第43話『そのあくる日』

魔法少女マヂカ・043  


『そのあくる日』 語り手:マヂカ  



  お、おひゃよう。


  声が裏返りそうになる、いつもの挨拶なのに。


「どうかした?」

「ううん、てか、友里、昨夜は試験勉強とかがんばった?」

「え、あ……アハハ。やろうと思ったんだけどね、お風呂あがったら、そのままバタンキューでさ。でも、まあ、現国だから、なんとかなるっしょ」


 やっぱ、昨夜の出撃が応えてるんだ。


 傀儡になっていたから、当然昨夜の記憶はないだろう。でも、初出撃の疲労は残っているはずだ。

 ひょっとしたら、今日は休むかもしれないと思った。

 期末考査に入っているので、万一待ち合わせに間に合わなかったら、そのまま学校に行くと決めてある。へんにメールとかして気を使ったり時間を取られたりしないために友里とは申し合わせてあるのだ。ポリコウ(日暮里高校)は進学校なんかじゃないけど、勉強とか試験とかいうことになると昭和的な生真面目さのある学校なのだ。だから、友里と二人の取り決めは自然なことなんだ。


 交差点の向こうに友里の姿が見えたときは、大げさだけど感動した。


 魔法少女のわたしでも、昨夜の出撃は堪えた。乙一の水龍だったけど、最初は押され気味になってしまった。ブリンダと呼吸が合わなかったんだ。数回アタックして広島沖の瀬戸内海で撃破したときは、二人ともズタボロになっていた。バトルスーツは初出撃でお釈迦になってしまった。綾香姉(ケルベロスの義体)が作ってくれたドリンクが無ければ、疲労と興奮で朝まで眠れなかっただろう。

 わたしでもこうなんだ。だから、人間の友里がいつものように大塚台公園の前で待ってくれているのを見て、ウルっと来てしまったんだ。


「えと……なんで、蒸気機関車見てんだろう?」


 気が付くと、公園の中で静態保存されているC58の前で立ち尽くしていた。

「アハハ、これって、もとは北海道走ってたSLだから、北海道とか旅行に行けるといいかなって? 潜在意識かな?」

 我ながら苦しい言い訳をする。

「そだね、こんなのに乗って調理研のみんなで旅行とか行けるといいね」

 なんとか誤魔化せた。たった一度の出撃だったけど、師団機動車『北斗』には愛着が出てきたんだ。


「三両目じゃないの?」


 ホームの乗車位置を変えた。五両目なら友里一人分座席が空いていることをサーチしたから(反則なんだけどね)。

 シートに座ると、友里はノートを出したまま寝てしまった。少しでも勉強しておこうという気持ちも大事にしてあげたかったけど、日暮里に着くまで寝かせてあげた。

 学校に着くとノンコが遅刻。清美は休みだ。清美は砲雷手で、一番神経が張り詰めていたからなあ……申し訳ない。

 試験が始まると、十分で友里は寝てしまった。答案は半分ほどが空白のままだ。

 いけないことなんだけど、七十点くらいになるようにテレキネシスで答えを書いておいてやる。ノンコにはなにもしてやらない。いじわるなんかじゃない。最初から寝てしまったノンコの答案を書いてしまったら怪しすぎるでしょーが!


 来栖師団長のゴリ押しで始まった特務師団。始めざるを得ない状況なのは分かる。でも、このままじゃもたないぞ……。

 書き終えて裏返しにした答案の上にサッと日差しが被る。

 窓の外、空を見上げると梅雨末期の雨雲が切れて、お日様が顔を出したのだ。


 きっといい方向にいくさ! そうゲン担ぎをしておいた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る