなめくじ巴の紋所が付いている。
わたしが目を留めたせいか、アカ巫女がチラリと三方を気にした。
「ささ、ジャーマンポテトをこれに入れて、三人で頂こうではないか。まずは近う寄れ」
――え、いいの?――
友里が心配な顔をするので、わたしの方から近寄る。
いちおう小笠原流の作法で、将軍に招かれた地方大名のように礼は尽くしておく。それに倣ってオタオタと友里が……ドテ! こけた。
「あいた!」
「とんだ無作法を」
友里の代わりに頭を下げる。予想通りアカ巫女の鼻が動いた。
「よいよい、無理にジャーマンポテトを無心したのは、このワシじゃ。作法にこだわることは無い」
もう一度三方に目をやって紋所を確認する。
「おや、紋所が……?」
「いかがいたした?」
「友里がこけるまでは、御紋のなめくじ巴は右巻きであったように……」
「気のせいであろう、紋所がころころ変わったりはせんであろう」
「いや、ですから。神田明神の紋所は右巻きが正しいのでございますが……」
そうなのだ、もともと紋所は正しく右巻きであったが、わたしが見咎めることでカマをかけると、アカ巫女が、その都度紋所の巻き方を逆にした。三回見咎めたので、紋所は逆の左巻きとなっている。
それに、なめくじ巴は俗称であって、神田明神や、その巫女が俗称で呼ぶことを咎めぬわけがない。
正しくは、流れ三つ巴なのだ!
「しまった、見破られた!」
ドロンと煙が立って、あたりは真っ白になってしまった。
白い煙が収まると、そこは、中央通の交差点だった。
中央通に出たところから化かされていたとは気づかなかった。
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