ACT

 私と彼は“親友”だと思う。

 高校時代からの付き合いだから、もうかれこれ10年来ということになるのだろうか。周りの友達はみんな、いつも軽口を叩き合う私たちを見て、「男女の友情は成り立つもんだ」としみじみと言う。

 でも、私は知っている。本当は「男女の友情は成り立たない」ってことを。本当は、いつもギリギリのバランスで私たちの関係は成り立っているのだ。


 互いの家で飲んで泊まって行くのも、もう日常。今日も、彼の家で仕事の愚痴の言い合い、最近見た映画の話…たわいない会話のくりかえし。でも、特別なことは何も起こらない。互いに触れることも、もちろんない。

 あまりにも“友達”でいる期間が長すぎた。私はこの距離から抜け出したいのだけれど、踏み切る勇気がないのだ。間にあるのは、甘い空気ではなく気軽さ。甘い空気には触れたいが、この関係は絶対失いたくない。

 夜も更けてしばらくは、安いワインでわいわいやっていたが、やがて飲みすぎた彼は「ベッドは譲ってやる」とひと言残して床に寝てしまった。お言葉に甘え、彼の匂いのするベッドに横になったものの、その匂いに惑わされ寝れない。ため息をひと

つついた。下から聞こえてくるすやすやと安らかな寝息が、なんだか無性に悔しくて、私はベッドから降りて彼の横に座った。

 目はもうすっかり暗闇に慣れていて、彼の寝顔がぼんやりと見える。茶色いばさばさの髪、肉の薄いまぶた、無精ひげ、最近買ったと自慢してたメガネ。普段ならじっくり見ることもためらわれるそのひとつひとつをぼんやりと時間をかけて眺めた。

 きゅと胸が鳴る。…あーあ、なんだよ、寝るのにメガネなんてして。高いっつてたくせに。毒づきながら、そっとメガネに触れて外してやる。カシャンと近くの床に置いて、息をついた。

 ぼんやり思う。この音で、彼が目覚めて、ふと恋にでも落ちてくれないだろうか。昔どこかで聞いた童話みたいに。

 そっとささやかに、彼を見つめる。夜は長くて静かだ。

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