いつものダンジョン、初めてのダンジョン(1)

昼食時、宿で早めの昼食を食べてからギルドに来てみると、案の定、ノエルはギルドで昼食中だったようだが、そこは異様な光景だった。

ノエルは普通に昼食を食べているが、まさかのギルド長が相席である。まぁ、見た感じでは、女性同士の食事というか、姉妹の食事風景にしか見えないが、いかんせん、相手はギルド長である。ノエルの回りの席は全て空席である。

何故こうなったのかは、直ぐに分かった。野次馬的に様子見で誰かが近づいたり、ギルド職員がギルド長に用があって近づいた時、ノエルは気づいてない様子だが、ギルド長が殺気やら威嚇をしてくるため、自然と空席になり、このような状態になったようだ。

というか、ギルド長よ…昼食位はのんびり食べて過ごしたいのは分かる。分かるが、これは職権乱用には適用されないのだろうか?流石にやり過ぎだろう。

まぁ、俺はノエル待ちなだけなので問題は無く、のんびり適当に待つだけだが…ベテラン組やらギルド職員が何かアイコンタクトしてくるが、知らん。

というか、この状況をどうにか出来る人物に、俺は心当たりが無い。という訳で、『諦めろ』とジェスチャーだけやっておく。

暫く待つと、ノエルは食事を終え、ギルドの入口へと向かうが、流石はベテラン組、紳士的に直線ルートの道を空けた。まぁ、アレだ触らぬ神に祟りなし。ギルド長の前だし、あの食事風景を見たら、どう扱うべきかは簡単だ。

ただ、貴族階級の冒険者からすれば、縁を結ぶべきか悩むだろうが、最大の相手はギルド長、ギルド長の噂を良く知る奴は悩まずスルーの様だが、低階級の貴族からすれば、悩まざるをえないのだろう。

まぁ、俺には関係ないがな。

「準備は出来てるか?」

「あ、おはようございます!ミラさんと確認したので大丈夫です!」

「……ギルド長からは?」

「偉い偉い。って言われました!」

「……そうか。まぁ、準備が出来てるならさっさと行くぞ」

「はい!」

嫌な予感がするが、まぁ、さっさとダンジョンに行こう。ここ数日で色々な視線を受けたが、今日はガチでヤバそうだ。忘れた頃に帰ってくるレベルでダンジョンに潜ろう。

その前に持ち物確認をした方が良いだろうが、一応、ギルド長は冒険者経験もある。そのギルド長が大丈夫というなら、大丈夫だろうが、念には念を入れた方が良いだろう。

という訳で、ダンジョン入口手前で確認しよう。



「さて、あそこがダンジョンの入口になる訳だが、ちゃんと準備出来てるか確認してやる。……物見遊山気分で其処らの出店を見ているとスラれるから注意しろ」

「え?あ、すみません。結構露店が有るんですね」

「普通の店で買った方が良いものが多いけどな。あぁ、荷物は出さずに、中身をメモした奴か種類と数だけ言えば良い」

「えぇと…ギルド長が分かりやすくまとめたメモがあります!」

「……何やってんだか。どれ、見せてみろ」

いや、ギルド長の仕事じゃないし、本当に何やってんだ?まぁ、ミラの単独よりはマシだろう、と思った瞬間もあった。周囲を警戒しつつメモを見ると、食糧が3月分、武器の手入れ用具に回復薬やら調理器具に様々なマジックロール、他にも色々……あれ?俺がやったアイテムボックスのポーチより入ってないか?いや、それは別に問題じゃない。問題はマジックロールやらかなりの数の回復薬だ。今のノエルの所持金が今までの報酬だけとすると、確実に揃えるのは無理だ。回復薬だけなら節約生活をしていたなら大丈夫だろうが、マジックロールはたまにダンジョンで見つけるか、買うしか普通は入手出来ない。それこそ、魔法使いならば自前で作る事も出来るだろうが限度がある。しかも、ノエルが持っているマジックロールは質が良いのが少し有るが、問題はその数だ。普通の一軒家なら二軒位は余裕で建つぞこれ?

「…帰ったら抗議をするか。ノエル、マジックロールは絶対に命の危険を感じた時以外は使うな。むしろ相性が悪かったり、微妙と思った物は売った方が良い」

「え?ギルド長は安物だからバンバン使って良いって言ってたんですが…」

「…昨日の報酬で安いのが1つ買えるかどうかってのが真実だ。準備は善意だろうが、下心だろうが、なんだろうと手伝ってくれるからといって、相手にするな。パーティーを組んだ場合、余計な買い物をされる場合もある。なるべく1人で済ませろ。相手が例えギルド長で、権力を振りかざしても、だ。職権乱用や他の仕事はどうするか言えば引き下がるだろう」

「わ、分かりました」

良し、これで次からは多分大丈夫だろう。全く、過保護にも程がある。人に教育を任せておいて、お節介を焼きすぎるとは目も当てられない。本当に一人前の冒険者にする気が有るのだろうか?いや、無いな。このままだと甘やかす未来しか見えない。

という訳で、ノエルには悪いが、中層で食糧が尽きるまで頑張ってもらうとする。

「では、今から入るダンジョンについて簡単に言うと、樹海型のダンジョン、上層、中層、下層、最下層の4段階と言われている。上層の奥に最下層まで行ける大穴が有り、そこから中層に入る。ただし、中の構造は3月位で変化するため、その都度、冒険者や軍辺りが大通りの地図を作っていて、売っている場合もあるが、入口と大穴の位置だけは変わらないので、買う奴は穴埋めして売るか、行った所の目印にする程度だ。ちなみに、最下層に挑む馬鹿は居るが、帰って来たのは発見時に派遣された軍だけだな。行った時の半数以上が居なくなっていたが、それ以降、最下層だけ地図は未だに無い。まぁ、この樹海型ダンジョンは入口が複数有るのも特徴だが、上層の広さは大体、俺たちが居る街2つ分位の広さだが…」

「それより、早く行きましょう!」

「ま、聞くより体験した方が早いか」

いかんせん、教えるなんて慣れない事をするものじゃないな。ノエルには、肌でダンジョンの怖さを感じて貰うとするか。何、上層はただの樹海であり、ちょっと魔物が多いだけだ。上層はダンジョンの外という奴も居るが、あながち間違いではないと俺も思う。

何故ならば、確かに上層でも探せば宝は有るが、中層や下層に比べると外れが多い。それに、上層には魔物以外の動物も居るしな。中層や下層で魔物以外の動物は、冒険者以外で見たことは無い。

と、言うわけで、大穴に向かって直線で進む。ノエルは何を血迷ったのか、大通りを進む気のようだが、入口と大穴は直線上に有る。なので、道が無かろうが直線で進むのが早いのは道理だろう。

「あっ、魔物が」

「邪魔だ、退け」

「ふぇ??」

直線でダンジョン内を進むと、珍しく魔物と鉢合わせしたので、全力で殺気を放ち、脅して逃がした。ああいう雑魚は上層メインの連中の獲物なので減らすのは良くないだろう。

が、情けない声が後ろから聞こえたと思ったら、ノエルが涙目で座り込んでいる。どうやら俺の殺気に当てられたようだ……マジで?

「大丈夫か?」

「あぅ……」

「……少し休憩するか」

声を掛けてみたが、こちらを見て怯えやがった。一応パーティーメンバーだぞ?このままではノエルが使い物にならないので、仕方なく休憩を入れるが、ノエルには殺気に慣れてもらうため、あえて殺気を出したまま座る。まぁ、上層の魔物でも強い個体以外は逃げるので得策だろう。

「うぅ……」

「これ位の殺気で怖気づくな。魔物だろうと殺気を出すのも居る。これに慣れなきゃ、中層以降はやっていけないぞ?」

「ぅ……うぅ、分かりました」

「ま、気絶しないだけましだがな。そこは及第点にしといてやる」

まぁ、発狂や失神をしないレベルでそこらの新人の中ではかなり良い方だろう。パーティーメンバーなので、逃げないというのも良い点だ。と、いうわけで、殺気を出しながらノエルに近づき、無言で頭を撫でてやる。

「んっ……はぅ」

一瞬、ビクッと体を強張らせたが、ただ頭を撫でられてるだけだと分かるや、少し落ち着いてきたようだ。

…少し時間がかかったが、多分、大丈夫だろう。とりあえず、目的地が中層なだけに日中には着きたいものだ。いつもの狩り場なら安心して休めるからな。

まぁ、その前に、ちょっとした試練というか、遊びがあるがな。失敗したら死だが、そのスリルを味わいたいという冒険者は多いだろう。

「さて、やり方は軽く見せるが、失敗はするなよ?」

「は、はい」

丁度、穴の下へと伸びる鎖に布を当て、その上から鎖を握り、持ち方や止まり方を簡単に説明してから、俺はそう言って、穴の下へと落ちていく、慎重な奴は壁を蹴りながらとか、ゆっくり、ゆっくりと降りる奴も居るが、俺はこのやり方しかしない。

何故なら、その方が早く狩り場に着けるからだ。早く着ければその分、獲物を大量に狩れる、合理的だろう。

ただ、問題は、鎖が丁度目的地までしか長さがない、という事だ。鎖はいくつかあるが、目的地に合わせた長さしか基本的には無い。まぁ、最初は軍が使用した物だが、自腹で鎖を下ろした奴も居る。

で、俺は軽い懸垂降下の要領で、目的の階に到着したわけだが、ノエルは……着地に失敗して軽く転げ回ってる。というか、前転までして、止まれれば、まぁ、かなり良かったが、木にぶつかって、軽くのたうち回って項垂れてるだけだ。

「まぁ、滑落死とかしないだけマシだ。あと、ここから先は、そんなに騒ぐとかなりの数が寄って来る場合が有るから注意しろ」

「うぅ……分かりましたぁ」

先行きがどうなるか分からないが、とりあえず、カバーはしていこう。依頼料のために。

「とりあえず、拠点があるからまずはそこを目指すが、見つけたり、向かって来る魔物は基本的に狩る。良いな?」

「は、はい!……でも、いきなり中層なんて、大丈夫ですか?」

「あぁ、問題無い。この階で俺より強い個体はそうそう居ないからな。コツさえ掴めば軍の小隊規模でも楽にキャンプ出きる」

「へ~、なるほどって、私達は軍隊じゃないですし、小隊より人数少ないですよねっ!?

「まぁ、大抵は俺が相手するから気にするな。なるべく個体別にレクチャーしてやる。」

まぁ、レクチャーはあいつ等を使えば大抵問題無いだろう。下の階層のヤツも居るが、何、ここが"安全なキャンプ地"だから下の強さを知るのはむしろ良い機会だ。

と、いうわけで、キャンプ地兼拠点に向けて歩いている訳だが……何体か出迎え兼邪魔者排除をしているようだ。

やれやれ、基本的に餌になるから良いが、素材は劣化物になるから売りに出せないし、加工も難しい状態になるから基本的に放置しか出来ないが……あいつ等、最近舌が肥え始めてきて餌になる魔物とそうでない魔物の区別しだしてるんだよなぁ。

現に味が不味いヤツがこっちに向かって来て、殺気に気づいて去っていくのを結構繰り返す始末……後で間引いとかないとヤバイかもしれないな。

しばらく道無き道を歩き、ようやくキャンプ地に到着した。まぁ、簡易的な壁や門が有るからか、ノエルはちょっと驚いているようだが、キャンプ地の安全確保は大事だろう。特に、俺は"一応"ソロだからな。

「着いたぞ。ここが俺のキャンプ地だが……手を出すなよ?ここより下の階層の奴も居るからな」

「……えぇと、ガリルさんってテイマーでしたっけ?」

「いや。一応ギルドじゃソロ冒険者。軍には一時期居たが、下級魔法使い止まりだ。まぁ、此処ではテイマーというより、ブリーダーみたいな事はしている」

「でも、魔物ってダンジョンでは基本的に自然発生だったような?」

「全部が全部、そうとは限らないって事だな。とりあえず、今日は休みだ。狩りは明日からな」

「は、はい」

と、いうわけで拠点の中を軽く案内し、ノエルに部屋を与えてから装備や荷物の確認をしてもらい、俺はここの連中の健康状態の確認、明日連れていく奴の選定を行う。

一応、ギルドではソロで活動している事になっているが、ダンジョンの中は基本的には自己責任であり、ダンジョンの中で臨時にパーティーを組む場合もある。たまたま俺は、そのパーティーメンバーがダンジョンに居る一部の魔物なだけだ。と言っても、ダンジョンに発生するタイプではなく、外から落ちて来た奴やダンジョンで繁殖しているタイプだ。

まぁ、本来なら中層でもこんな上の方の階層よりもずっと下か、上層に居るようなタイプではあるが……まぁ、説明をする気は無い、面倒だからな。ただ、この拠点にいる連中は魔物の分類だと、ただ魔法が使える程度の獣、という分類だ。能力や生態を無視してそれらは魔物に分類される。害が無いのも魔物という分類にする理由は簡単、普通の獣より素材として需要が有るからだ。おかけで無害なヤツ程、歴史から姿を消していってるという現状が有るという事を偉い魔物学者が言っていたが、実際、ダンジョンの外だとあまり見かけなくなってきた魔物もいる。

まぁ、中には試し斬りや魔法の的扱いの魔物や動物が確かに居るが……俺的にはあまりオススメしない。何故なら、二流以上の冒険者だと他に試す方法を独自にしているからだ。

ちなみに、俺は今使っている武器を交換する場合、それで試し斬りをする。まぁ、だからこそ武器屋の親父には目をつけられてるし、敵意を向けられる理由でもある。

と、いうわけで、同行する魔物を選定し終え、明日からの大まかなレクチャーメニューを考えておく。まぁ、少しハードワークになる場合も有るが、依頼内容的には問題無いだろう。

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