2013年【守田】25 聞こえてなかったんなら、もう一回言ってやるよ。
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「聞こえてなかったんなら、もう一回言ってやるよ。あんまりふざけたことぬかすなって言ったんだよ」
守田が自らを鼓舞した結果、会談の場は不穏な空気に包まれた。
勇次ほどにはチンピラっぷりを出せていなかったにも関わらず、部屋の温度は一気に数度下がっただろう。
「を? どういうつもりだ!」
大声を出しながらも、田宮は守田を睨んでいなかった。
オラオラと凄む標的を守田ではなく、沖田と定めたようだ。
「沖田さん、確かそのガキはアンタの切り札だったよな? を?」
さきほど揚げ足をとられたことに対する仕返しのつもりだろうか。
沖田を追い詰めようと、田宮はいきいきとしている。
「いまの啖呵を聞いても、私が切り札だと言った意味がわからないのですか?」
攻められているはずの当人は、冷静なままだ。
「ハッタリもいい加減にしろ! を? なにがいいたい?」
守田の視界の端で、チャンの表情が微かにこわばったように見えた。
「聞き覚えがありませんか? 我々の家業相手に、あのような台詞を吐く奴に。まさか、心当たりがないとおっしゃるのですか?」
なにかを悟ったのか、田宮は口を真一文字にして目を見開いた。
「我々のような家業の人間だ。舐められる訳にはいかないので、口をつぐみたい気持ちもわかりますよ。ですからこそ、私から白状いたしましょう」
グラスに注がれた酒を一口飲んでから、沖田は続ける。
「先日のことです。レンタルビデオ店『青春ごっこ』でアダルトビデオを借りようとしたウチの組員が、何者かに襲われた。ここで重要なのは、彼がさきほど口にした啖呵を切られたということです『あんまりふざけたことをぬかすな』と、一言一句同じです」
「情けないな沖田。巌田屋会の若頭の組が、そんなことでは示しがつかんだろうが」
伊達の説教に眉一つ動かさず、沖田は涼しい顔をしている。
切開手術をしたように、パッチリとした二重の目で、彼はチャンを見つめていた。
「そんな風に沖田さんを説教されますと、次にさらけ出すのが恥ずかしくなりますね」
「チャンさん? な、なにをおっしゃって?」
狼狽する伊達の声は裏返っていた。
「私のところも数名の組員が襲われております。その文句も沖田さんのそれと、全く同じです。偶然なのか、必然なのかで意味合いも変わってきそうですね――さて、私のところと沖田組だけが狙われたのでしょうかね?」
伊達という男が敵対組織に腰が低いのは、あからさまだ。
このままでは、沖田に説教をすることで、間接的にチャンの組を批判したことになる。
ばつの悪そうな伊達の横顔から、汗が滴り落ちた。
「――そっ、そういえば、末端の末端の組員で、ガキどうしの小競り合いがどうとかあったと聞きましたな。もしかしたら、それが沖田のとこやチャンさんのところと同じケースだったのかもしれません」
ひと息つくように、伊達が汗をぬぐう。
ハンカチを差し出しながら、沖田が伊達の尻を拭くように、フォローを入れ始める。
「叔父貴のところの組員は、近藤旭日の件から色々と敏感になっているようですからね。あえて、明確に報告をあげてこなかったとも考えられますね」
伊達の歯軋りの音を掻き消すようなタイミングで、浅倉が大きなゲップをする。
見ると、エビ以外食うものがなくなっていた。
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