第10話『馬』

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・010


『馬』 語り手・安倍清美   




 ポリコウの勤務が三か月延びたのは嬉しい。



 現場にいることで、家族や友人たちに感じるひけ目が少なくて済む。


 講師を首になったら、ただの就職浪人よ。

 当然バイトやって定期収入と言うのを確保しなきゃいけないし、なんだフリーターかっちゅう世間の目にも耐えなきゃならない。


 たとえばよ、コンビニのレジをやったとする。


「いらっしゃいませ~、お弁当は温めますか~」


 とか愛想振りまいて、お客が教え子だったりすると、すっごく気まずい。でしょ!?


 マジ、半年前、講師の契約切れてコンビニのレジやってて、前任校の校長が来た時は困ったわよ。


 コンビニならまだいいわよ、ミニスカ履いてポケティッシュ配って「お願いしま~す」って、渡した相手が先月まで教えてた子だなんて悪夢でしょ。


 アキバのバイトでさ、「お帰りなさいませ、ご主人様~」とか言って、それがポリコウの関係者! ゲシュタルト崩壊してしまうっちゅうの!


 バイトの範疇にアキバのメイドが入ってるのがどうかと思うけど、ん年前までは現役のメイドだったし。


 しかし、やったバイトしか浮かんでこないっちゅうのは、三十四歳にして脳みそが縮み始めてるとか?


 ま、そういう心配を三か月はしなくていいというのはラッキーなわけさ。




 でもなあ……そのために、受験勉強が疎かになる。いやいや、疎かにする気持ちなんて、これっぱかしもないんだけど、やっぱ、時間も気持ちも仕事に取られてしまうっしょ。


 受験勉強と言うのはね、東京都の教員採用試験なんよ。


 三十五歳までに合格しないと実家に呼び戻される。それだけは絶対避けねばならぬのだ。


 うう~二律背反じゃあ。



 安倍先生



 誰か呼んだ? この声、こないだの……。


 目玉だけ動かして声の主を探す。黒犬は居ない……。


「こっちこっち」


 目をあげると、なんと太田道灌の銅像の馬が喋っている!


「銅像を見上げていれば、それほど不自然ではないでしょう」


 え、こないだのは不自然? て、誰かに見られた?


「明日、学校で二つの事を依頼されます。必ず引き受けてください。マヂカのためばかりではなく、先生ご自身のためでもあります。よろしいですね、二つの頼まれごとです」


「って、どんな?」


「では、よろしく……」



 馬は、一瞬で銅像に戻ってしまった。


 えと、喋ってる間も銅像なんだけど、憑りついているケロケロだかが居なくなったことは分かるんだ。


 えと、まあ、そういう体質なんだ。


 で、頼まれごとってなんだろう……。




☆ 主な登場人物


マチカ(マヂカ)     魔法少女としてはマヂカ、日暮里高校2年B組の渡辺真智香として72年ぶりに復活


ユリ  要海友里     マチカのクラスメート


ノンコ 野々村典子    マチカのクラスメート


清美  藤本清美     マチカのクラスメート


安倍晴美         日暮里高校の講師


ケルベロス        魔王の秘書 魔法少女世話係 黒犬の姿だがいろいろ変身して現れる


田中先生 田中実     2年B組の担任


 

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