出会い

俺はガリル・ノースビレッジ。冒険者をやっている者だ。どうしてこうなったのかは理解している。理解はしているが、理不尽すぎると思う。一体俺が何をした?……すまん、色々やってたわ。まぁ、何が起きたのか思い出そう。

それは、何気ない何時もの日常を、これから行おうと、依頼探しにギルドに寄った時だった。

「~……寝みぃ」

俺は、欠伸をかみ殺し、中堅冒険者と呼ばれるランクに上がって久しく、何時もの時間帯に何時ものように来た。

「あっ!ちょうど良いタイミングですっ!」 「……今日は帰ろ」

ギルドの受付員の制服を着た女性、ミラ・アンブルソンは俺を見つけるなり、カウンターから俺に向かって急いでやって来る。当然、嫌な予感しかしないので、俺は入口の方を向いて歩き出す。

「ちょっ!?待って下さい!良いんですか?、"アレ"、他の冒険者にバラしますよ?」

「あ゙ぁ゙?……仕方ねぇ。で、どこで話す?」

「奥のテーブル席で先にお待ち下さい」

「チッ……分かった」

あのアマ、逃がすまいと脅迫して来やがった。心当たりが有りすぎるが、どれもアウトだから従うしかねぇ。オマケに指定席は人気の少ない場所……嫌な予感しかしねぇ。

だが、今の会話でベテランの冒険者は指定席近くから逃げやがった。まぁ、逃げたり我関せずで依頼を見たり受付する奴は問題ない。問題はそれ以外だ。

席に着いて待ってるだけだが、ヒヨッコやバカな冒険者は女性受付員と少し親しげ?に会話しただけで睨んできたりしやがる。バカか?ある意味、恐怖対象だぞ?奴は。

まぁ、こういう輩が女性受付員が増える要員でもある。自分が働き蜂になっていると気づかないものかね?彼女らは冒険者より商人や貴族の方が好きに決まっているだろ。誰が好き好んでいつ死ぬか分からない相手を好きになる?夢を見すぎるなよバカ共が。

っと、こっちに……多分だが、見間違いじゃなければ、依頼書と一緒に妙なのを連れて来てるな?何だ?予測が難しいな。

「お待たせしました。こちらは新人冒険者でサポーターの」

「ノエルと言いますっ!あ、あの、よろしくお願いしますっ!」

「……ガリルだ。なぁ?バラして良いから帰っても良いか?」

あれだ、虫の報せっていうか、嫌な予感がさっきから止まらないので、名乗られたので名乗り返しただけだから帰して欲しい。まだ依頼内容も聞いてないし問題ないだろ。頼む、帰して欲しい。嫌な予感が正しければ、ガキのお守りなんぞしたくはないっ!

「まっ、まぁまぁ、そんな事言わずに、依頼内容を見てからでも良いじゃないですか」

「…………分かった。分かったからその手を離せ」

「ありがとうございます♪」

一体どうなってやがる?帰ろうとしたら手を掴まれ、ミラの働き蜂やファン連中が更に睨んで来やがったのは分かる。だが、ギルド職員まで睨んで来やがった。この状況で帰るものなら、奴等の相手や上位の冒険者をけしかけられる可能性がある。そんなの相手にしたら、流石に骨が折れるし命が危険過ぎる。

で、座り直して、非常に遺憾だが依頼内容をしょうがなく見てみる。


依頼

新人サポーターのノエル嬢とパーティーを組み、新人サポーターのノエル嬢の護衛兼冒険者として必要な事の教育(持てる技能、技術、全て教えよ)


報酬

1日50銀貨


注意事項

新人サポーターを無事に生還させること。性的行為の禁止(同意を除く)、身体に欠損がある場合、罰則金の請求有り。

罰則金は所持金全て。

命じゃないだけ有難いと思え。


補足

尚、この依頼書を見た場合、了承したと見なす。


「……ふぅ。俺は何も見ていない」

「見ましたよね?依頼書」

「見てない!何も覚えてなどいない!」

「依頼受理して来ますねっ!」

「待てっ!人の話を聞け!……クソがっ、嵌められた」

…… 完全にしてやられた。ルンルンと軽い足取りで受付に向かうミラを尻目に、机に突っ伏して反省する。

これじゃ、とんだ道化師だ。ギルド全体で企んでやがった。何故ならギルド長が目を通した印の消印がちゃんとしてあった。つまり、あれは正式な依頼書であり、ギルドは冒険者の中で腕のたつ奴に目をつけ、パーティーだと、大体依頼書を見るのはリーダーであり、その場合、有能なパーティーの分裂にもなりかねないため、ソロの俺に目をつけたのだろう。

まぁ、実際にギルド子飼いの暗殺集団を撃退したり、なんやかんやギルドの闇に浸かっているからな。だが、それでも冒険者だ、嫌な依頼は断る事が出来るし、自分で選ぶのが普通だ。ただし、それは全て受理前なら、な。依頼を受理された後だと、罰則金を払う事になる。手痛い出費だ。そんなもの

誰も嫌だろう。

「あの?大丈夫ですか?」

「ん?……あぁ、大丈夫なわけない。だが、まぁ、よろしくな」

「?えぇと、はい」

ノエルがこっちの心配をしてきたが、原因でもあるため微妙だ。一応、パーティー登録までしてるだろうし、ミラが戻って来るのは遅いだろう。

ただ、ノエルを見て疑問に思う事はある。見た目は……ふさふさの獣耳と尻尾、顔は……まぁ、可愛い方だろう。ただし、子供に近い身長と、それよりも大きい荷物。 まぁ、獣人族でサポーター志望なら納得は出来る。獣人族はパワータイプが多いからな。

だが、問題はただ一つ、何故、ギルドが彼女にここまでするのか?だ。

普通なら、ギルド職員が冒険者登録時にある程度教え、それで終わりだ。あれか?どこかの貴族の令嬢か何かか?……いや、近場の領主は人族のはず、と、なるとギルドと繋がりのある……いや、冒険者ならともかくサポーターなんぞやらせる所はまずないはず……全然分からん。

「あの?……あんまり見つめられると恥ずかしいです」

「ん?あぁ、すまない。少し考え事をな」

「そうなんですか?」

「……あぁ」

……性格も良い方だな。だが令嬢感はゼロだ。普通の獣人族にしか見えん。こうなればミラに問い詰めるしかないが……流石に働き蜂やファン連中が襲撃してきそうだ。ここは、応接室を使うか違う職員を捕まえて問い詰めよう。

「お待たせしました。依頼書は無事に受理されましたので、良き冒険を」

「あぁ。……で、もう少し詳しく聞きたいので応接室で依頼書を書いた奴か事情に詳しい奴に会いたいのだが?」

「……では、応接室にてお待ち下さいませ」

よし。ある意味、これでギルドの魂胆が分かる。ミラには悪いが用済みだ。俺はノエルを連れて応接室に向かう。

そして現在、応接室にてまさかのギルド長とミラの対面にノエルと一緒に座り、説明を受ける所だ。クソがっ、本当に意味がわからない。

「で、依頼で何か分からない事でも?」

「いや、依頼内容では特にない。嵌められたこっちが悪いからな。ただ、この嬢ちゃんにこれだけの待遇は納得出来ない。新人共にバレたらヤバイぞ?それとも方針転換で新人にかなり優しくなったのか?」

ギルド長のミリシャが威圧をかけて尋ねてきたので、威圧を返すように問題点と疑問点を尋ねてみる。いや、ギルド長相手に問題を起こす気はないが、尋ねた瞬間、こっちを憐れむような、やれやれみたいな視線や態度は止めてくれ。一体、なんだと言うんだ?

「はぁ、仕方ありませんね。ミラ、説明を」

「分かりました。新人サポーターのノエル様は現在、ギルド運営の宿や、街の宿ではなく、ギルド職員の寮で生活しております。ちなみに私と相部屋です。滞在期間はまだ3日程度ですが、ギルド職員の癒しになってます」

ん?……いや、説明……だよな?えぇと、つまり……は?意味が分からん。

「すまん。意味が分からん。つまり、ギルド全体がグルになった理由は?」

「はぁ……これだからモテない童貞野郎は。良いですか?私共ギルド職員はノエル様を溺愛してるのです!このモフモフの尻尾とか手触りヤバイですよっ!?人をダメにしますっ!!……コホンッ、なので、どれくらい可愛いかを私が!主に広めて、ギルド長までメロメロにして、無事に生還出来るように手配しました」

……今は、怒りを抑えておこう。で、問題はミラが暴走し、ギルドを巻き込んで結託した事だな。これ、上にバレたらヤバくないか?大丈夫か?このギルド。

「安心しなさい。ちゃんとギルド長の私が精査して作成した依頼書です。不備はありません」

「は?……つまり、依頼主はギルド長、だとっ!?」

いやいやいやっ、どや顔で言われても混乱しかないわっ!?つーか、その護衛対象で話の中心の嬢ちゃんは、恥ずかしくて俯いてるじゃねぇか……あ、今、なんとなく理解した 。

「つまりだ。この嬢ちゃんはギルドのお気に入りで、サポーターだが、一人前の冒険者にしたいわけか」

「その通りです。ソロで活動してる貴方なら、ある程度1人で活動出来る事は教えられるはずですよね?」

「チッ……最初から狙いは俺だけかよ」

「ウチでソロで活動してる中で強いのは、まず、貴方ですから」

ニヤニヤとこっちを見るミリシャ……めっちゃ腹立つな。オマケにミラはミラで、説明は終わりとばかりに嬢ちゃんにベタついて餌付けしてやがる。

これはアレだ、誰に依頼したか後悔させてやるか?……倍返しで仕返しがヤバイな。だからギルドは嫌いなんだ。

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