360 第22話27:Beat the living arms
充分な助走距離を経て、音速を優に超えた白虎の砲弾が放たれた。
持ち得る速度能力が段違いである上に、両腕が塞がっていてはキカイヘイ集団に防ぐ術など皆無。
彼らに向かって延びる竜巻が、吸い込まれるように赤い胸部装甲を貫いていく。
ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ!
恐ろしいことに、虎丸最大の必殺技はそのまま六連続で外枠を支えるキカイヘイの胸から侵入、そして内部からブチ破って穿ち貫くを繰り返している。
あっという間に外周を支えるキカイヘイが減り、巨大な岩塊を支えていたバランスが大きく崩れた。
「ムゥッ!? 総員、ロケットブーストパ……ガッ!?」
例の拳を飛ばす攻撃、その推力を使って欠けた人員分を補おうと考えたのであろう。しかし、その指示を出し終わる前に敵小隊長の声が淀んだ。
その胸元、開かれた胸部装甲の間から露出した紅の放射熱板にシアの大槌が突き刺さっていた。
事前に位置を掴んでいたハークが方向を指示、次いで突っ込んだシアの『瞬撃』が確実に弱点部位に突き刺さっていたのだ。
そして、彼女の武器もまた『法器合成武器』の一つである。銛のように突き出たハンマースパイクが内部にまで到達していた。
「させやしないさ。点火ぁ!!」
くぐもった爆発音によって内部から破壊されたそれが、糸の切れた操り人形よろしく崩れ落ちる。
「タ……大尉ガ!?」
すぐ横のキカイヘイが声を発する。
戦闘で指揮官役と見られる敵から叩くのは集団戦闘の常道である。この場合、その指揮官役に次ぐ地位の者、もしくは距離的に最も近い者が一時的にでも役を引き継ぐものだが、どうしても指揮系統に隙間が生じる。
そこを突く。
「『
ゴボンッ! という凄まじき打撃音と共に、シアのすぐ隣にいるキカイヘイの胸部をフーゲインの蹴りが打ち砕いた。彼の全身を包む龍の咢を模した闘気が内部機関を修復不可能なまで噛み砕いている。
これで均衡が崩れた。キカイヘイの集団と日毬が落下させた『
フーゲインは、下半身が倒したキカイヘイに半ば埋まりかけるも力任せに脱出する。彼らの居場所は周囲の敵と同じく、これから何百トンという岩塊に押し潰される場所ではあったが、一陣の風が二人を連れ去った。
虎丸である。直後、負荷に耐え切れなくなった金属の悲鳴が無数に響き、圧壊が始まった。
縦に長く円筒状のかたちをした岩塊が現在の位置よりゆっくりと下降を再開し、丸っこいキカイヘイ共の図体をベキバキガシャグシャと平らにしていく。
音が全て収まると、岩塊はそのまま墓標へと変わった。
「よぉし! これで半分を超えたぜ、大将!」
「おお、そうだな! 順調ってヤツだ!」
一体を自身の力で倒し、意気揚々と報告するフーゲインにランバートが嬉しそうに答えた。
無論、詳細にキカイヘイを研究し、積極的に意見を出し合って戦法を練りに練った結果であった。皆、やれる事できる事を一片の妥協無く突き詰めた成果と言える。
今の、日毬の『
事前の情報や予測でも、ハークが己自身の眼で確かめた斥候での調査に於いても、三百のキカイヘイ軍の内、この時点で既に半数以上を討ち倒しているのは確実であった。
仔細に数を追っていないので、上手くすれば百七十から百八十体以上に到達している可能性もある。だとすれば、残りは既に百少々という訳だ。
明らかに上手くいき過ぎていた。とはいえ、それはハーク達を含めたランバートらが組んだ
それにランバートらは作戦が上手くはまらなかった際の、第二第三の策も当然のように用意していた。
現に、ハークとランバートがつい先程討滅したばかりの集団への追い込みに加わらなかったのもその一環であった。最も速く、そして強力な手札を持つ二人が残っていたのは、後詰の敵部隊への牽制と、対応のためであった。
敵の小隊長指揮官という頭を潰し、指揮系統を一時的に機能不全に陥れることには成功したものの、即座にそれを回復されることだって充分に予想できたからだ。
特に、今のハーク達のように、複数の指揮系統が混ざり合った混成軍であれば、これは起こりやすい。内部分裂や、戦国の世であれば裏切り寝返りなどの危険性も孕むが、一長一短というヤツであった。
しかし、整然と破壊活動に勤しむキカイヘイにはさすがに無理な注文であったのだろう。
今頃、という程に遅くもないが、ショウイと呼ばれた一体が役を引き継いだことを宣言し、ようやく彼らも動きを再開させる。
「さて、……とっ! ここからは乱戦だね」
シアが「とっ!」の部分で、槌たる武器の大部分を担う法器合成部位に、柄を思いっ切り捻じり込む。
「うむ。手筈通り、儂らは向かって右、貴殿らは左だな」
戦場である窪地の中央には、日毬が召喚した巨大な物体が鎮座している。両軍のぶつかり合いは、それによって隔てられ、分断された二つの進路上にて行われることは最早誰の眼にも明らかであった。
「おう! これで終いにするぞ」
ぎらぎらとした眼差しで応えたランバートの横で、フーゲインが身体をほぐす。
「了解さ! ランバートさん、コイツを!」
シアが一つの
シアはランバート側だが、状況によっては分断される可能性もあることから用意されたものだった。
そして、そんな彼らの周囲に、まだ新品の盾を装備したワレンシュタイン軍の人員が並んだ。
ハークとその肩に乗る日毬、更に虎丸らの周りも同様であった。次いで、今まで最前列を務めていた
指揮系統を取り戻しつつある敵軍に先んじるため、我らが総大将が叫んだ。
「よぉおーーし、行くぞお前ら! 総員、突撃!!」
号令と同時に、軍一丸となって駆け出した。そう、誰一人
総員で鬨の声を上げ突き進むワレンシュタイン軍に対し、敵軍にも全速前進の命を発せられる。
衝突するであろう二つの分かれ道、その分岐点にて双方の軍は二手に別れる。
しかし起こることは同じであった。彼我の相対距離が五十メートルを切ったところでキカイヘイ側が急停止し、腕を突き出す構えをとった。
それを見て、左側の道をいくランバート、シア、フーゲイン、右の道を進むハークと虎丸が速度を落とし、変わってそのすぐ背後に続いていた盾持ちの兵たちが追い越して構えをとる。
「「「「ロケットブースト・パンチ」」」」
道幅は狭くなり、其々の通路には横に三体までしか、キカイヘイの図体では展開できていない。
その全ての拳、計六つの飛拳が大盾を襲った。
「ぐっ!?」
「ぬわっ!?」
「うおおっ!」
歪みヘコみなどの少なくない損傷を大盾には受けつつも、防御要員の彼らは力の限り踏ん張って、そして見事凌ぎ切る。ご丁寧にやや斜めに大盾を逸らして受けることで、噴射拳の軌道を変え、遥か上空にまで弾き飛ばすことにも成功していた。
同時に、手応えが無くなった頃合いを見計って横っ飛びに道を開いていた。
「満点だァ!!」
左を進んでいるであろうランバートの大声がハークにも聞こえた。ハークも同じ評価である。
「精妙見事
そう発し、ハークは横を走る虎丸に跨った。
瞬時に最高速度へ達するその背で、ハークはぐいんと上半身を仰け反らせる。
「おぉ奥義! 『
旋突が中央のキカイヘイ、そのど真ん中を穿ち、動力源たる魔晶石ごと打ち貫いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます