エルフに転生した元剣聖、レベル1から剣を極める -Hero Swordplay Breakdown-
513 第30話:最終話12 My fangs are so long, My nails are sharper than ice
513 第30話:最終話12 My fangs are so long, My nails are sharper than ice
この時、正に奇妙なほど最適なタイミングで、ハーク達はこの場所に到達していた。
もう少しだけでも早ければ、下の者たちは地中深くの各々の居住スペースに籠ったままであり、虎丸に匂いを感知されることもなかったであろうし、また遅ければ他との合流を許していたこととなって、何処かへ去った後のもぬけの殻を調べる程度か、良くても鉢合わせによる出会い頭の戦闘にしか成り得なかっただろう。
いずれにしろ、地下施設内に潜んでいた彼らをハーク達が捕らえることができ、この人物たちだけから情報を得る機会は今この時をおいて他になかった。
ただし、これが彼らの運命にとしての観点であれば、最適とは別であったのかも知れない。
真っ二つに割れ、重力に負けて落下する分厚い合板を、ハークは背の大太刀を瞬時に抜き払い斬りつけた。
自分を含めた4人の足下を十字に斬り裂き、2つに割れた扉を更に6分割とする。
こうすることで分厚い金属扉に下の連中が押し潰されることのないようにしたのだ。
「ひっ!」
「うわあっ!?」
突然の事態に、彼らは恐れ慄きそれぞれに己の頭を抱えて蹲るのみであった。
当然であろう。前兆など微塵も無い突如の奇襲に備えられる人間など滅多にいない。それこそ、常住坐臥戦場にいる覚悟を持っていなければ不可能だ。無論、彼らの中にそんな覚悟のある者など皆無だった。
迎撃の無いそれぞれを、ヴィラデル、シア、モログ、そしてハークの代わりに虎丸が落ちる勢いを利用するようにして
「ぐっ」
「うげっ!?」
「うあっ!?」
「ぎゃあっ! な、なんだお前らは!?」
「むっ?」
ハークは己の代わりに虎丸が押し倒した人物に注視する。落下する際には位置こそ分かってはいても誰が誰だかは判別できてはいなかった。だが、どうやら当たりを引いたらしい。若い白衣を着た男だった。年齢は20歳前後に視える。
「その声……。貴様、この研究所の所長だな?」
ハークの経験上、こういった人物は己の身分を隠すものだが、眼の前の人物は一味違った。
「そっ、そうだ! いいかい、ボクは身分ある男なんだぞ!? いっ、今すぐ放さないとキミも、キミの家族も死ぬことになるよっ!」
まるで悲鳴のような金切り声だ。耳障りだが、我慢してハークは続ける。
「聞きたいことがある」
「ボッ、ボクの話聞いてたかい!? 今ならまだキミらの安全も保障してあげられるよ!? こっ、このボクが口添えすればね!」
「解った解った、では先に3つだけ伝えておいてやる。1つ、儂らはこの国の者ではない。だから、お主のどんな権威も儂らには直接関係がない。1つ、これから儂らがする質問に対し、素直に答えろ。さもなくば痛い目に遭ってもらうことになる。1つ、余計な事は口走るな。要らぬ傷を負いたくなければな。解ったか?」
「こっ、この国の者じゃあない!? キッ、キミら一体……!?」
「どうやら理解していなかったようだな。眼の前の大男が見えるか?」
丁度、対角線上には別の男を抑えつけているモログがいた。
こういった場合に、通常ならばハークは虎丸をまずダシに使ったことだろう。
ちなみに自分自身は論外だ。今の己が全く迫力に欠けることを、ハークも分かっている。脅しの場合には、逆効果にすらなりかねなかった。
ただ、虎丸は今所長を彼の後ろから抑えつけている。首の関節でも特別柔らかい者でもない限りは、直接視ることは適わない。
その点、モログならば問題は無い。彼もハークの意図を察してか、腕の筋肉を盛り上げ誇示してみせた。
効果は覿面で、下で息を飲む音が聞こえてくる。
「少しは状況を理解できたか? なら、今のはオマケにしといしてやる。だが次は無いぞ。彼に折らせるから、そのつもりでいるのだ。解ったな?」
何を、とまでは言わない。具体的に言わぬ方が、効果的である場合もある。
所長はコクコクと肯いた。どうやら素直になったようである。
「では確認する。貴様の名はテイゾー=サギムラで合っているか?」
また首を縦に振って肯く。完全に理解できてはいないらしい。
「質問に答える際には喋っていいぞ。余計な口は叩くなと言ったのだ」
「……そ、そうだ。いや、そうです。こ、この世界でのボクの名前はテイゾーです。テイゾー=サギムラ」
奇妙な言い様だが、この時のハークは深くは考えなかった。
「なれば聞く。この事態を引き起こしたのは、貴様か?」
「こ、この事態って?」
ハークは最初、とぼけているのかとも思った。
だが違う。本気で聞き返しているのだ。悲しげで今にも泣きだしそうな声であったのが、それを示しているようだった。不平不満を訴えているかのようでもある。
何故自分がこんな目に、とも言いたげにも感じられて聞いていたハークの精神がざわつく。平たく言えばイラつきかかっていたが、表に出すのは控える。
「帝都を瓦礫の山と化した事態よ!」
だが、どうもヴィラデルは我慢ならなかったらしい。それともとぼけていると捉えたのかも知れなかった。
テイゾーはヴィラデルからの怒鳴り声を受けてびくりと一度その身を震わせたが、恐らくは彼自身の部下であろう人物の背中を踏みつけていた彼女の姿に眼を向けると同時に卑屈な笑みを浮かべた。
「あ、はは……、帝都を瓦礫の山になんて、ボクがするワケないでしょう、美しいお姉さん」
テイゾーとしては、まるで媚を売るような声音であり仕草なのだろう。哀愁を誘い、女性特有の憐憫の情からの温情を得ようという腹だ。
しかし、状況と相俟って当然、逆の意味で火に油を注ぐ結果となった。
そもそもが女性を舐めた言動である。ヴィラデルはそれもあってか背に負う大剣を引き抜くと、その先端をテイゾーの目前の床にずん! と突き入れた。
「ひぃいっ!」
「余計な事を言うなと言われたのがまだ解らないの? 次にアタシをお姉さん呼ばわりしたらアンタのナニかを斬り落とすわよ!」
「ハッ、ハイッ! わ、解りましたぁ!」
ヴィラデルから強めに
「嘘は申さぬ方がいいぞ。そこの女は本当に斬り落とすからな」
「ウソじゃあないよ! ボクじゃあない! そんなことして、ボクに何の得があるっていうんだよ!?」
「『カクヘイキ』の爆発によって帝都が壊滅したと儂らは予想しておる」
「か、核兵器を知ってるの!?」
「その『カクヘイキ』をアタナが造り上げ、起動実験をこの地で行ったからじゃあないの?」
「ち、違うよ! 確かに造り上げたのはボクだけど……!」
「造り上げた! やっぱりね!」
「……あ……!」
ヴィラデルのカマかけにテイゾーは実にあっさりと引っかかった。恐らくこの男は暴力に極端に弱いようだ。
これを受けて、ハークが追撃を行う。
「では次の質問だ。貴様が『ユニークスキル持ち』であることは、既に儂らは知っている」
「……え!?」
「貴様はその『ユニークスキル』を使って『カクヘイキ』を造り上げた。違うか?」
「……う、うぅ……」
「答えぬのなら、彼女に命じて貴様の大事な箇所を斬り落としてもらうが、良いのかね? ヴィラデル!」
「オッケー!」
ヴィラデルは返事と共にテイゾーの眼の前の床面に先端が突き刺さったままの大剣を軽々と引き抜いてから、肩に担ぐかのように振り被る真似をした。
「わ、分かった! 分りましたよ! そうだよ! ボクの『ユニークスキル』の効果だよ! それで核兵器を造ったんだ!」
「ならば次の質問だ。貴様の『ユニークスキル』がどのような効果を持つのか、詳しく教えてもらおう」
ハークの位置からでは見難いが、テイゾーの視線が再びヴィラデルへと向けられたのが分かった。
向けられた視線に対し、ヴィラデルは如何にもな嗜虐的な笑みを浮かべてみせる。妙な迫力がハークにも感じられた。
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