閑話 ガリルの楽しみ

ダンジョンに向かう前日、ノエルと別れた後で、ガリルは久しぶりの餌に食いついた獲物に、内心ほくそ笑んで、いつもの帰り道ではなく、わざと貧困層のスラム街に向かい始め、わざわざ獲物が襲い安いように隙を作って道を選び、自らの狩り場へと獲物を誘い込むのに成功し、案の定、獲物はガリルに話しかけて来た。

「よう、オッサン。ちょっと、装備と金と持ってる物全部くれよ?」

「そうそう、この人数相手に勝てる訳ねぇんだから、言うこと聞いた方が身のためだぜ?」

「しかも、わざわざ襲って下さいと言ってるような場所に来てくれて助かるぜ。ここら辺がどんな場所か知ってるか?」

「……はぁ、期待外れだな」

「「あぁ?」」

ガリルは話かけて来た獲物を見て、ため息を吐いて心底がっかりした。尚且つ、オッサン呼ばわりされた事で、ちょっとムカついたので、早々に獲物を狩る事にし、合図の口笛を吹いた。

「何かの合図か?」

「んな事した所で、こんな所でお前を助ける奴なんて居るのか?」

「居るわけねぇだろw居たとしてもこっちは6人だぜ?」

「だよn……」

「まずは1人減ったな。どっちが狩られる立場か分かったか?」

合図から数秒、獲物の6人の内、1人の頭に矢が刺さって倒れ、混乱する獲物をよそに、ガリルはハンドサインで待てをかけ、攻撃を中止させると同時に、ぞろぞろと姿を見せ始めるスラム街の住民達。もちろん、獲物の退路など、この時には既に断たれている。

「……殺れ」

「たっ助けっ…」

「頼むっ!全てやるかっ…」

「クソがっ!!」

ガリルは混乱している獲物をよそに、ハンドサインと共に命令を下し、笑みを浮かべて獲物達の末路を見る。

命乞いをする者。

自棄になって挑む者。

混乱から回復せず、よく分からないまま死ぬ者。

逃げ道など無いのに逃げようとする者。

獲物は全て、最初の1人と同じように、矢を頭に受けて絶命した。ガリルからすれば、こちらの損害はなく、なんとも呆気なく終わった感は有るものの、いつ見ても面白い獲物の行動と表情に満足し、死んだ獲物に近づいて、貰える物を物毎に仕分け始める。

「あ、あの、お、お母さんが病気で…」

「あ?……仕分けが終わるまで待ってろ」

仕分け中、スラム街に住んでいる1人の少年が、怯えた様子でガリルに声をかけ、薬を求めて来たが、素っ気なく返事をして仕分け作業を続ける。

「…後は肉だな。他に怪我人や病人は居るのか?シスターでダメなら俺には何も出来ないが…食料には変えてやるよ」

仕分けが終わり、獲物の血抜きを行い、内臓を出しながら、他にも居ないか尋ねるが、他には誰も居ないようだ。

まぁ、今回はノエルが居るから人肉と分からないように加工しないとな。

とりあえず、当面の問題は…

「で、お前は母親をどうしたい?」

「えぇと、山分けの報酬を…薬にしてくれると」

「……はぁ。お前、此処にいつ来た?」

「?えぇと…7日前です」

「誰かコイツに此処のルールを教えたか?」

何か引っ掛かる。そう感じて、回りの連中に確認を取るが、案の定、新入りだった。

しかも、誰も彼もコイツを見たのが今回初めてみたいな反応だ。

つまり、根っからのスラム育ちではなく、没落だの何らかにより、スラムに流れ着いた方だろう。

「んじゃ、今日からここら辺の連中と同じ扱いをするが、スラムのルールは後で誰かに聞け。んで、久しぶりの新入りだ。他の縄張りに行かれても困るからな。今回は特別だ」

「え?…あ、ありがとうございます!」

人手は多いに越した事はない。というわけで、新入り君には報酬は無しで、少しばかりの金と薬草、回復薬を渡す。

当然、他の連中にはいつも通りの報酬と仕分けした物の中で俺がいらない物、まぁ、今回は肉と倉庫の鍵以外全てだな。と言っても新人歓迎ボーナスというわけで、3つ有った鍵の内、2つは報酬として差し出したわけなんだが…まぁ、人を狩る連中だ、中身はたかが知れてる。

さて、3つの鍵の内、当たりを引くのは俺か、それともスラムの連中か…実に楽しみだ。

翌日の早朝、結果としてはスラム街の住民が当たりを引き、少しだけ潤った程度だが、ガリルとしては、当たり外れを気にしている様子は無く、ただの賭博感覚のようだ。

ただ、ガリルが選んだ倉庫にはいくつか死体があり、鍵をわざと破壊してから衛兵を呼び、死体臭から気づいた事にして、後の仕事は衛兵に頼み、ダンジョンに向かうための準備を始める。

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