第14話『神田明神の介入』
魔法少女マヂカ・014
『神田明神の介入』 語り手・マヂカ
ジャンケンに負けてジュースを買いに行く途中だった。
いそいそと一階の廊下を突き抜けて、食堂横に並んでいる自販機を目指す。
あれ? 保健室の手前の部屋から白い手が出てきて手招きをしている。
妖(あやかし)!
そう思って身がまえると、とたんに、手はチガウチガウをするではないか。
たしか、そこは倉庫のはずなのだが……そーっと近づいたが、わずか一センチほどの隙間からは中の様子が分からない。
警戒しながら引き戸に手を掛ける、スーッと引き戸が開く。
中は桜色に霞んで様子が分からないが、数メートル先に手首だけが浮いていて、人差し指でオイデオイデをする。
邪悪なものは感じなかったので数歩進むと、桜色の霞が晴れて、目の前に巫女さんが立った。
「神田明神のお使いで参りました。渡辺真智香こと魔法少女のマヂカさんですね」
「そうだけど、何の用?」
「ジュースを買って、お仲間に渡したら、ただちに神田明神までお越しください」
「神田明神って……あの、神田にある?」
「はい、かならず正面の鳥居からお入りください。脇の階段から入ってしまうと別のドラマが始まってしまいますから。それと、先日、ブリンダさんから巻き上げた戦利品を必ずお持ちになってくださいませね。それでは、あなかしこあなかしこ~」
それだけ言うと、アルカイックスマイルでさよならさよならをして消えてしまった。
巫女さんが消えると、部屋は埃っぽい倉庫に戻った。
そうだ、ジュースジュース!
倉庫を出ると廊下にケルベロスが居た。
「おまえ、犬の姿の時は四つ足になってろよな」
ケルベロスは、中年の刑事のように窓に寄り掛かり、思案顔で立っていたのだ。
「どうやら横やりが入ってしまった。いいか、神田明神は魔王様でも手が出せない。いい子にしてるんだぜ」
「魔王は神田明神に借りでもあるのか?」
「魔界にも仁義ってもんがあるんだ。くれぐれも無礼の内容にな」
それだけ言うと、ケルベロスは犬らしく四つ足にもどって校舎を出て行った。
「悪い、野暮用ができてしまった。ジュースはオゴリにしとくから」
ジュースのパックを机にのせると、ポカンとする調理研の三人を置いて学校を出る。
ポケットの中に戦利品があることを確認して日暮里から電車に乗る。鶯谷、上野、御徒町を過ぎて秋葉原。一度は行ってみたいと思っていたアキバに背を向けて反対側の神田明神を目指す。
なるほど、気持ちのままに進んでしまうと外神田から男坂の大石段のところに出てくる。
ファイトォ ファイトォ
後ろから運動部みたいな掛け声がかかって来るので、振り返ると『観客動員数1,000万人突破!興行収入も145億円!』のキャプションを背負ったジャージ姿の女子高生が駆けてくる。
なるほど、これを追いかけたらスクールアイドルのドラマが始まってしまう。
ぐるりと回って大鳥居。潜ったところに、さっきの巫女さんがニコニコしている。
「まずは、手水舎で清めてくださいませ」
「清める?」
いっしゅん裸になって水ごりでもするのかと思ったら、口を漱いで手を洗うことだった。
「まず、右手で柄杓を持って水を汲み、左手にかけて左手を清めます……次に柄杓を左手に持ち替えて、同じように右手を清めます……その次に柄杓を右手に持ち換え、左の手のひらに水を受け、その水を口にふくんで……あ、飲んではいけません」
慣れないもので飲んでしまった!
「……粗忽者」
すぐ横で気配。チラ見するとブリンダが手馴れた様子で同じことをやっている。
「お、おまえも!?」「魔法少女たる者、これくらいの作法は身につけておけ」「なにを!?」
「御神前です。いさかいはなりません」
「やーい、叱られてやんの」
「ブリンダさんも挑発してはいけません」
「フフ」
互いにガンを飛ばしあい、いっしょに一礼をして鳥居をくぐった。
鳥居を潜ると、それまで見えていた参拝者や観光客の姿が消えて、拝殿の前には赤糸縅の大鎧を身にまとったオッサンが立っていた。
「神田神社御祭神の平将門さまであられます」
巫女さんが恭しく紹介をする。
「魔法少女マヂカとブリンダであるな」
「「は、はひ」」
二人そろって声が裏返ってしまう。
「まずは、戦利品の交換をいたせ」
「「あ、えと……」」
御祭神とはいえ、オッサンの目の前にさらすのは恥ずかしい。
「さっさといたさぬか!」
「「は、はい」」
ソロリとポケットから出す。
「神田明神が見届けるのだ、高々と掲げよ!」
「「は、はひ!」」
縞柄のブラと花柄のパンツを聖火のように掲げる。
「それぞれに歩み寄り、静々と交換いたせ!」
言われた通りに歩み寄って、おりから起こる『勇者は帰る』の演奏付きで交換をする。
「よし、されば申し渡す。この東京の街は我が神田明神の支配地である。この地の安寧を預かる者として、その方ら魔法少女の武力衝突を看過することはできん。されど、宿怨の仲であるお前たちに無条件の和解を誓わせるのも味気なく無意味なことである。よいか、これからは、互いに善行を積むことによって勝負といたせ。その旨、儂の方からも魔王に申し入れておく。両名とも、これよりは世のため人の為に善行に励むよう、善行であるならば、多少の魔力の使用は認めてやる。よいか」
「「は、ははーー」」
「では、両名とも励めや! 競えや! あなかしこあなかしこ……」
ヘビメタのライブ百回分くらいの雷鳴がとどろき、電光が駆け巡った!
ピカーーードロドローーン!!
キャーーーー!
魔法少女らしからぬ悲鳴を上げて、不覚にもブリンダと抱き合ってしまった。
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