王立療養所~大賢者は認知症~

ghostwriter

第1話 相談員走る

冬の訪れを知らせる氷狼フェンリルの遠吠えを聞きながら、ルイスは防寒マントの襟を立てた。

めっきり朝晩が冷え込み、あと数日もすれば雪が降るだろうというこの日、ルイスは王国の端にあるタイロスの搭に馬を走らせていた。

魔法扉ポータルを施した扉で、一瞬でたどり着けるはずなのだが、ここ数ヶ月全く機能していなかった。

魔法技士が調べると、タイロスの搭側のなんらかの不具合で機能しないとのことで、魔法によるやりとりをしたが、一方的に解除され、使いを送ったがそれも帰って来なかった。

占術師が予測する大災害に対する対策を聞こうと王は思っているが、それは叶わないでいる。

ある冒険者グループがドラゴン退治のアドバイスを受けに行って帰って来ないとの噂もあり、こうしてルイスが事情を聞きに直接タイロスの搭に向かうことになった。

タイロスは大賢者だ。

若かりしマールベルグ王と一緒に冒険をし、この地域に蔓延るデーモンを倒し、この地に王国を築いたのだ。

宮廷魔術師として側近にしたかったマールベルグ王だったが、窮屈を嫌がったタイロスは、王国の隅の険しい山に搭を建て、厭世の生活を望んだのだ。


「寒いな。雪が降る前に辿り着けるといいが」


ルイスは馬を急がせた。

王国は広い。王都からタイロスの搭までは少なくとも数週間はかかる。

ルイスは高レベルのテレポートが使える魔術師に依頼すれば良いのに、と王を恨んだ。


ルイスは王立療養所の相談員ケースワーカーをしている。

療養所に入るような高齢の英雄を調査し、訪問し、入所の必要があるかを療養所内の治療師ドクターに判断してもらう。


療養所には、かつてのドラゴン殺しの英雄や、世紀の大盗賊にしてダンジョン攻略のプロの盗賊、稀代な魔術を操る魔術師など数人が生活をしていた。


彼らは皆、ある病に侵されていた。

忘却病オブビリオンと呼ばれる病だ。

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