第11話 雪晴の編入試験

災害とも言える猛吹雪からしばらく。

雪乃の体調も万全に戻り、編入試験の当日となった。

この日は天気が良く、雲ひとつない空が広がっている。風は冷たいが陽が当ると暖かく、その風の冷たさも冬を感じれる心地良さがある。

午前九時、雪乃は賢志が運転する車で御山高校へと向かった。

悠誠と穂海は通常の授業なので既に家にはいないが、雪乃は一人で試験を受けることになっているため遅めの出発である。

試験開始時刻が正午、一時間ほど早く着くようにしているのは最後の試験勉強をするためだ。

雪乃が御山高校に着いた頃には十一時前。

到着を知らせるため、賢志に連れられて職員室へ向かう。


「失礼します。今日、編入試験を受ける者なんですが……。」


まだこの時間は授業中で、職員室といえど、数人しかいなかった。

雪乃達の対応をしてくれたのは五、六十代くらいの優しいおじいちゃんのような人だった。


「あぁ、三好 雪乃さんだね。校長の尾畑と言います。あと一時間くらいあるけど、どうする?勉強でもするかい?それとも校内でも見て回るかい?」

「勉強で、お願いします……。」

「真面目さんだね。じゃあ、部屋に案内するから少し待ってね。」


職員室の奥から鍵を持ち出した校長先生に連れられ、空き教室に案内された。

部屋には教卓と机と椅子が一つずつ、やかんを乗せたストーブがあるのみである。


「今、ストーブつけるから暫くは寒いの我慢してね。ちなみにお昼ご飯はどうするんだい?」

「お弁当を用意してきたのでここで食べてもいいですか?」

「あぁ、お湯も沸かしてるから好きに使ってくれたらいいよ。」

「校長先生、このあと少しお話いいですか。」


賢志と校長先生は二人で話しながら職員室へ戻って行った。


「さ、少しでも勉強しなきゃね。」


編入試験の科目は数学、現代国語、英語、理科、日本史の五科目。社会科目は、日本史、世界史、現代社会、地理、政治経済から選べる。この中から得意な科目を選べると言うシステムだ。

試験開始時刻が十二時、終了時刻が四時半頃の予定である。一科目四十五分、休憩十分のスケジュールとなっている。

試験が終わる頃に悠誠が迎えに来て、一緒に帰るように言われている。途中からは車でむかえにきてくれるらしい。家業が忙しいので、高校まで送ってくれただけでもラッキーである。


試験は、悠誠に言われるがまま勉強した甲斐もあってさほど苦労はしなかった。

解答欄はほぼ埋めることができ、自己採点では七、八割は取れている。慣れない環境と、ストーブがあるとはいえ寒い教室。

心細くなっていたのか、悠誠が迎えに来た時にはほっと安心した自分がいた。


「試験、どうだった?」

「んー、どうだろう。 でも、それなりに解けたとは思う。ほぼ埋めることもできたし。」

「なら大丈夫そうだな。今日はもう疲れただろ、暫くは勉強はいいからゆっくりするといい。」


ガタンゴトンと、電車に揺られながら。

気がつくと、いつの間にか車の後部座席で寝ていた。

多分、電車で寝てしまって悠誠が迎えに来た車まで運んでくれたんだろう。

窓の外はすっかり暗くなっていて、空に広がる星以外には街灯の光しかない。

まだ意識がぼーっとしているうちに雪乃は再び瞼を落とした。


その時、夜空に流れた光は輝いていた。


流れ星を見た気がした雪乃は、夢の中からお願いごとをした。

いつかきっと、叶いますように。

このお願いだけは叶う気がした。

だから、その時には……きっと。

ずっとわたしが知りたかった、答えに出会える気がする。


「これから、楽しいことを一杯出来ますように。」

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