第3話 相談員驚く

魔法で増幅されたタイロスの声に圧倒的されながらも、ルイスは続けた。


「大賢者タイロス殿。この度はマールベルグ王の命により、参上いたしました。数ヶ月にわたるタイロス殿との音信不通、魔法扉ポータルの不具合、及び王の使いの消息不明についてお伺いしたい。それに外は吹雪にて、帰れと申され……」


「なに、マールベルグじゃと?」


扉が開いて姿を現したのは、寝巻き姿で、白髪はボサボサ、白髭も延び放題の痩せこけた老人だった。

寝巻きはいつ洗ったかもわからないような汚さで、異臭も放っていた。


「どれ、マールベルグはどこじゃ?」


辺りを舐め回すように見たあと、ルイスと目があった。


「誰じゃ、主は」


ルイスは膝まづいて畏まりながら、挨拶をした。

「私は、王立療養所の魔術師、ルイス・ボイスであります。本日は、マールベルグ王の命により……」


「魔術師じゃと?魔術師がなんの用じゃ、ワシは用はないぞ!」


タイロスは急に怒鳴り出すと、部屋を出ていってしまった。


「スパイダー!変な奴が来ている!追い出せ!」


扉の奥でタイロスが叫ぶと、「タイロス様、私はスパイルですよ」と若い男の声がした。


シャカシャカと音がして、現れたのは、下半身が蜘蛛のそれになっている若い男だった。


「いらっしゃいませ、ルイスさんとおっしゃいましたね。まずは紅茶をどうぞ。吹雪の中大変でしたでしょう」


そういうと、蜘蛛男は濡れネズミの状態のルイスにタオルを手渡した。


「え、あなた、は?」


呆気にとられているルイスに、蜘蛛男は笑いかけた。


「はは。驚かれるのも無理ないですね。安心してください。私はれっきとした人間です。ただ、我が師のタイロス様に呪いをかけられまして」


蜘蛛男は、スパイルと名乗った。

数ヶ月前から様子がおかしいタイロスに、「お前はスパイダーだ!」と突然に言われて、下半身が蜘蛛になる呪いをかけられた、と話した。


「呪いを。それはおかわいそうに……」


事情を飲み込めたルイスは、スパイルの差し出したタオルを受け取り、頭を拭いた。床を見ると、マントに降り積もった雪が溶けて、水溜まりになっていた。


「いえ、私はまだ良い方です」


と、スパイルは出てきた扉と反対の扉を開けた。


部屋の中は、檻や水槽、植物に溢れていた。


「一番弟子のハートさんは、熊にされました」


檻の中の熊が悲しげに吠えた。


「二番弟子のスビーさんは、巨大なナマズに」


巨大な水槽のナマズがゴポゴポと泡を口から出した。


「三番弟子のカライさんは、オーガにされて、外に放り出されました」


ルイスは、もしかしたら、ここに来る前に遭遇したオーガかな?と思った。


弟子が何人も動物や植物にされている。とスパイルは話した。


「弟子だけじゃありません。身の回りの世話をしついた使用人なども、皆です。ですから、今は末弟子の私が一人でタイロス様の身の回りの世話をしている次第です」


ルイスはスパイルの話を聞いてきて、奥の壁にある石像が気になった。


「あの石像は?」


「ああ、あれは、タイロス様に意見を求めに来た冒険者です。石にされてしまいました。それと、王の使いと話されていた方も」


ルイスには、冒険者や王の使いが戻って来ない理由が、ようやくわかった。


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