第103話『太田道灌に正体をバラされる!』

魔法少女マヂカ・103  

『太田道灌に正体をバラされる!』語り手:マヂカ 





 マヂカ殿お! 魔法少女マヂカ殿おお!



 こともあろうに、太田道灌はわたしの真名を叫びながら駆け寄って来るではないか!?


 いや、落ち着け。


 あの太田道灌は駅前の銅像、きっと妖の一種に違いない。妖の一種なら、サムはともかく友里たちには見えないはずだ。


 ここは知らんぷりを決めるに限る(-_-;)。


「え? え?」


「なんかの撮影?」


「大河ドラマ?」


「沢尻エリカ分の撮り直し?」


 友里たちが騒いでる。なんで? 見えてないはずなのに?




「おお、間に合った! 一瞥以来でござる」




 たしかに五百年前に会っている。


 まだ駆け出しのころ、このあたりに庵を結んでいたときに、俄かの雨に遭って、太田道灌が傘を借りに来たことがある。


 若かったわたしは(今だって若いんだけど)ちょっとした悪戯の気分で一枝の山吹を差し出してやった。


「いや、俄かの雨に出遭うて難渋しておる、蓑があれば拝借したいのだが」


 わたしは、いっそう頭を下げて枝を捧げ持つ。


「え、いや、だから、蓑が借りたいのじゃが……」


「…………」


「ええ、要領を得ん。是非もない、濡れていくか……邪魔をしたな」


 城に帰った道灌は老臣にたしなめられた。


「殿、それは『後拾遺和歌集新釈 下巻』の古い歌に事寄せたナゾにござりまするぞ」


「なんじゃ、それは?」


「後拾遺和歌集新釈 下巻には、こうありまする『七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき』 この山吹の『実の』と『蓑』をかけておりまする」


「ん……そうか、お貸しする『蓑』が無くて悲しいというナゾであったか!」


「ご明察!」


 実は、可愛そうになったので、道灌さんより先に城に行って、昼寝していた老臣に睡眠学習させておいたんだけどね。


 いや、わたしも詰まらない悪戯をしたもんだ(^_^;)


 素直な殿様だったんで、その後の妖怪退治で素性を明らかにしたんだけど、この律義者は、憶えていてくれたんだ!



 いや、感動してる場合じゃない。あっさりと、わたしの素性を叫ばれてはたまらないわよ!



「双子玉川に竜神が現れて、暴れておりまする! おそらくは、先般の台風で力を得たものでござろう。捨て置けば鎌田・玉川・等々力あたりに害をなすと思われる、よって、身は郎党どもを引き連れて成敗に向かいまするが、マヂカ殿にも御助勢願いたい!」


「あ、えと、えと……」


 おたつくわたしを押しのけて、サムが前に出た。


「心得た! 異世界の住人ではあるが、わたしも魔法少女のサマンサ・レーガン! すぐに装備を整え、マヂカ共々御助勢に向かいましょう!」


「おお、それは心強い! では、それがしは先に!」



 クルリと馬首を巡らして、太田道灌は西を目指して駆け去った。



「え、えーと……」「どーいう……」「こと……?」



 戸惑う友里たち。


 くそ! もう誤魔化しがきかないぞ(;゚Д゚)!

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