揺れる心-5

「リゼット、あなた、ゲオルグが嫌いなの?」

「えっ……」

「だって、随分熱心に文句を言うんですもの」

「嫌い……というわけでは、ありませんけれど……」

 寝巻き姿でベッドに寝転んで、無邪気な顔で自分を見るアーシュラに、長椅子をアーシュラのベッドの隣に運んできて自分の寝る場所を作っていたリゼットは一瞬言葉を失うが、少し考え込んだ後、フッと真面目な顔に戻って、おもむろに口を開いた。

「悪い人ではないと思いますけれど、ああいう軽い感じの方、殿下の友人として相応しいとは思えません」

「ふぅん……軽いかぁ。そんな風には思ってなかったわね」

「軽いです! 口ばっかりです!」

「ムキになるわね、珍しいこと」

「それは……」

 悪戯っぽくニヤニヤと笑うアーシュラに、リゼットは困ったように口ごもった。確かに、ちょっとムキになってしまったかもしれない。

 別に、決して、嫌いではないのだ。自分は、むしろ――……

「そういえば、いつも見送りをお願いしているのよね。色々話す?」

 思考の深みにはまりかけたところを、アーシュラの言葉が引き戻す。リゼットはハッとして考えをかき消す。

「まぁ……少しは……」

「わたくしのこと、何か言って?」

「殿下のことは…………お姫様だ、って」

「……その通りね」

「その通りです」

「つまんないの……」

 興味津々といった風に寝台から身を乗り出していたアーシュラは、ガッカリした様子で脱力する。

 部屋のシャワーを借りるためにお仕着せを脱いでいる途中だったリゼットは、たたんだエプロンをグッと握りしめ、

「殿下には、やっぱり、あんなちゃらんぽらんな方ではなく、エリン様のように、見目麗しくって、気品があって、お喋りでなくて、きれいで、頼りになる方が……いいと、思いますっ!」

 そう、カーペットに座り込んで力説した。

「エリン?」

「そうです! 初めてお会いした時から、私、お二人はとってもお似合いだと」

「エリンねぇ……」

「父からは、歴代の皇帝の中には、剣を愛した方もいらっしゃったと聞いております」

「そりゃあ、剣を愛さない主は居ないわ?」

「そうではなく、個人的に……異性として愛していたというお話です」

「個人的……異性……」

「そうです。お二人は本当にいつでも一緒で、ご家族の皆様よりもずっとずっと近くにいらっしゃいますから。恋人同士、なんて生ぬるい言葉じゃ表現できないなって、思えちゃうんです」

「そうねぇ……」

 大真面目なリゼットに、腑に落ちない様子で考えこむアーシュラ。

「もちろん、あの子はわたくしの半身だもの。愛しているわよ。他の誰かと比べたりは出来ないくらい。だけど、わたくし――」

 皇女は、華奢な足をバタバタさせて、とろんと熱を帯びたような目で天井を見つめ、独り言のように呟いた。

「好きになっちゃったみたいなのよね。ゲオルグのこと」

 甘い秘密を囁いたその声に、リゼットは目を見開き、ただ、黙り込んだ。

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