8 Hant Island
負け犬アベンジャー
プロローグ
「みんな揃ったな、始めてくれ」
「はいそれでは。こちらが問題の『リッチメンズアイランド』の航空写真です」
「おいおい白黒かよ。最新の用意できなかったのかよ?」
「できませんでした。ここの管理は今でもあの『夢の国』になりまして、私みたいな一介の捜査員じゃ手も出せなくて」
「にしても古い写真ね。無人島だったころの?」
「そうです。正確には二十七年前、赤道直下にほど近いこの孤島がまだ排他的経済水域以上の価値のなかったころの航空写真です。そこをあそこが買い取って増築、当時最先端だったメガフロートも用いて、今から十七年前に完成、名前も今のリッチメンズになりました」
「あぁあの時のニュースを覚えてるよ。完全に外界と隔絶した、選ばれし金持ちのみが安全に暮らせる楽園島、現在で言うところのゲーッテッドシティの海上版だな。当時は、入島するには捜査官でも許可証がいると聞いたが、今もそうか?」
「えっと、そうですね。中心の森が特別保護区に指定されまして、検疫等を受けないと、現在でも上陸できません。因みに、その時の情報によると、島は南北5キロ東西5キロの真四角な形で、港は北の一箇所のみ、滑走路もヘリポートもありません。ただし発電所、専用農場に牧場に、病院も完備、自給自足も可能で、その気になればノアの箱船にもなれますね」
「肝心のセキュリティーは? それだけ金をかけてるなら当然そっちにも手を回してるだろ」
「それがですね。届け出によれば島の周囲に船舶止めのネット、内部には施設警察署、あとは偵察用ドローンを一ダース購入記録あるぐらいで、監視体制は抜群ですが、戦闘能力となりますと」
「あっても無味だろう。なにせ今回の相手は一人二人のコソ泥じゃない。世界に悪名轟かす八つの組織、完全武装の三千を超える悪党どもだ。ここだって凌ぎ切れるかわからん。それで人質の数は?」
「夢の国発表では八百二十二人、その中のいわゆるセレブは百五十人で、あとは雇われ労働者ですね」
「九十七年の大使館人質事件でも六百人、しかも管理しきれないからって百人単位ですぐに開放したんだ。それと比べても今回の事件は人質事件としては最大規模だよ。事件でいいんだよね? 規模だけなら軍の管轄だけど」
「それはなんとも」
「その査定も我々の仕事だ。
「はいそれでは、その交渉に関してですが、相手側の要求は今のところ一つだけ」
「現状維持か?」
「そうです。島への物理的、魔術的、サイバー的な接近を感知すれば人質へ危害を加える」
「欲のないのが逆に怖いな。裏があると考えるのがセオリーだな」
「それがそうとも限らないので、なにせ八つの組織は集まれば強力ですが、個々に見ると落ち目、逮捕間近とか瀕死とかそんなところばかりです。本当に現状維持を望んでるかもです。なにせセレブな生活ですから」
「先ず『武装ゴブリン難民戦団』あたりはそれで満足だろう。『ツヴァイハインダー』は楽しみたいだけ、わかりやすい。『CDC残党』ってのはカード偽造のあそこか?」
「はいそうかと、四天王最後の一人のブルーバベルが入島したのを確認してますので」
「『緑螺子道場』は封印の騎士団の面汚し、『ロジャーヘアー』はユーチューヴァー上がりの
「関係性はまだ不明です」
「それはこいつだ。現役で一番勢いがある。
「ではチョーワールの情報を」
「て、てぇへんだぁ!」
「ちょっと!」
「どけブス! 島に動きが! 魔力波紋観測所より入電! 縮地を確認!」
「縮地? それってテレポート? じゃあ誰かがあの島にってこと!」
「波形から、『クラク』と断定出ただ!」
「それって、最重要指名手配のあの?」
「クラク、今から百五十三日前に初確認、カテゴリーは
「そんなやつが島に、どうするんです?」
「決まっている。諸君、聞いての通りだ。ご苦労だった」
「え? どういうことですか?」
「仕事が無くなったんだよ。俺たちは
「それ、マジですか?」
「マジだ。なので我々にやれる仕事はない。今日は帰って熱いシャワーでも浴びてくれ。明日は十時からでいい。では、解散」
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