第81話『M資金・18 F1幻想・1』

魔法少女マヂカ・081  

『M資金・18 F1幻想・1』語り手:ブリンダ 





 身体が憶えていた。



 数十台のF1が一斉にエンジンをふかす轟音! エギゾーストから吐き出されるガソリンがたぎる匂い! レーサーたちのヘルメットから零れる闘志! 万を超える観客の声援! そういうものが混然一体となってサーキットの空気を震わせる!


 たまらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!


 正式なF1レースは1950年代に始まるが、その萌芽は1906年のGrand Prix de France(フランスグランプリ)だ。


 オレは豊満な胸を日本のサラシを巻いてペッタンコにし、腰まで届こうかというブロンドのロングヘアーをバッサリ切って、ブリトン・サンダースと偽って参加した。


 人間のレースに魔法少女がエントリーして優勝するわけにはいかない。最終コーナーで意図的にミスやトラブルを起こして勝ちを譲っていた。


 そのころの記憶が、まざまざと蘇ってくる。


 アクセルを八分に抑えてエンジンをふかす。マックスでは、かえって初期加速が鈍るのだ。


 フラッグが振られて、全車一斉にスタートをきる!




 ブオーーーーーーン!!




 メカニックの行き届いた整備もむろんだが、オレのテクニックも世界一だ! 魔法少女の集中力は、平均で並の人間の十倍はあり、身体能力は100倍だ! これに匹敵するのは魔法少女の男版であるスーパーマンくらいのもので、このブリンダは、その魔法少女の中でも抜きんでている。負けるわけなない! 負けるわけにはいかない!!


 行くぞ! 第一コーナー!


 キュンキュンキュン! キュキュン!


 完璧なドリフトで、二位以下を引き離し、500フィートの直線コースに踏み込む!


 いっけーーーーーーー!



 ブロ ブロロローーーーーーーーン!!



「ブ、ブリンダああああ! いいかげんにしろおおおおお!」


 マシン(車)が喋った……そうか、オレの闘志が感応して、マシンにも魂が宿ったか!


 任せておけ、わが愛車! 酷使はするが潰しはしないぞ!


 このレースが終われば、おまえはF1ミュージアムに永久保存されるぞ!


『おちつけブリンダ!』


 ん?


 バックミラーにブロンドの少女が現れて目を三角にしている。こいつ、大人しくしていれば、そこそこの美少女なのに、なんで、そんなに機嫌が悪い?


『これは、カオスにのせられて、ブリンダが作った妄想だ!』


「妄想? 妄想上等じゃねーか! このままブッチギリでいっくぞおおおお!」


 ブウォーーーーーーーーーーン!!


『『キャーーーーーーーーーーーー!!』』


 二人分の悲鳴がすると、マシンも大人しくなり、バックミラーの美少女も姿を消した。


 いける! いける! 二位のマシンを周回遅れにしてやった!


 掟を破ることになるけど、魔法少女が一生に一回くらいトップになってもいいだろう? いいよな! いいよなあ!



 最終コーナーを周って、ホームストレッチ中ほどのゴールが見えてきた。



「「いかげんにしろおおおおおおおおおおおおおおおおおヽ(`Д´)ノ!!」」



 二人分の怒声がしたかと思うと、オレは、ジェット戦闘機の緊急脱出のようにシートごと空中に放り出された!


 


 

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