第8話

 泣きそうな顔をしながら怯える山口に2人は話を続ける。

 「俺、思ってたんだ。お前、俺達が公園を調べるってなったときやけに気を使ったしゃべり方をするなって。いたんだろ志々見があそこに」

 「待って下さい。速水さん山口さんが洋次さんを襲うなんてそれこそこの前の私ぐらいおかしいじゃないですか!」

 「殴られた後、ゆっくり考える時間があったからさ、ずっと思い出してたんだよ。まぁ俺の頭で思い出せることなんてしれてるんだけど、ずっと引っかってたことがあってさ。何でお前、角材で殴られたって知ってたんだ?殴られた本人ですら知らない情報だぞそれ。だから誰も知らないんだよ。殴っと奴らしか」

 「何を隠してるんだ?何があったんだ?」

 2人の問いかけに肩を震わせながら真一文字に結んだ口を少しづつ少しづつ開ける。

 「ご・・・ごめん・・・三輪・・・2人の言うとおりだ。速水の言っていることも当たってる」

 絞りだすように一言一言、話し始める。

 「ちょうど夏休みが始まる前ぐらいにさ・・・カラオケ行ってた帰りに偶然、盗んで逃げてるあいつらに出くわして・・・俺の家、志々見の家の近くであいつ俺のこと覚えてた・・・怖くて逃げようとしたけど足が動かなくなっちまって気がついたらあの倉庫に連れて行かれて仲間にされてた・・・「何かあったらお前も道連れだ。家族も友達もがっかりするだろうな」って言われて・・・」

 「酷い!そんなの酷すぎです!」

 「続けて」

 冷が怒っているのを尻目に速水が落ち着いた声で山口を促す。その冷静な声に少し落ち着きを取り戻した山口が頷く。

 「あいつら2人、もう1人は財前忠治って言って志々見より年上なんだけどさなんか東京で知り合ったらしくてフリーターやってたんだけど客を殴って首になったって言ってた。ただあいつら仲はそんなに良いほうじゃないみたいで盗んだあとの取り分とかで揉めてたんだけど財前のやつが抜け駆けしようとしたんだよね。俺を使って」

 「抜け駆けですか?」

 「あぁ覚えてるか?公園と学校での出来事」

 「公園って俺が見た人影か?」

 「あれ俺なんだよ。ほんとあの時は肝を冷やしたよ。見つかるなんて夢にも思って無かったからさ」

 「あれお前だったのか。でも何であんなとこに・・・それに力也たちと一緒にいたんじゃ・・・?」

 「悪い、俺のせいだろ?」

 「あぁその通りだ。あの時、速水がいなくなったおかげで俺は探す振りしながら単独行動できたんだよ。あの時は正直に言うとチャンスだと思った」

 「でも何であんなところにいたんだ。もしかして俺の拾った石と何か関係が?」

 「その通りだよ。財前は志々見に内緒で宝石をガメようとしたんだけど隠し場所に困ったんだよ。あいつはここの人間じゃないからそれで俺に志々見の目を盗んでガメて来た石を俺に待たせておくことで欺こうとしたんだよ。でも俺、そんな物どこに隠せばいいかわからないし自分で持っておくなんて怖くてできなかったからさ。公園に夜、埋めたんだよ」

 それであそこに石が落ちていたのか。それにしても昼間見てもどこが掘り返した跡なのか全くわからなかったけどあの下に埋まってたのか。それに感心していると

 「あっ埋めたのはもっと奥の林なんだ。だから分からなかったんだと思う」

 「速水は公園に何かあるって思ったからあの時いなくなったのか?」

 「はっきりとはわかってなかったさ。ただあの時、志々見に似た奴がどこかへ行くのが見えてさ。ちょっとだけ跡を付けてたんだ。すぐに公園に戻ったけどな」

 洋次たちが山口を幽霊と勘違いして追いかけっこをしている間、速水はそんな危険なことに首を突っ込んでいたのかとその行動力に驚いてしまう。

 「それでそのあとどうなったんですか?」

 冷に聞かれた山口は話を続ける。

 「当たり前だけどさ。志々見が気がついたんだ。「おかしい」って」

 「そりゃそうだろ。明らかに減ってるんだし財前って奴はあまり賢くないんだな」

 「正直、年齢以外は志々見の方が上だと思う。喧嘩も悪知恵も。それで2人が揉めだして流石にまずいと思ってあの夜、掘り出しに行ったんだ。ところが俺自身はどれだけそもそも盗んでたのか知らなかったからさ、てっきり俺が渡された分だけだと思ったんだよね。どうも財前の奴、別で隠してたみたいでさ」

 「その隠し場所が学校だったんだろ?」

 「あぁ、財前の口を割らせてあの日、俺はお前らと一緒だったから知らなかったんだけど。あの時の人影、ホントは誰か知ってた。財前だよ」

 その答えに洋次は少し疑問に思う。おかしい、普通ならそこには志々見がいるはずだ。だがそこで出てきたのは財前だ。そのことを速水も不思議に思っているだろうと彼の顔を見るがそんな素振りはない。自分だけかと思い冷の顔を見るとやはり洋次と同じ疑問の顔をしていて安心する。

 「おかしくないか?普通は志々見が探しに来るはずじゃ」

 「あぁ最初は来たよ。覚えてるかガラスが割られてたの。あれは志々見の仕業だ。財前がここに隠したって吐いたから財前を連れて行ったらしいけど財前の奴、隠した宝石が無くなったきっと俺が隠したって騒いだみたいでさ。志々見も薄々、嘘だろうとは思っていたんだろうけどその時は時間も限られててだったら俺を締めあげて来いって話で終わったらしい。問題はそこからなんだ。財前の奴、確かに学校には隠していたんだ。ただ場所が違った。それが俺達も確かめたあの場所だったんだ。それだけなら嘘を付いて持ち逃げしたって話で済んだんだけど・・・」

 「無かったんだな・・・?」

 あの時のことを思い出しながら洋次が確認の一言を言うと山口はそれに頷く。

 「その通りだ。誰かに奪われてた。しかもあいつ俺がやったと思ったみたいであの日、電話で凄い剣幕で俺を問い詰めたんだけどさっき言った通り俺はその宝石の存在を知らなかった。三輪と冷ちゃんが倉庫を覗いてた日あっただろ?あの日ほんとは俺はあの倉庫に向かってたんだ。ところが途中で力也に出くわして行けなくなったんだ」

 「じゃああの時のお前は公園から掘り返した石を持ったまま俺達と会ってたんだな?」

 「そうだ。だからお前が俺の落とした石を持ってた時は内心、心臓が潰れそうだったよ。しかも警察へ届けるって話になってる。俺、テンパッてお前が石を持ってたことあいつらに話しちゃったんだよ。後はわかるだろ?」

 「それにしてもどうして宝石は無くなっていたんでしょうか?気になりますね」

 「確かにそこなんだよ。なんで学校に無かったのか俺にはさっぱりなんだ。財前の奴、宝石がないことに怒り狂って俺が盗ったなんて訳の分からないことを志々見に言い出したときは死んだと思ったよ。流石の志々見も俺の顔を見て違うと瞬時に分かったみたいだけどさ」

 「なるほど、ここで速水が出てくるのか」

 洋次はその原因を作った張本人の顔を見る。にやりと口元を吊り上げながら種明かしを始める。

 「その通りだ。山口には悪いことをしたな。だがこっちも色々あってな。その財前って奴、山口に宝石を隠させたように俺に相談していた後輩にもそれをさせていたんだ。後輩自身は財前とは直接の関わりは無いんだけどまず最初に何も知らない後輩にかすめた宝石を握らせてお前も同罪だって脅したみたいなんだ。当然、志々見がどんな奴かはよく知ってるから冷静に考える間もなく従って学校に隠した訳なんだけど少しして落ち着いた頃、俺に助けを求めて来たんで一旦、その後輩を志々見たちの手の届かない所に逃がして後はあいつらを引っ掻き回して痛い目に合わせてやろうと思って先に掘り返したんだよ。で、それがこれ」

 そう言うと持ち歩いていたリュックの中から何重にも袋重ねたせいで大きく膨らんでしまっている塊を取り出す。

 「しかしお前そんなものこんなところで取り出すなんて・・・というか持ち歩いてたのかよ」

 普段、誰よりも慎重なイメージのある速水の行動に洋次は驚きを隠せない。

 「まぁ誰もこんなもの持ち歩いてるなんて思わないだろ?家には置いておけないし。ひとまず洋次の家でも行くか!」

 「何でそうなるんだよ」

 「そうは言っても結構喋ってから言うのもなんだが物騒な話だからな。誰かに聞かれたくないしどうやって山口を守るかも考えないと」

 確かにそうだ。犯人の一人が分かった。自白もしている。証拠もある。だが洋次には山口を警察に引き渡すなんてことはできない。それは速水もたった数日会っただけの冷もここにいないみんなだってそのはずだ。

 「守るって・・・俺、三輪に取り返しのつかないことしちゃったんだぞ。俺のやったことは立派な犯罪だよ。泥棒の真似事までやって・・・駄目だよそれじゃ」

 「問題ありません!洋次さんはちょっと殴られたぐらいがちょうどいいんです!」

 「あぁその通りだ。だろ?洋次?」

 否定できないのがつらい・・・

 「その通りだ。よしっ!これから4人で作戦会議だ」

 泣きじゃくる山口を引っ張りながら家に帰ると両親も姉も出かけているようだ。都合がいい。そう思った洋次は先に冷に部屋へ案内させ飲み物とお菓子を取りに行く。姉の秘蔵のお菓子だが今日は山口のためだ、許せ姉よ。そう思いながら両手に抱え部屋へ向かう。扉の向こうからは泣き止まない山口をなだめる2人の声が聞こえる。

 「開けてくれ!冷!」

 わざと大きな声で呼びかける。扉が開くと中では正座の山口が目に入る。

 「あのなぁ山口、確かに痛かったけどもういいんだよ。別にお前は志々見に脅されてただけな訳だしそれにあの時、お前必死に止めようとしてくれてたの聞こえてたぞ・・・多分」

 「最後ので台無しです洋次さん」

 「まぁ洋次もこう言ってる訳だしあいつらがこんな強行に出たのは横からくすねた俺にも責任がないとも言えないからな。お前だけが悪い訳じゃないよ」

 「そうだぞ、速水のせいにしとけって」

 「私を怒鳴った人の発言とは思えませんね」

 「なかなか知らない間に言うような仲になってるな」

 そんな話を続けるうちにだんだんと普段の顔を山口も見せ始める。落ち着きを取り戻し始めたところでお菓子の袋を破きながら状況の整理を始める。

 まずこの事件も発端は夏休みが始まる少し前、志々見と財前と言う男2人が駅前の店から宝石などの貴金属を盗んで逃げているところにたまたま山口が遭遇。仲間に引き込まれたところから始まる。そしてその一方で志々見たちはもう1人、速水の後輩にも仲間になるよう声を掛けていたが彼はそのことを速水に相談、そこから速水が志々見たちについて調べることになった訳だがここでトラブルが起きる。元々、志々見と財前はつるんでこそいたもののどちらの立場が上かで揉めており今回の取り分でも揉め始めた。そして先に動いたのは財前、やつは脅して山口と速水の後輩にそれぞれくすねた宝石を隠させた。まぁこの時点で気づかれないと思った財前ってやつは相当な馬鹿だがそれは今は置いておく。それぞれが公園と学校に宝石を隠す。2人ともなかなか安易な隠し場所だが灯台下暗しとも言うので問題ないだろう。

 ところがと言うより当然、志々見は宝石がないことに気が付く、そしてどこにやったのかと2人は揉める。財前はとっさに山口のせいにするがそんな嘘が志々見に通用する訳がなく宝石のありかを吐く訳だがここでそれぞれ問題が起きる。

 まず山口が隠した仮にAの宝石としようこれが掘り出そうとした時に運悪く俺たちと遭遇してしまい焦った山口は一部の宝石を落としてしまう。

 そしてさらに学校に隠したBの宝石、これもまた話を聞いた速水によって先に掘り起こされてしまい。志々見たちが掘り返しに行った時にはすでに無く当然、奴らは怒り狂う。そこへ山口から宝石の一部を持っているという話を聞きつけた志々見たちは強硬手段に出る。結果、この頭の訪台が完成。

 「で今に至る訳だが・・・」

 「長い解説ごくろうさま。で志々見たちが今、持ってる宝石はAの宝石の一部ってことでいいんだな?山口」

 速水が確認すると山口は申し訳なさそうな顔をしながら

 「あの後、宝石を志々見に渡したんだけど財前を警戒して残りの宝石と一緒にあいつがどっかに隠してるよ」

 「なるほど、まずは奴がどこに残りの宝石を隠したのかだな。それと奴らを山口に近づかせないためにも豚箱にぶち込んでやらないと」

 「けどどうするんだ?山口が関わってるってことを悟らせずになおかつあいつらだけを捕まえさせるとなると中々に骨が折れるぜ」

 「こう言うのはどうでしょう。偽物の宝石を作ってお前の宝石は我々が頂いた!ってところでそんな馬鹿な宝石は確かに○○の場所に!ってな流れで場所を特定というのは!」

 冷の案を聞いて洋次と山口は流石にそんなありきたりな作戦は無いだろと顔を見合わせるが意外にも速水が乗っかってくる。

 「いいかもね。そんな馬鹿しか引っ掛からなそうな単純な方が意外にいけるかもしれないぞ。現実には」

 「私、馬鹿にされてます?もしかして疑ったことのお返しでしょうか?」

 そう言いながら怪訝な顔を向ける冷に速水はこう言う奴だというサインを送ってやる。

 「しかしそうなると問題はどうやって偽物を作るかだな。いっそここにある本物を使うか!」

 冗談とは言えない口調で速水が言い出したのを遮るように山口が言葉を挟む。

 「多分、ばれるよ。財前が持ち出した宝石は時計とかネックレスばっかりだったんだけど志々見が今持ってるのは指輪がほとんどなんだ。あいつ学校で見つからなかった時もちゃんと時計を盗んでんじゃねぇって言ってたから中身を大体は把握してるだろうし」

 「偽物の件なんとかなるかもしれません」

 突然、冷が不思議なことを言い出す。

 「なんとかっておもちゃの指輪でも買って来るのか?」

 「いえ、正直、お話しするのは難しいんですけど山口さん、その志々見って人の持ってる指輪はどんなだったかわかりますか?」

 「あ・・・あぁ・・何となくだけど共犯者になるために見せられたから覚えてるよ」

 「大体でいいんで絵に書き出して貰えますか?」

 「わかった冷ちゃんを信じるよ。ただし俺の絵には期待しないでくれよ。俺、美術の成績2なんだよね」

 「1じゃなければ何とかなるだろ」

 速水の厳しいツッコミに少し山口が笑顔を見せる。

 「取りあえず偽物はクリアとしてあとはどうやって志々見を呼び出すかだ」

 「それは俺が何とかするよ。後輩のこともあるしあいつにとって俺は目の上のたん瘤みたいなものだからな。適当に理由作って呼び出すよ」

 「それじゃお前が犯人ってバレバレじゃねえか。すぐに復讐してくるぞ」

 「そこは俺と志々見が2人のところにいきなり変な奴登場!動揺する俺をしり目に志々見と交渉って訳だよ。頼んだぞ洋次!」

 「えっ・・・・えっ・・・?」

 念のため「えっ」を2度ほど言ってみる。まてまておかしいだろ。

 「何で俺が一番やばい役なんだよ」

 「そうは言っても俺や山口がやったら疑われてしまうだろうし冷ちゃんにやらせる訳にはいかないだろ?」

 確かに山口や速水が関わっているという疑いを完全に回避つつ志々見から隠し場所を聞き出すとなれば洋次しかいない。もちろんこんな役を冷にやらせる訳にもいかないので速水の言っていることはなんら間違っていない。

 「洋次さん応援してますから!」

 呑気な奴だ。しかし山口のためにも自分がやるしかない。

 「分かったよ。ただし顔、分からないようにしてくれよ。もし分かれば俺が殴られた仕返しにきたって逆恨みされるからな」

 「その辺は任せておけ」

 「それでいつやる?」

 カレンダーを眺めながら速水が答える。

「そうだな。今度の夏祭りの日なんかどうだ?人が多ければ万が一って時もあいつらも動きにくいだろうし、会場は公園だが倉庫のある辺りは静かで人通りも少ないだろうからあいつらだって警戒こそしても誘いに乗ってくるだろう」

 「しかし隠し場所が分かったとしてどうやって志々見から奪うんだ?」

 「その辺りは・・・」

 速水がそう言いかけた頃、下からインターホンの音が鳴る。

 「ちょっと行ってくる」

 そう言って部屋をでて玄関の扉を開けるとそこには見知った顔が

 「なんでお前らがいるんだ?」

 立っていたのは力也、飯田、小林、中川とさっき別れたばかりの4人だった。

 「おう、上がれよ」

 後ろから速水が声を掛ける。

 なんでお前が言うんだ。それよりもこれはどういうことだ。そんな洋次の顔を察したのかタネをばらす。

 「山口には了解は取ってあるよ。流石に俺たちだけって訳にいかないからな詳しくはまだ話してないんだがメールしたらあっという間だったよ。けど全員が揃って来るとは思わなかったな。どうしたんだ?」

 「たまたまだよ」

 「よく言うわよ。大騒ぎしながらみんなの家周ってたくせに」

 「小林の言う通り飯田が全員の家、周ってさ。これから洋次の家に行こうとしてたら大きな声が外から聞こえると思ったらこいつだよ」

 「恥ずかしいしあんたに必死でついていかないとでクタクタよ」

 「そう言うなって。山口のピンチなんだから。なっ?中川?」

 「一応、三輪君もピンチみたいよ」

 「それはまぁいいさ」

 「そうね」

 力也と小林があっさりと流す。なかなか酷い2人だ。こいつらだけ外に締め出してやろうかと思ったが山口のためだ我慢、我慢と言い聞かせ中に4人を上げる。

 流石にそれほど広いとは言えない部屋にこれだけの人数が入ると身動きが取れない。速水の部屋ですらそうだったのだからもう一回り小さいこの部屋では日が沈んだとはいえ真ん中に置いてあるお菓子を取ることすらちょっとした運動になるほどだった。エアコンは今までに聞いたことがない音を立てながら仕事をしていた。頼むから壊れないでくれよ。そう願いながら4人の飲み物を洋次が取りに行く間に速水が状況を説明する。

 「なるほどね。山口も水臭いな。俺に相談すればあの野郎とタイマンで・・・」

 「馬鹿な事言うな。相手は志々見だぞ。刃物なんかも隠し持ってってもおかしくないだろうし。お前、部活の仲間の迷惑も考えろ。大体それじゃ山口が復讐される」

 「と言っても奴らから宝石を奪ったとしてどうなるっていうんだ?このまま今、持ってる宝石を警察にでも渡してあいつら犯人ですっていうのは駄目なのか?」

 「飯田、それじゃ俺らが逮捕される」

 「最終的にはあいつらに宝石は返すさ。ただ一部でも隠されてしまうとあの志々見のことだ。出所後それを使ってまた悪さするかもしれない。それだったらきっちり耳をそろえて取り返してやった方がすっきりする。これはただの俺の自己満足だよ。どちらにせよあいつらを呼び寄せないことには始まらないからな」

 宝石を全て取り返すという目的と算段は曖昧ながらもついた。だが肝心のどうやって山口をあいつらから逃がすかだ。普通に警察に突き出しただけでは志々見たちのことだ山口の名前を出して道ずれにするに違いない。ならどうするか。ああでも無いこうでも無いという会話が始まる。

 「難しいな。あいつらを黙らせる脅し材料があるのが一番なんだが、宝石は使えないし」

 「やっぱり俺が首根っこ掴んであいつらを・・・」

 「だからそれは駄目だって」

 「志々見のかーちゃんにでも頼むってのは?」

 「それでうまくいくならそもそもあいつグレてないだろ」

 どれもこれも決め手に欠ける。中々決まらず全員の集中力が途切れかけた頃、飯田がふざけ気味に意見を出す。

 「いっそ夏にちなんで幽霊でも出して驚かすか?喋ると呪うぞって」

 何とか山口を助けてやりたいがやはり強硬手段しかないのかそう思ったとき冷がポツリと呟く。

 「その志々見って人は私はよく知りませんが財前って人、結構怖がりかもしれませんよ」

 どういうことだ?全員が冷の口元に注目する。

 「私がちょうどこの町に来た日のことなんですけどその日の夜、私はあの公園にいたんですけど何時ごろだったかな?洋次さんと会う前です。何だか声がするなって思って外を覗いたんですけど私の見間違いでなければその財前って人がふらふらと歩いて来るのを見たんです。何、してるのか気になって見ていたんですけどその人こともあろうにそこで用を足し始めたんです。私、その時びっくりしてしまって蓋を勢いよく閉めたんですけどそしたら突然慌て始めて周りを見渡しながら『誰かいるのか?ふざけるなよ。ぶっ飛ばすぞ』なんて物騒なことをいいながらものすごい速さで元来た方へ戻っていったんです」

 「なるほど。ところどころおかしな点があった気がするがそれは洋次に後で聞くとして志々見ではなく財前の方から切り崩すか」

 速水の言うとおりところどころおかしな話だったが聞く限りでは財前は飯田以上にお化けといった類が駄目らしい。これはチャンスかもしれない。あとはこれをどう使い志々見を黙らせるところまでもっていくかだ。

 「まずは飯田の考えた幽霊作戦で財前を黙らせる。このとき財前が志々見を再び裏切るように誘導する」

 すでに裏切りに失敗している。そんなに簡単に裏切るだろうかそんな率直な意見もでたが速水いわくどっかの茶碗と共に爆死した戦国大名並みに裏切るだろうとのことだ。そもそも志々見より年上である程度、やんちゃで通っていたような男が志々見に不満を持っていない訳がない。それに力也と揉めた時の様子からも簡単に釣れるだろうというのが速水の考えだった。さんざんな言われようだなと思いつつも山口を巻き込み洋次のただでさえそれほど良くは無い頭をこんな風にした財前に同情する気は全く起きなかった。

 「財前を引き込んだ後はまずは存分に2人で争って貰うさ。そこで山口を忘れてしまうほど殴りあってでもくれればいいんだけどそうはいかないだろうからしょうがないから山口には死んで貰っておこう」

 「「えっ???」」

 全員の驚きの声に速水が何かおかしなことを言ったかと言いたそうな不思議そうな顔をする。

 「どうせ幽霊役が必要なんだからちょうどいいだろう?と言ってもあまり大事になると厄介だからな洋次の家に行くと言ったきり行方が分からない程度にしておこう」

 どう考えても別の理由で洋次に被害がきそうだが黙っていることにした。

 「そうだな取りあえず山口はここに匿って貰え。それから財前の居場所とかはわかるか?夏祭りまでに奴を追い込んでいこう。当日、あいつを暴走させて志々見を混乱させる」

 「財前なら多分、普段は志々見がこっちにいた頃につるんでたやつの家で寝泊まりしてるよ。そいつ、志々見がいなくなってからは大人しかったから元々はイジメられるタイプみたいで志々見が帰って来た時は喜んで家に居候させたっていうおかしな奴なんだけど。そいつの家、親が居なくてさ。と言っても両親ともに仕事の都合でいないってだけなんだけど。それをいいことにあいつら根城にしてるみたい。俺も何度か行ったけど掃除してないから汚いの何のってよくあんなところで生きていけるぜ」

 「つまり2人とその家を提供しているやつの3人で住んでるってことか。そうなると1人誘い出すのは難しいかな?」

 確かに明らかに残りの2人に怪しまれるため家に呼び出しに行くのは得策とはいえない。となると財前が外を1人でふら付いているときに絞られるが洋次は奴の行きそうな場所を全く知らない。考えてもしょうがないので山口に聞くとどうやら昼間は駅前通りのゲームセンターに入り浸っていることが多いらしいあとはコンビニと根城の往復がほとんどだという。それにしても同じ駅前通りの店に盗みに入っておきながら何日も堂々と周辺を歩けるのは不思議なものだ。いくら何でもそこまで警察が馬鹿なのはあきらかにおかしい。そのことをみんなに聞いてみると飯田がその問に答えてくれた。

 「そっかお前はこっちの人間だけど俺のとこは駅の方だからうわさがよく流れてくるんだけどさ。その入られた宝石屋っての昔から実は余り評判が良くなくてさ最近じゃ景気も悪かったらしくて店ももうすぐ畳むだろうって言われてた矢先に盗みに入られたんだよ。普通なら踏んだり蹴ったりな話なんだけどあの事件の後から妙に景気がいいんだよ。あたりまえなんだけどああいうのって保険を掛けてるらしいんだけどそれが結構な額、出たらしい。そういうのもあって最初は警察も結構、慎重に調べてたんだけど結局、志々見たちにも無いはずのアリバイが出てくるし宝石屋には名誉棄損で訴えるなんて言われて面倒になったんだろうな。所詮は他人事だよ。まぁ安心しろ志々見をマークしてる警察はいないからさ。分かってても手を出す気も無いだろうし」

 なかなか面倒な事件だったということに今更ながら痛感するもここまできたらやるしかない。

 「取りあえずそのゲーセンとやらには力也と洋次が行ってくれ。丁度いいだろ?その頭見せて話があるって言えばホイホイついて来てくれるさ」

 「私も行きます」

 「冷ちゃんはいざという時のために小林、中川と2人の後ろをつけてくれ。飯田はその居候先の男について調べてくれるか?今回の事件については関わりないとは思うが出てこられても面倒だ。俺と山口はここで夏祭りまでの計画を練る」

 「了解」

 飯田の返事に全員が頷く。それと同時に力也が立ち上がり時計を確認する。時計の針だ7時前を指しているが夏ということもありまだぼんやりと外は明るい。

 「まだ少し明るいとはいえ時間も時間だからな。今日は財前がまだゲーセンにいるかもわからないしここで待っててくれ。俺と洋次で偵察してくる」

 そう言って立ち上がると一目散に玄関へと向かう。

 「まてよ。行ってくる」

 冷にそう一言、声を掛けた後もう外に出てしまっている力也を追いかける。背中に三輪のくせにかっこつけやがってといういつもの悪口を浴びながら家を後にした。

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