セントラル・スクェア2

 ゴブリンは、小鬼とも呼ばれ、世界が常闇となり現れた亜人の一種だった。


 特徴として、猿のような顔、体毛は薄く、頭は基本ハゲ。体は小さくひ弱で、知能も低く、野蛮で汚らしいとされ、唯一優れているのが繁殖力のみ、なのでひたすらいっぱいいるとのイメージが強い。


 ただしそれらは差別と貧困からくるものであり、ちゃんと教育した場合は優秀な人材も発掘されており、特に銀行員として有名人も多い。


 そんな彼らが、差別と貧困から逃れるため、先進国へ難民するのは自然の流れだった。


 対して受け入れ側の国は、強いイメージから反対が多く、両者の軋轢が昨今の社会問題にもなった。


 そこに登場したのが『武装ゴブリン難民戦団』だった。


 元は、安全な航路の確保だったが、それが武力による国境突破の過激派になり、難民支援やマスコミへの誘拐を初めて、さらにゴブリンも含めた強盗恐喝へと悪化した。


 彼らには志しも何もない。


 ただ刹那的に快楽を求め、そのために最も短絡的な略奪へと走っただけで、それだけの存在だった。


 先進国は彼らを理由に全て汚難民を弾圧、世界は難民排斥へと流れていた。


 ◇


 いくら彼らゴブリンが愚かであっても、閃光と轟音を怪しいと思えるだけの知能は残っていた。


 しかしそれが何かを確かめに動かしたのは、警戒心ではなく、好奇心からだった。


 なんかピカってしたぜ!


 軽いノリでワゴン車に乗り込み、道中何人も振り落としながらもアクセルを踏み込む。当然無免許だ。


 餓鬼のように騒ぎながら骨董品のような得物をガチャガチャとぶつけあっている。


 アーケーアサルトライフル、総弾数三十、大口径で丈夫、開発されたのが前時代ながら、簡単な構造も相まって現役で殺し続けている自動小銃だった。


 あとは錆びたナイフと石の棍棒を各々装備し、車に揺られている。


 薬もやってないのにトリップしてる彼らに警戒心はなく、同様に同情とかもない。


 だから、助手席のゴブリンの眉間が撃ち抜あれても大爆笑するだけだった。


「死んでやんの!」


 笑いに裂けた口から涎をばらまくドライバー、しかしその口から続けて吐き出されたのは悲鳴、そしてハンドルが荒ぶる。


 何だよと視線を束ねるゴブリンたち、そこから笑いが消えた。


 そうさせたのはゴブリン、先ほど助手席で撃ち殺され、ゴブリンでも死んでるとわかる死んだゴブリンが、ドライバーの頭に齧りついていた。


 突然の暴挙、無害な肉だと思ってたのが敵となった事実、それ以上に、には恐ろしい何かがあった。


 見えてない車外はもちろん、静まり返った車内も含め、ルームミラーにチラリと映った額に、まるで木が根を張るように、黒い何かは広がっているのを見れたのはいなかった。


 代わりに全員が見えたのはクラク、車が大きく道を外れて横に流れ、それが鼻先をかすめ走るのを冷たく見送るその眼差しだった。


 そして次の瞬間、車は巨大な蔦へと激突した。


 ◇


 目の前を暴走ワゴンが掠めても、クラクは身じろぎ一つしなかった。


 そして当てられた蔦が蠢き、車とそこから零れ落ちたゴブリンを吊り上げ、締め上げ、絞り上げていくのを銃をしまいながら見上げるだけだった。


「こいつらが、私たちを襲ったのよ」


 その一言で存在を思い出したかのようにクラクは少女に振り返った。


「他にもいるのか?」


 始めて発した言葉は尋問だった。


「……いるわよ。沢山。ゴブリン以外にも、ロボットとかもね」


「この先は? こいつらがやって来た方向に何か大きな建物はあるか?」


「ここらと同じ屋敷ならずっと続いてるわ。けどみんなこんな感じで、あれなら近寄れもしないでしょうね」


 言いながら少女が見上げた先で、ゴブリンの一人が発砲し、短い蔦が千切れ、樹液が飛び散る。


 だが逃れるには足りず、より一層締めあげられ、肺から空気を吐き出しながら銃を手放した。


「それ以外に何かあるかと言えば、後は大きな公園ぐらいね」


 それだけ聞いたらクラクは返事も礼も無しにゴブリンが落としていったアーカーを拾い集め始める。


「ちょっと!」


 少女に呼び止められて、クラクは舌打ちする。


「来たんなら助けてよ。あんたはそのためにここにいるんでしょ」


 振り返るクラクは憤怒を抑えた眼差しを少女へ向けた。


 だけども今度は怯まない。


「邪魔はしない。むしろ手伝えるわ。ここは、ちゃんとした地図がないの。建物の位置とか道とか知ってるのは住んでる人間だけ、道案内は必要でしょ? それにドアのキーロックも持ってる。ないと不便よ」


「好きにしろ」


 そう言い捨てて、銃拾いに戻る。


「そうするわ。ねぇ!」


「なんだしつこい!」


「名前! 私はヒニア!」


「……クラクだ」


 この会話を最後に、二人の会話は途絶えた。

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