358 第22話25:前哨戦という名の最終決戦!
ワレンシュタイン領内でのキカイヘイとの戦いでは、たった二体相手にわずか数秒ほどで致命的な亀裂を入れられてしまったヴィラデルの『
加えてこの地の厳しい気候が、この時ばかりはヴィラデルの氷の強度を後押ししている。
だが、普通、生物であるならば見るからに致命的であるこの状況ですら、キカイヘイにたった一のダメージすら与えていない。
だからこそ、本命が続く。
「今だ、日毬! 今回は加減なんぞ要らんぞ! 最大出力、『
「キューーーーーーーーーーーーーーン!!」
一瞬に、まるで時が止まったかのように静けさが周囲を包んだ。
その静寂を最初に破ったのは聖騎士団団長の声であった。
「山が……落ちてくる……」
言い得て妙だとハークは心の中で思う。彼女の言葉こそ、半ば偶然ではあろうが今現在の状況を正しく表していただろう。
それ程の岩塊が重力に引かれ、落下していく。
「総員! 対ショック態勢!! 盾を持っているヤツは構えろ! 無いヤツは持っているヤツの陰に隠れろ!」
ランバートがそう号令を下す前から、ほぼ全てのワレンシュタイン軍の兵士達は彼の注文通りに従い動いていた。ハーク達もランバートの後ろへと居場所を移す。遅ればせながら、聖騎士団の面々も同様に行動し、フリックにジャンの補佐官二人が全身を包める大きさのない盾を持つ団長を囲むように盾を構えた直後、轟音が周囲に轟いた。
————ズッウウゥゥウウウン!!!
次いで衝撃波、続く大地の震動。
飛来する
「ど、……どうだ?」
舞い上げられた雪煙が陽光を跳ね返して周りを包む中、フーゲインがランバートの影より首を伸ばすようにして様子を伺う。ハークも同じ行動をするが、まだ白色の煙に阻まれ巨大な岩塊の影しか見えない。
「どう考えても、直撃の中心点にいた四~五十近くは完全に潰れているでしょうね」
フーゲインとハークに習うようにヴィラデルも様子を伺いつつ言う。ようやくと雪の煙が拡散し始めている。
「身動きさえもままならぬ状態であったからな。腕さえ動かせれば防御するなり、周囲と協力して受け止めようとするなり被害を軽減させる
ハークが指さすと、幾分晴れてきた雪煙の幕の奥に無数の蠢く影が見えてきた。彼の言う通りその動きは鈍く、脅威は全く感じさせない。
恐らくだが、重大な損傷を負っているのだろう。だが、奴らの装甲は放っておけば時間で元通りとなってしまう性能を秘めている。
決めるならばここだ。それも徹底的にである。
ヴィラデルが一歩前に進んだ。
「さて、それじゃあアタシも本気で行くわね。ハーク、シア、後のことは任せるわ。頼んだわよ」
決意を籠めた彼女の強い眼差しと言葉に、名を呼ばれた二人も強く頷いて応える。
「了解だよ! 頑張ってね、ヴィラデルさん!」
「任されよう、ヴィラデル」
ヴィラデルは一度だけ、にっ、と笑うと、深く深呼吸をしてから両手を広げた。
途端に周囲の魔力が彼女の支配下となる。
ハークにはそれが良く分かった。彼はランバートの方へと振り向く。視線で通じ合うと双方頷き合い、ランバートがまたも大音声を上げた。
「総員、防御態勢をそのまま維持! 顔も出すな! 焼かれるぞ!」
同時に、心と魔力の準備が完了したヴィラデルが狙いを定め、静かな声で魔法発動に必要な言葉を唱えた。
「『
彼女の狙いは、落下の衝撃で砕けたものの、未だ中心点に残る巨大な岩塊だった。炎の形勢が終わらぬうちに、ヴィラデルは意識下の『
「『
どちらも火と風の中級魔法であり、その割には強烈で範囲もデカい。しかしそれでも、発動箇所から離れたハーク達及び後方のワレンシュタイン軍と聖騎士団への影響などは全くない。その事実に、ハーク達やワレンシュタイン軍はともかく、聖騎士団の中には顔を盾外へ出す者もいた。しかし、ランバートの言葉を信じ、再度顔を大盾の防御範囲内に引っ込める。
名の通り、爆炎を嵐のように振り撒く火の魔法と、それをかき集めるかのように吸引を続ける人間大の渦竜巻。双方同時発動の効果によって熱が収縮しかけるが、これは物理的な熱反応によるものだけではなかった。同じ発生点で活性化した異なる二種の精霊が交じり合っては、はじける寸前にまでなっていたからだ。
その様子を種族特性SKILLである『精霊視』の能力によって詳細に観察していたヴィラデルは、瞬時に自分の限界まで魔力を引き上げた。
「これで終わりよ!! 『
この言葉が合図となったかのように、瞳すら焼く痛烈無比な光が出現した。
まるで極小の太陽が地上に、倒れたキカイヘイたちの中心に出現したかのようである。
そして大爆発が発生した。
日毬が落とした『
「くっ!?」
それらが届く一瞬前に、シアは右腕を伸ばして無防備なヴィラデルの襟を掴み、力任せにランバートが構える大盾の防御圏内に引き寄せていた。
「うひゃあ、すンげえ威力だな!?」
珍しく悲鳴に近い声までフーゲインに上げさせたヴィラデルの最強魔法は、圧倒的な熱量とパワーを吐き出し続ける。その力によって周囲の雪や氷が融解し吹き飛ばされて、春どころか夏にならねば姿を現さぬ岩と大地の地肌が顕わとなっていく。
これが、ヴィラデルを始めとしたエルフ族の奥の手、『混成魔法』の威力であった。
しかも、今やレベル三十九にまで成長した彼女の魔力を籠められるだけ籠めた、渾身の一撃である。
ようやくの鎮静を感じて、ハークと虎丸はランバートの影から出る。結果を確認するためだ。
「おっと!? ヴィラデルさん、大丈夫かい!?」
魔力切れで、ガクリと一瞬身体の力を失ったヴィラデルをシアが支え、自分と肩を組ませる。
「キュウン」
それまでヴィラデルに引っ付いていた日毬も彼女を離れて飛び立ち、心配げな声を出す。
「大丈夫よ、二人共。それよりハーク。状況は?」
最早一人では立っていることも危うい、そんな状態に陥っていてもなお、ヴィラデルは自身の最大魔法の結果をハークに訊ねた。
気丈と言っていい彼女に対し、ハークは虎丸と確認し合った状況を即座に伝えた。
「うむ、見事だ! 敵百三十体余り、完全に沈黙!」
そこにはキカイヘイだったものの残骸が無数に散らばっていた。完膚なきまで破壊された者、原型を留めている者と様々だが、一様に沈黙し、もう動くことは無い。
もし、キカイヘイの外装が無事なままであれば、ここまでの効果はなかっただろう。岩の表面すら溶かす熱をキカイヘイ自体が発生させてもいたのだから。
しかし、前段階の『
虎丸の『鑑定』でも、反応さえ無い。
「成功だな! 聞きしに勝る威力だ!」
敵軍四割以上が消滅という文句のない結果に、ランバートがそう評価する。
その言葉を受け、ヴィラデルは満足気に微笑みつつ眼を閉じた。
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