第15話


 「くそ、宝石さえあればお前らなんて用済みなんだよ!」

 近くにあった廃材を投げつけ志々見が扉から勢いよく飛び出し逃げる。飯田に当たりそうになったのを財前が受け止めるが志々見と殴り合いをしたことが響いたのか動きが鈍い。

 「飯田を頼んだ!」

 財前に飯田を任せ志々見の後を追う。

 「待て!志々見!逃げるな!」

 外に飛び出すと後ろ姿が見えた。殴られたところが痛むが必死で追いかける。茂みの中に飛び込む志々見を逃さないよう目で追いながら洋次も必死て追いかける。

 「どこだ・・・逃げたか・・・?」

 公園の中でも放置されており立ち入り禁止の看板がたつ茂みの中を見渡すもどこにもいない。

 「洋次さん!」

 聞き覚えのある声がする。

 「冷・・・何でここに?」

 「電話を聞いて居ても立っても居られなくて飛び出してきたんですけど廃倉庫の場所が分からなくてうろうろしていたらたまたま洋次さんが走って行くのが見えて追いかけてきたんです」

 「心配かけて悪かったよ。でもここにいると危険だ早くここから出てみんなと合流しないと・・・」

 その瞬間だった。冷の後ろから志々見が飛び出してきた。その手にはナイフが握りしめられている。

 「危ない!」

 とっさに冷の腕を引き自分の後ろに回す。とっさに庇いにいった手に激痛が走る。勢いよく引き抜かれると黒いものが手の中に広がり零れ落ちるのが分かる。

 「余計なことばかりしやがって刺しちまったじゃねえか。もうしょうがねぇお前らまとめて殺してやる」

 「やめろ。この子は関係ない」

 「知るか!そこにいるのが悪いんだ」

 血走った目の志々見に洋次の声は届かない。必死で冷を庇いながらなんとか退路を確保しようと考える。

 「・・・・しましたね・・・」

 後ろで何かを冷が呟いているが頭が回らず聞き取れない。

 「洋次さんと刺しましたね。私の洋次さんをこんな目に会わせたあなたは絶対に許しません。大人しく死んでください」

 突然の冷の豹変に2人は動きが固まる。

 「誰が死ぬって?死ぬのはお前らだよ!」

 「逃げろ冷!」

 言葉では言っていても体が限界だ。動かない。女の子1人守れないなんて情けない。また真奈美に叱られる。

 その時だった。洋次の前に冷がまるでヒロインを助けに来た主人公のように飛び出すと襲い掛かる志々見を一瞬で氷漬けにしてしまう。

 「え・・・?」

 「このまま永遠に氷の中に閉じ込めてあげますね」

 いや待てなんだこの状況は・・・意味が分からない・・・

 「冷・・・」

 「洋次さん!大丈夫ですか?すぐに病院に行かないと!」

 「それよりこれ・・・」

 「安心して下さい。洋次さんを傷つける人はみんな氷漬けにしてあげますから!ちゃんと私が守ってあげますね」

 「これ・・・死んでるの?」

 突然のことに頭が上手く回らず間抜けな質問しかできない。

 「いえちゃんと意識ありますよ。死ぬまでずっと」

 今、真冬だったかな・・・?首筋に寒気が走る。

 「殺すなよ。こいつは警察に引き渡す」

 「でも洋次さんをこんな目に・・・」

 不満そうな冷をなだめ了承させる。

 「おーい。生きてるか?」

 速水の声が聞こえる。さてこれをどう説明するか・・・取りあえず手足だけ固定して後は氷を取ってやるか。冷に指示すると不満そうに口を膨らませながら渋々手足だけを氷で固定する。

 「どうなってんだこれ氷か・・・?」

 「まぁ・・・察してくれ俺にもよくわからん」

 「よくわからんがみんなが来る前に紐で縛っておくよ」

 今のでよく何も言わずにいてくれるものだ。速水に感謝し志々見を縛るのを手伝おうとするが手から出血していたことを忘れていた。冷が自分の服を破り止血してくれる。

 「ば・・・化け物!!!!!!」

 目を覚ました志々見が今まで聞いたこと無いような声を上げる。

 「失礼な。人の彼女に対して」

 冷が一歩、志々見に近づくと怯えながら地面を這いつくばって逃げようとする。

 「力也が後藤を捕まえてる。こいつもそっちへ連れて行こう。冷ちゃん洋次を頼むよ」

 嫌がる志々見を乱暴んい引きずりながら先に行く速水の背中を見ながら冷に話しかける。

 「かっこ悪いよな俺・・・解決したのも速水のおかげみたいだし足手まといで結局お前に助けられるし」

 「私を守ろうとしてくれた洋次さんかっこよかったですよ。弱いのは確かですけど」

 「やっぱり弱いよな・・・・」

 「大丈夫です。私が守ってあげますからだって私は洋次さんの奥さんですよ」

 「まだ・・・だよ・・・」

 「まだってことはゆくゆくはそうってことですね!」

 「まだまだ・・・だよ・・・」

 そんな話をしながらみんなのところへ帰っていく。

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