188 第14話06:Walk Like a Hero


※今話からいよいよハーク達は古都ソーディアンの街を離れ、外へと飛び出すことになります。冒険の始まりです。これに先立ちまして、以前、近況ノート(1月17日分及び2月6日分)にて記載させていただきました外部サイトにて、モーデル王国からその周辺国の街道、並びに街道筋の街等を載せた詳細地図を投稿致しました。ご興味が湧きましたら、是非、ご覧いただければ幸いです。





 俺の名はスタンレイドル。画家で一応、吟遊詩人で、そんでもって旅行業を営む旅先案内人さ。

 長いからスタンで良いぜ。スタンレイドルって名前も聞かねえだろうし、何より言い難いだろうからな。


 あ~、実はさ、元々は俺の名前、スタン=レイドル、なんだわ。

 そ。スタンが名前で、レイドルが苗字さ。つまりは、まあ、産まれる前っていうか、祖父ちゃんの代までは貴族籍だったんだよ、ウチの家系。爵位は殆ど一番下ってくらいの準男爵だったんだけどさ、一応、結構歴史あったんだぜ。王国の創成期から、この国に仕えていたらしいし。


 まあ、ご想像の通り、3代前が盛大にやらかし・・・・ちまったクチさ。同じような目に遭ってる元貴族出身の子孫はこの国にゃあごまんといるらしいからな。


 今から50年ほど前の話だ。突如として一人の『ユニークスキル所持者』が、今の先王様の姉君、当時の継承権一位、第一王女様を連れ去っちまった。旅行業なんてものをやってると分かるんだが、女性だろうが構わず王位継承権を持ってる国ってのは、周辺国でもモーデル王国ウチくらいのものらしいな。俺たちからすると女性だからどーした? って感じもあるモンだがな。不思議なもんだ。


 まぁともかく、戻って来た第一王女様は完全にその『ユニークスキル所持者』の操り人形になっていたそうだ。どうもそういう『ユニークスキル』だったらしい。昔はコレで勇者様とか何とか呼ばれてたんだろ? 俺も今年で30歳だが、俺らの世代あたりからは理解出来ねえ事柄だよな。


 そンでまあ、約5年に及ぶ混乱期に入るワケだが、先王様率いる解放軍が何とかしてくれるまで、その『ユニークスキル』の犠牲者はドンドン増え続けたのさ。

 それは正に手当たり次第。

 会ったことはねえけど、ウチの家、当時のレイドル家当主もそン中の一人だったらしい。


 ンで、運命の日さ。

 激戦に次ぐ激戦で長年この国を支えてきたウィンベル家は断絶。他にも多くの犠牲者を出して、国は元に戻った。紆余曲折あったが、最後はめでたしめでたしってヤツだな。

 けど、めでたしめでたし、で済まなかった者もいた。その『ユニークスキル所持者』に操られていた奴らさ。

 当時の当主、俺からすれば伯父さんだけど、彼はその運命の日の決戦で命を落としていた。

 相手はかのウィンベル家当主、とでも言えれば少しは格好つくんだろうけど、結局は名も無き一般兵の一人にやられたらしい。可哀想に、犬死にさ。


 けど、そんな犬死にでも記録と記憶にゃあ残る。王位を簒奪した者の軍門に下り、混乱を助長し、先王様の解放軍に逆らい、多くの被害を与えたっていう事実はな。

 爵位は祖父ちゃんの元に返ってきたけど、そんな事実にウチの祖父ちゃんは耐えられなかった。

 王座に就いたゼーラトゥース様は既に、『ユニークスキル』にて操られた者達全員を不問に処す、全てはウィンベル家最後の当主と相打ちとなった『ユニークスキル所持者』とそれを最後まで庇い立てし擁護したエイル=ドラード教団の責任であると国中に発表したんだけど、責任感の強い古くからのこの国の貴族連中がそれだけで己を納得させられるかっつーと、無理な話なワケよ。


 結局、祖父ちゃんは爵位を国に返上した。

 同じような境遇、状況で、同じ選択を行ったのは先王様の解放軍と戦う事になった家柄の者達の約半数にも上ったらしい。国は最初、返上の拒否と再考を促したが、聞く耳を持つ者も少なく、遂には国が受け取らぬのであれば商人に売る、とまで言い出す者も現れたんだと。


 ゼーラトゥース様も最後は爵位の返上を認めた。代わりといっちゃあ何だが、爵位返上者全員の家にかなりの額の給付金を支給したんだ。ま、祖父ちゃんは死ぬまで受け取らなかったけどな。


 勘違いはしねえでは貰いたいんだけど、俺は別に国も先王様も祖父ちゃんも恨んじゃあいない。今更、宮仕えなんてガラじゃあねえし、この国はある程度の腕っぷしさえありゃあ、生きていくのに困ることは少ないしな。

 まあ、楽ってほどじゃあ無かった。俺もいろいろやったワケさ。そいつは今でも仕事に活きてる。15歳ン時に通った冒険者ギルド寄宿学校の校長が「人生に無駄な事なんか一つも無え」なんて言ってたが、ホントその通りってワケだ。


 んで、時は流れて10年くらい前かな。祖父ちゃんが死んだ。給付金の受け取りはまだ可能だったから、親父は迷わず受け取ったよ。

 親父はその受け取った給付金を元手に事業を始めた。

 それがレイドルズ・トラベラーサービスさ。これで俺も副社長。青年実業家ってヤツさ。


 仕事は主に、ご自分の住んでる街から遠くの街へと旅する間の送迎だ。片道の時もあれば往復任されることもある。

 その間に快適な旅を、ってのが俺の仕事さ。

 この国は広い。街と街の間を移動するだけで何日も、時には何週間も馬車で移動することになる。外で用を足せねえっていうご婦人の為にトイレ付、シャワー完備、少し狭いけどベッドまでついてる。ホラ、旅行行きたくなってきただろう? そん時は、我がレイドルズ・トラベラーサービスに是非ご用命を。なんてな。


 ま、こんな商売を続けていられるのも、街道の整備と安全を日々守ってくださる街道警備隊と、魔物が現れたらすぐに退治してくれる冒険者の皆さんがいるお陰なワケよ。

 ただ、勘違いしねえで欲しい。俺もこんな商売やる前は知らなかったんだけどさ。こんなに街道がキレイに整備されて、しかも安全だなんて、他の国じゃあ考えられねえのよ。道はデコボコ、時には草叢の中に道が埋もれているところもありゃあ、コレどう考えても獣道じゃあねえのか、って思うような道すらある。野盗やモンスターは昼夜問わず現れるし、信用できる冒険者か傭兵を雇うのすら一苦労だ。思うんだが、そういう国って物流どうなってんだろうな。

 聞いた話だが、まるで軍隊みたいなキャラバン隊組んで大集団で売り物なんかを運ぶらしいぜ。難儀なこった。


 しかしまあ、そんなモーデル王国にも安全とは言い切れねえ街道が、多少はある。それは新しく完成したばっかの街道さ。

 モチロン、街道警備隊が重点的に見回っているし、周辺の冒険者も頑張ってくれているんだろうけど、たまにやっぱり討ち漏らしがあって、そんなモンスターと出くわすことがある。

 俺の馬車はシャワーやらトイレやら余計なモン積んでいるせいでスピードが出ねえ。

 だから、懇意にさせて貰ってる古都ソーディアンの冒険者ギルド長から辺境領ワレンシュタインまで冒険者4人プラス従魔1体の送迎を依頼された時も、最短で、って指示だったから、出来たばかりの街道を通ることになるし、護衛を雇った方が良いって言ったのさ。

 そしたら、ジョゼフさんはガハハと笑いながらこう言ったよ。


「あいつらより強え、冒険者はもうこの街にはいねえよ」



 最初はいくらジョゼフさんの太鼓判でも半信半疑だったね。

 何しろ、えらく大柄で美人な一人を除いて、他はどう視ても全員学生だからだ。学生ってのはどんなに優秀で出来が良くても所詮は経験の足りねえガキの集まりだからな。自分もそうだったから良く解ってるつもりだった。

 だが、そんな先入観は初日一発目で吹っ飛んだね。

 そろそろ野営する場所を探そうって時に、近くで警備隊とモンスターが交戦してるのを冒険者パーティーのリーダーが従える従魔殿が感知したんだが、直ぐに風の如く突っ込んでいったよ。遠目からだったが10を超えるシザービーストの群をばったばったとなぎ倒す様は驚愕と共に爽快だったね。

 特に最も身体が小さく視えたエルフのリーダーの剣が振られるごとに複数の魔物が倒れていくのさ。


 一流の冒険者になるヤツってのは、いや、後に英雄と呼ばれる存在へと成長する者っていうのは、ああいう人物のことを言うのだろうな、と俺は確信したよ。




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