2:刻印は消えず①
「……?」
マナは、カーテンから差し込む太陽の眩しさに目を覚ます。
彼女の記憶は、昨日……いや、今日の午前3時で止まっていた。そこからの記憶がないらしい。
しかし、ちゃんとベッドに寝ているということは寝ぼけながらもここが寝床だと意識できていた証拠だ。それに気づいた彼女は、苦笑しながら時計に目を向ける。
「……13時か」
結構眠り込んでいたらしい。気を使って、アリスたちが起こさなかったのだろう。
レンジュ国で寝泊まりをするようになって数週間が経つが、マナは、ザンカンの自室に戻りたくて仕方がなかった。
いつも起きれば隣にはサユナがいるのに、その生活はしばらくお預けとくれば寂しさを感じるのも仕方ない。少し、身体の奥が疼いてしまうことも、魔力回復として日常になっている彼女に音って仕方ないだろう。
このまま、風音に溺れるわけには行かない。
彼女はそれをわかっているし、彼も承知のはず。が、一度堕ちれば転げるのは容易いのも互いにわかっていた。
「……サユナ」
マナは、冷たくなったシーツを握りしめて愛する人の名前を呟く。
***
「お帰りなさい、八代先生」
ちょうど、ナノが執務室を出ようと資料をまとめているところに、彼が入ってきた。いつもの白衣姿で、ナノが言うように少し薬の香りを漂わせながら。
「戻りました。皇帝はどちらに?」
「……八代先生のが詳しいのでは?」
「なぜ。今帰ってきたところですよ?」
「……そういうことにしておきます」
八代の言葉へ威嚇するように視線を投げるが、彼にとってどうということはない。
それに気づいているナノは、手に持った書類を抱えて八代の脇を抜けようとした。しかし、
「ナノさま」
「名前を呼ぶな」
「……失礼しました、皇帝代理」
八代が掴んだ彼の腕は、すぐに振り払われる。
そのまま、ナノは無言で部屋を出て行ってしまった。
「……嫌われたものだな」
少し寂しそうな顔をした八代。この距離感は、タイル皇帝がナイトメアを結成してからだった。
元々、勘の鋭いナノのことだ。自分の父親が何をしているのか、この国をどんな風にしたいのかを敏感に察知しているのだろう。気づいているのにそれ以上のことを言わないのも、自身の立場を理解しているから。八代は、そう分析していた。
彼が必死に抵抗している気持ちもわからないわけではないが、それは八代にとって邪魔にしかならない。しかも、今組織は創設者である皇帝の手から離れ真田シンが勢力を伸ばしつつある。そうなれば、今以上にナノは「邪魔者」として組織全体に認識されるに違いない。
「……レンジュの姫と早く結ばれてくれると話が早いんだが」
それでも生かされている理由は、そこにある。
タイルよりもはるかに大国であるレンジュを制圧させるため。ナノには犠牲になってもらわないといけない。もちろん、レンジュの姫である彩華にも……。
しかし、その計画はまだ準備段階にすら入っていない。今後どうなることやら、八代にもわからないこと。
八代は思考を巡らせるも、ここでやらなくても良いだろうと思ったのか考え事をするポーズのまま部屋を後にした。
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