01:屋上の美少女




 ミルクピース。それは人が心に持つ真っ白なミルクパズルのピース。人の純真、大切に守られるべき存在。しかし、ひとたび味わったことのない絶望を感じると、そのピースはぽろっと心から剥がれ落ちてしまい、ミルクに回収されてしまう。そうなるともうその人はピースを返してもらえない限りあの頃の純真には戻れない。




 きぃきぃと風で揺れる鉄の柵に、少女は手をかけて青空を仰ぎ見ている。やや茶色がかったショートボブの髪は風でボサボサになり、少し短めのスカートを手で押さえて、長いまつげの下にある鳶色の瞳を少女はすっと閉じた。

(あぁ、今日も小谷は宇宙と交信をしている)

 その後姿を、立ち入り禁止と書かれた看板が貼ってある、鍵が壊れたドアに半身を隠しながらじっと見つめる少年がいた。黒の学ランにくせにある黒髪、太いが整えられた眉毛に、運動部でもないのにガタイの良い身体。一体何をしているのかというと、小谷をストーキングしているのである。

(スカート、めくれないかなぁ、あぁ今日も美脚であります)

 じっと見られているのも知らないで、小谷は目をすぅっと開き、下唇を噛んで空を睨む。そしてはぁとため息を長く吐くと、こちらに向かってきた。

(あわわ)

 慌てて彼は今来たところを装って屋上へ続くドアをきぃと開ける動作をした。

「……ども」

「……」

 声をかけても、小谷はちらっと見るだけで何も言わない。バタンとドアが完全に閉められてから、彼は同じように空を見上げてみた。

「何もないけどなぁ……」

 毎日毎日、彼女は昼休みになると屋上に上がり、空を数分見上げる。一体何も求めているんだろう。会話すらしたことがない彼にはわかりようもなかった。



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