トレジャー・ボックス3

 上がどこまで上かまで聞く前に叩き折ったので、一階一階確認しながらクラクはヒニアを引き連れ、非常階段を登る。


 どの階も襲われた時のまま放置されているらしく、灯りは付けっ放しで、レジも開いたままだった。


 洋服、鞄、日用雑貨、家具に家電に書店に宝石店、美容室にヨガスタジオ、そしてヒニアが務めている若者向けアクセサリーショップ、どこも静かだった。


 だけど一箇所だけ、騒がしい所があった。


 六階、西側、そこそこ広いスペースを占める、カードショップからだった。


 響く声はテンション高く、奇声に聞きなれない単語、そしてシャカパチとリズムが刻まれていた。


 そこへ、クラクは無言で参加し、六発の弾丸で六人を殺した。


 死体は全員、奥のテーブルに二人一組で向かい合って座っていて、間にそれぞれカードを広げていた。


 こんな時にカードゲームをするなんて、とヒニアは思ったが、彼らだからこんな時にカードゲームをするんだろうとも思った。


 撃ち殺された死体とは別に、店内は荒らされていた。


 ガラスのショーケースは砕かれ、棚や引き出しはひっくり返され、その間に銀色のパックのゴミが散乱している。


 それにカードをやっていたテーブルより奥側には空き缶やスナック菓子の残骸が積み重ねられてあって、さらに奥にはカーテンが毛布のように重ねてあった。


 底辺な生活感がする。どうやら彼らはここで寝泊まりしてたらしい。


 それらを見回し、死体を一人一人蹴り倒して顔を確認するクラク、最後に響くほど大きな舌打ちをして、この場を立ち去った。


 どうやらここにも、言っていたブルーバベルとやらはいなかったらしい。


 死体と血溜まりを踏まぬよう飛び跳ねながら、ヒニアも後に続いた。


 そして最上階、レストランまで来た。


 ヒニアがここに来たのは二度目、何かのパーティの準備に、臨時の助っ人として呼ばれた時以来だった。


 相変わらず、何もなかった。


 柱一つない、ワンフロアぶち抜きの広大なスペースに、白いテーブルクロスが床すれすれまでかかった円形のテーブルと、同じく白くてシンプルな椅子だけがズラリと並んでいる。


 四角の柱と非常階段とスタッフ控えと、四面の壁中央にあるエレベーター以外は全部ガラス窓と、シンプルさを突き詰めたような間取りだった。


 メニューは各テーブルに着くウェイターに、無線で上の階、あのオブジェクト内部の厨房へと伝えそこから料理がカートで運ばれてくるシステムだと、ヒニアは聞いていた。


 その中へ、クラクは躊躇いもなく一歩踏み込んだ。


「レディ、ファイト」


 くぐもった声が、どこからか聞こえたかと思ったら爆発した。


 風、音、そして押しやられる椅子とテーブル、どこから溢れたのか、突如として大量の水が流れ出て、だだっ広かった室内に大洪水を巻き起こした。


 ◇


 ファイトギャザリングアウトサイドで、ここ数カ月で一番のニュースは、神のカードだった。


『すごいゴッド』『つよいゴッド』『やばいゴッド』伝説と言われていた三枚のカード、それを狙って暗躍していたCDCと、それを阻止せんと、ライトサンの選ばれし三人の小学生たちが知恵と勇気とカードによって繰り広げられたバトルは、大いに注目されてきた。


 そして、終に三枚のカードが集まった時、神のカードは邪悪な本性を現した。


 空が暗雲に包まれ、崩壊が始まる中、三人の子供たちの合体コンボにより神は破れ、世界は救われた。


 そして手段を択ばず、ただ救世のためカードを集めて、活動していたCDCは解散となった。


 四天王の三人は出頭し、罪を認めた上で司法取引に応じた。


 ただ強者と戦いたいだけだった『レッドバーン』はそのまま政府直下のファイターとして今度は悪と戦う側になり、参謀として組織をまとめていた『グリーンフォグ』は教官になって後輩を指導するとともに、神との戦いで昏睡状態に陥った『ブラックスーサイド』を一人の女性として渾身的に世話していた。


 三人が役割を終え、新たな道に踏み出す一方、一人『ブルーバベル』だけが悪のままだった。


 四天王に入る前のブルーバベルは毎回予選は超えるがそこから先はボロボロの中堅レベルで、正直そんなに強くなかった。


 しかも、予選突破の方法が、相手が使うカードを、自分で偽造したカードとすり替えた上でそれを指摘し、失格にするという陰険なもので、蛇蝎のごとく嫌われながらもすり替えたカードの転売で財を成すというクズそのものだった。


 それが、神討伐に必要なレアカードを持っていたというだけでスカウトされ、今の地位につき、不必要な悪行を重ねてCDCの評判を無意味に下げ、挙句に周りが止めるのも聞かずに神を三枚揃えた、完全な戦犯だった。


 それ故に彼だけには司法取引はなく、同じようなクズどもを率いて残党として逃げ回るしかなかった。


 そんなブルーバベルにとってこの島は、最後の安息の地であるとともに、威厳を保てる最後のチャンスでもあった。


 だから全身全霊、神にも届くと名高いレアカードと、それを用いた最強コンボをもって、侵入者を迎え撃った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る