108 第9話09:Terrible Trouble③
「捕えろ!」
「「「了解です!」」」
ジョゼフの号令が発せられた途端、何人ものギルド職員が周囲の見物人の間から現れ出で、一斉にシュバルの取り巻き達に襲い掛かった。
「うおっ!?」
「なっ、何だ急に!?」
「放せっ!」
多勢に無勢、さらに主が倒れて気を逸らされたところへの奇襲。巨漢たちは一人また一人と成す術無く捕縛、或いは地に伏され抑えつけられて次々無力化されていった。
一人につき、ギルド職員は3人。
虎丸によると取り巻きの巨漢たちのレベルは20レベルを超えたぐらいであるらしい。
対してギルド職員たちは動きや反応の速さから、ハークの見立てでそれよりも1から3ぐらい低いようだ。
一対一では勿論後れを取るであろうが、人数差で優位に立っている。
見事な、そして迅速な手際だった。
よくこういった暴力的な問題でも起こるのだろうか、とでも思うくらい手馴れた調子で捕縛は完了していく。
後ろ手に手足全てを一纏めに括られたゴロツキ共で最も体のデカいリーダー的な男がジョゼフに食って掛かり、唾を飛ばしながら喚き出す。
「おい、ジジイ! モーデル王家のシュバル様と、おつきの者達であるオレ様達にこんなことしてタダで済むと思っているのか!?」
ジョゼフの返答はにべも無かった。
「馬鹿モン共が、肩書きに惑わされおって……! あやつは確かに王家の血筋ではあるが、モーデル王家ではないぞ」
「な、何!?」
男は驚愕の表情で、哀れ吊るされ亀の子のように連行されていく。それを見送りながらジョゼフは一息つくと、ハーク達のいる方向へ歩み寄った。
「おう、お前達。迷惑かけたな……。遅くなってスマン。……いや、ハークはよくぞ
「いや、こちらこそ助かったよ」
「ありがとうございます、ジョゼフ様」
「ナイスタイミングでしたよ、学園長」
「ナイスではないなぁ、アルテオ。ギリギリだったぞ……。まぁ、礼なら『
「は~~い」
「了解で~す」
ジョゼフの呼び込みに二人の女性が答える。
年の頃はリードと同程度。大人びた感じの女性と、落ち着いた、というよりどこかほんわかした雰囲気を纏った女性であった。
「お前さん達、改めて紹介するぜ、リードと同じ『
向かって右の大人びた感じのすらりとした女性が片手を上げる。
「やあ、間に合って良かったよ。私は『
ジーナと名乗った女性に続いて、ほんわかした雰囲気の女性がピラピラと手を振りながらにこやかに自己紹介を始める。
「こんにちは~、『
「何言ってんだよ、姉ちゃん。俺だって今日が喧嘩なんかしていい日じゃあねぇことぐらい
「弁えてねえ馬鹿が、まぁ、居たワケだがな」
軽口をたたき合う『
彼の視線の先には、未だに昏倒したままに縄でぐるぐる巻きにされ物の如くギルドの職員に運ばれる愚者の姿があった。
口調そのままにジョゼフは続ける。
「まったくあの悪ガキめ。その内問題起こすとは思っておったが、まさか初日からとは思わなんだわ」
ジョゼフのその言葉からハークは先程の失礼な小太り男が結構に有名な人物であり、尚且つ問題児として事前に注視されていたことに気付く。
「ギルド長、あのバカって王都の学校に押し込められてたんじゃあないの?」
「俺もそう聞いてたぜ」
「まあな。王都の神学学校に行った筈だったんだがな。卒業したという話は聞いてないが、今回、ウチのギルド寄宿学校に入学するために帰郷したらしい」
ジーナとリードの質問に対し、ジョゼフはまるで「面倒なことに……」と続きそうな調子で答えた。
「何で受け入れちゃったの? ギルド長? 直ぐ問題起こすなんて分かっていたんでしょう?」
ケフィティアと名乗った女性が軽い口調で話に入る。
「なんでって、ケフィティアな……。ウチは冒険者ギルドだぜ? ヤル気があるっつーのなら入れるしかねえよ」
そこで漸く焦れたハークが話に加わった。
「話の途中すまぬ。ジョゼフ殿、さっきの変な輩は一体何者なのだ?」
「ん? ああ、そうだよな。ハークは知る筈ねえよな。あの馬鹿はシュバル=セィル=バレソン。この街の前統治者、ゲルトリウス=デリュウド=バレソン伯爵の長男で跡取り息子だ」
「前統治者……。ゼーラトゥース殿の前任者と言うことか。王家とか言ってたが……?」
「ああ、ゲルトリウス伯爵は前王ゼーラトゥース様の兄の息子、つまりはゼーラトゥース様の甥っ子なんだ」
つまりは先程の馬鹿は古都領主たるあのゼーラトゥースから見て大甥という立場にあることになる。つまりは傍系であるだろうが、王家の血筋には違いないのではないだろうか。
「何!? 大丈夫なのか!?」
「ああ。まあ、心配するな。あの問題児もレベル15以上はある筈だ。加減はしてねえが、回復魔法をかけて貰えば死ぬことはあるまい」
先程、確かにジョゼフはシュバルに対して全力の拳骨を叩き落としていた。ハークが一瞬、シュバルの頭蓋の歪みすら幻視した程である。
だが問題はそこではない。
「いや、確かにそっちも心配だが、傍系とはいえ王家の人間に手を出すなど、ジョゼフ殿は大丈夫なのか!?」
ハークの前世からの常識からすれば、その世界の支配者や統治者の傍系であってもその血縁、例えば将軍家や天皇家に畏れ多くも危害を加えた場合には、如何なる事情があったとしても流罪どころか死罪を命じられたとしても何らおかしくはない。
「そっちも問題は無い。ヤツは王家の血筋は確かに流れちゃあいるが、モーデル王家じゃあねえんだ。先代であるゼーラトゥース様の兄上様がバレソン家を興される際、王位継承権やら一切合切放棄してらっしゃるからな。オマケに今の代になってからバレソン家は色々と問題を起こしまくって、何処もかしこも見放した問題貴族だ。ゼーラトゥース様の恩情で、未だ伯爵姓を名乗っていられるようなところもあるからな。……やれやれ、先代は大変に聡明な方だったんだがなぁ……」
そこまで言い切ってからジョゼフは一息つくと、全員を一度見直すようにしながら口を開く。
「まあ、そういうワケだから、後の始末は俺に任せておけ。お前達は良い機会だから食堂にでも行って交流を、……と言うより『
そしてジョゼフは急に、今まで話に参加せず呆けたように傍に突っ立って待機していた、最後に助太刀に表れた少年へと向き直り、声を掛ける。
「ハッ、ハイッ!?」
ロンは自分に話が飛んでくるとは全く思っていなかったらしく、身体を強張らせながら全力で返事を返した。
「そう緊張するな。お前さんは立派な事をした。理不尽なトラブルに見舞われた学友の為に事態に跳び込むのは勇気ある正しい行為だ。俺が保証する」
「ハッ、ハイッ! ありがとうございます!」
「おう。いい返事だ。さて、お前さんの寮室の準備が出来たのでな、職員たちに案内させるつもりだったのだが、今、あのバカドラ息子とその取り巻き共の面倒を見させちまっている関係で人がいねえ。俺で悪いが案内させてもらうぜ」
「そ、そんな! 学園長自ら、光栄です!」
「まあ、そんなに気にするな。あと同室の……シェイダン=ラムゼー! シェイダン=ラムゼーはいるか!?」
「はっ、はいっ! ここに!」
既に事は終わったと解散しかかっていた集団の中から一人の青年が出てくる。それは先程、ロン=ロンダイトと呼ばれた青年がハークらを庇わんと名乗り出ようとしていた時に、彼を引き留めようとしていた人物だった。
やはりロンと歳背格好が良く似ている。ただこうしてまじまじと視れば、若干彼よりも線が細い。どちらも美男子だが。
2人が並び立つのを視てから、ジョゼフがくるりとハーク達に振り向いた。
「そういうわけだから、俺はこの二人を案内してくる。お前さん達は食堂にでも行って、ゆっくり歓談でもして待っていてくれ。テルセウスにアルテオ、ハークの案内は一番最後だから結構時間はあると思っていい。こちらの準備が完了したら、人を寄越す」
「了解だ」
「わかりました!」
「了解です!」
「よし、そいじゃあ行こうか」
ハークらが返事を終えると、リードが号令の元『
それに続いてまずテルセウスとアルテオが歩き始め、ロン達に拝辞の挨拶を交わす。
「それでは失礼しますね。ありがとうございました」
「助太刀感謝します。では失礼」
そしてハークも虎丸を連れて彼らに続く。
「では我々も失礼する。助太刀感謝する、ロン=ロンダイト殿」
「あ、いえ、当然のことであります……」
その言葉に漸く反応できたといった、先ほどとは打って変わったか細い声でロンが反応を返す。
何故か極度に緊張しているのか耳まで真っ赤にしてこちらを見つめていたのが気になったが、ハーク達もその場を離れることとなった。
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