2013年【守田】30 看板娘の笑顔に、心まで真っ白になります。★★★★★。

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 岩田屋町の地元に根づいたクリーニング屋さんです。★★★★★。


 看板娘の笑顔に、心まで真っ白になります。★★★★★。


 守田の実家、コーヒーショップ・香にも★を五個つけてくれたお客様の、山崎クリーニング店への評価を守田は思い出していた。

 営業時間は一〇時から一九時までだが、看板娘にお願いすれば、閉店後でも無茶な注文も受けてくれます。★★★★★★★★★★。


 五段階評価を無視したレビューを守田は投稿したい気分だ。


 だからといって、アダルトビデオ業界は、やって来るなよ。

 看板娘を口説くあのシリーズには出演しないから。

 山崎千秋が無茶な注文を受けてくれるのは、守田との関係があってこそだ。


 預けていた服と交換する形で、いま着ている服をクリーニングしてもらえることとなった。

 レジカウンター席に座って、閉店後の雑務をこなしていた山崎千秋は、笑顔で快諾してくれた。


 千秋の表情が輝いてみえる分、守田の中で申し訳なさがつのる。

 店舗付き住宅に住んでいる身からすれば、閉店後にやってくる客の面倒さは知っていたのに。


 守田はレジカウンターに両手をつける。

 川を泳いでもずれなかったメガネが、勢いよく頭を下げたらずれ落ちた。


「千秋先輩、本当にすみませんね。こんな汚いものをクリーニングに出しちゃって。においもすごいですし。なんつーか、その」


「そんなこと気にしなくていいんだよ。うちの知る限りだと、これぐらいはまだまだよ。もっともっと、臭いや汚れのすごい服も綺麗にしてきたことがあるから」


 そんな風に、まだまだ下がいると言われても励みにはならない。

 守田のことをくさいとか、汚いとか思ってほしくないだけだから。


 川に飛び込んだ服を着ている以上、答えは明白だ。

 不潔と思わないわけがない。


 いくら冷静ぶっていても、当たり前のように守田はテンパっていたのだ。

 一呼吸おけたことは重要だ。あのまま田宮が乗った車をどうにかしようとしても、うまくいっていたとは思えない。

 ずれたメガネを直して、守田は少しでも嫌われないようにあがく。


「けど、閉店後なのに無理いって、非常識だし、その」


「気をつかわなくっていいよ。大丈夫、大丈夫。好きでしてるだけだから」


「いや、でも同じ客商売として、俺ならこんな神対応ができるかどうか」


「そういうの考えてる時点でいけるっしょ。やっぱり、出会ったときと変わらず、守田くんはいい子だね」


 先輩も出会ったときから変わらず、優しいですね。

 だめだ。

 やっぱり、本命の前では軽口が叩けない。

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