第9話:VS高性能EP専用機EAクルスニク
「単騎……故に覇王ってね」
「ほざいたな貴様……!」
雰囲気が変わり、威厳とも言える春夜の放つ圧をサツキ達も察するが、その傲慢なプライドと怒りの篭った言葉で睨み返した。
「良いだろう……その愚かさを後悔させてやる。覇王だなんだと言えど、貴様はEAから離れた子供。日々、訓練や実戦にて鍛えた我々大人との格を教えてやる。――閏様もそれでよろしいでしょうか?」
サツキは念の為に閏に許しを求めた。
認めたくないが春夜は閏の親友。万が一負けた後、閏に泣き付かれもすれば面倒だからだ。
先手を撃つ。そのつもりでサツキが閏に聞いたが、その思惑は外れることになる。
「よろしいもなにも……僕は最初からそのつもりだったけど?」
何を当たり前な事を聞いているのか?
そんなつまらなそうに呟く閏は、興味なさげにサツキ達を見下す様に見ながら言うと、サツキの表情は崩れて4人のEP達もザワついた。
「ど、どういう事でしょうか?」
「そのままの意味さ。世界を制覇し、粗悪とはいえゼネラル級を春夜は一人で倒している。そんな腕が健在の覇王に、プライドだけで生きている君達が一人ずつ戦ったところでディーバ。そして“新型”の性能テストにならないじゃないか」
閏にとってサツキを含め、殆どのEP隊員など有象無象に過ぎなかった。
今も頭の中ではサツキ達の場所に春夜がいればとすら妄想し、サツキ達への興味はほぼ無し。
サツキ達も態度や口調でそれを察し、何とも言えない表情を浮かべるが、春夜は先程の言葉が引っ掛かった。
「なんだ新型って?」
「あぁ言ってなかったね……本当なら君にテストして欲しかったんだけどさぁ」
お披露目、と言わんばかりに閏は嬉しそうな表情で言うと、サツキ達に目で合図し、彼女達は各々のEAボックスから、見慣れないEAを取り出して見せた。
――あのEAは……?
春夜はすぐに、そのEAが特別な物だと感じ取る。
フォルム、各部位やデザイン。それが今までのEAとは共通点が少なすぎたからだ。
そんな覇王が見慣れない機体――それは全体的に細身で、頭部はバイザーに包まれていた。
目立った部分も背部の翼の様な推進器、十字架の槍と円状の盾というシンプルな武装だけだった。
「EAWスタジアムでも見ないEAだ」
「当然さ。それは『T-EP03クルスニク』……型式番号から察せるとおり、EP専用機として開発した高性能量産型EAだよ」
EAを利用したサイバー犯罪に対し、TC・EPもEAの仮想化技術を強化してきた。
けれど、元となるEA。つまりは取り締まる側のEAが弱ければ意味がない。
だからこそ開発されたのがクルスニクであり、その基本性能と汎用性の高さは下手なカスタマイズ機よりも高くして製造された。
「少しずつ各支部にも実戦配備されてるんだけど、僕としては君の意見も聞きたくてね」
「そういう事か……評価する前に、倒しても文句は無しで頼む」
平然と答える春夜だが、その態度にサツキ達の我慢が限界を迎えた。
「良いだろう……! ならば望み通り、我々全員で相手をしてやろう!――全機、フィールドダイブだ!」
額に青筋でも出るんじゃないか。そう思う程に怒りで顔が歪んだサツキの言葉に、部下達も一斉に構えた。
「「「「了解!」」」」
サツキ達は一斉にバイザーを掛け、クルスニクを棺へとセットする。
それに対し春夜もバイザー下ろし、周囲の光景が仮想のコアへと変貌した。
『これが仮想世界の光景……色々とリアルだな』
グローブから伝わる感覚もリアルで、目の前にある操縦レバーも本当に触っている感覚があった。
目の前のモニターもEAWスタジアムのフィールドと大して違いはなく、ペダルが無くなっているが、そこまで扱いに差はない。
『仮想世界構築完了。エレメント散布終了。棺を放って、フィールドダイブを行ってください』
『おっ……これにもEYEがサポートしてくれるのか?』
聞きなれたEYEの言葉に嬉しさと安心感を春夜が抱くと、EYEも自身に満ちた声で返される。
『当然です。EYEシリーズの中で一番人気のサポートAIは私です。どんな時でもEAWをサポート致します』
流石は多くのプレイヤーの心を掴んだAI。試作品でのプレイでも全力投球らしく、色々と頼もしかった。
『ならサポートを頼むけど、プレイヤーカードは確認しないのかい?』
『プレイヤーカードは左腕のグローブの装置でスキャンして下さい。それにより、読み込みが可能となります』
EYEの言葉に左腕を見ると、確かに左腕にだけカードをスキャンする様な機械が装着されていた。
春夜は取り敢えずプレイヤーカードをスキャンすると、モニターに『DIVE OK』の文字が表示され、セットした棺をフィールドへと向けた。
すると棺は持ち主とワイヤーで繋がれたまま勢いよく飛び出し、フィールドを構築する機械へ自動で接続された。
そのまま機体はダイブし、仮想フィールドに村正が出現する。
――仮想で完全再現したフィールドか。さて、どんな感じかな。
春夜は実機のままとはいえ、仮想世界で再現したフィールドでの操作は初めてだ。
だから違和感があるのか軽く操作してみるが、意外にも感覚にも違いはなく、これには素直に驚くしかなかった。
『どうだい春夜? 違和感どころか、現実でプレイしているのと変わらないだろう?』
閏がいきなり通信に入って来たが、恐らくはディーバと仮想世界についての自慢でもあると判断し、小さく笑う。
だが別に文句もなく、春夜は肯定した。
『実際そうだな。違和感もなく、殆ど現実と違いもない。これなら市販化されても良い筈だ』
『君にそう言ってもらえて満足だよ……さて、そろそろ始まるね』
閏はそう言って消えるが、村正の目の前の上空には5機の機影が佇んでいた。
真ん中に佇むサツキ機だけ形状が若干違く、恐らくは指揮官機。
他の機体もカラーリングのそれぞれ違い、春夜はモニターにクルスニクのデータを表示させる。
――クルスニクS(風)・クルスニク(炎・雷・地・水)
――武装:タルボシュ(属性ビームショット兼槍)・カスタムシールド(属性ビーム刃・属性マシンガン内臓)
『属性も機体によって違うと来たか……武装も一つで全てを補う気か』
外見は同じでも属性別なのは厄介でだが、光属性は使えない様だ。
光属性は閏にも拘りがあるらしくEPでも例外ではないのが彼らしく、思わず笑みを浮かべているとサツキから通信が入る。
『ではこれより始めるが、これは貴様が言い出した事だ。どんな結果になろうが後悔するなよ』
『そこはお互い様。どっちが負けようが言い訳は無しでいこう……』
『――ほざけ!!』
サツキが叫んだと同時に開始のブザーが鳴り、5機のクルスニクがV字の編隊を組んで一斉に飛び出した。
『速いな、流石は閏の新型……!』
直進とはいえEP戦闘機は伊達ではなく、速度は下手な市販機では比べ物にならない。
閏が自慢げにしていたのも納得すると、水属性の大弓『海霧』を構え、接近される前に水のエネルギー矢を連続で広範囲に放った。
『
『了解!』
迫る矢を確認したサツキはクルスニクの4番機に指示を出すと、クロス4と呼ばれた
『ES発動――『青のクドラク』!』
カスタムシールドのESを使用したクロス4の前に、全機を守る様に大きな青い障壁が出現した。
それ触れたエネルギー矢全てはかき消されてしまい、防ぎ切るとESを停止させた。
『あれを全て防ぐか……!』
『はい。各カスタムシールドには対属性のESがあり、そのESの前には適応した属性攻撃は無効化されます』
防がれたがそれが逆に楽しく感じ、笑みを浮かべていた春夜にEYEが解説した。
各属性のクルスニク。それと同じ属性攻撃はシールドのESによって完全に防がれる、その事実を聞いても春夜に焦りはなかった。
『了解だEYE……上等な話だ』
『減らず口はそこまでだ!――
『『『『了解!』』』』
サツキの号令にクルスニクの隊形が変化する。
一見それはダイヤモンドと言われるひし形の隊形だが、真ん中にも1機、そして後方の1機は少し離れて“十字架”の様な形だ。
『何かの隊形だろうけど――!』
春夜は撃ち落とそうと日暮を上空へと撃つが、今度は赤色のクルスニクがESを発動させる。
『なんの! ES発動――『赤のクドラク』!』
真下からの射撃も赤い障壁で防ぎ切り、春夜は笑うしかなかった。
『埒が明かないか……』
射撃では無理と春夜は判断し、村正は雷火と春塵に持ち替えた。
『フッ――接近戦を挑もうとした事を後悔させてやろう!――行くぞ、クロスベリードだ!』
その言葉に上空の4機がタルボシュを構えながら、村正目掛けて急降下をしてきた。
『4機連携……!』
綺麗に回転しながら迫る4機に対し、村正は後方に下がると急降下した4機が地上に勢いよく着地した事で大きな粉塵が舞った。
だがその瞬間、粉塵の中から2機のクルスニクが飛び出して村正へ迫る。
『行くぞ覇王!』
『EP隊員を嘗めるなぁ!!』
槍であるタルボシュを構えながら迫る2機に対し、春夜も雷火と春塵にエネルギーを纏わせて迎え撃った。
『受けて立つ!』
春塵で1機のタルボシュを受け止め、更に側面に迫ったクルスニクのタルボシュも雷火で受け止めた。
そして素早く弾き、その隙を突いて目の前の1機を蹴り飛ばし、もう1機を斬りつける。
『ぐぅぅ! 反応が早い!?』
『ダメージ率がもう28%だと! だがまだやれる!』
1機は下がり、斬られたクルスニクも見た目より装甲が強く、傷痕を残して下がった。
――直後、残りの2機と合流し、4機は一斉に背部から『緑色の水晶柱』を射出。
村正の周辺に突き刺さり、発光と同時に周囲に風のフィールドを作り出した。
『これは『風のオベリスク』か……珍しい装備だ』
『ですがこれによって風属性の性能が増加いたします。これは全プレイヤーに影響をしますので、不利と判断すれば破壊する事もオススメ致します』
EYEの説明通り、周囲の属性影響率――その風属性の数値が急激に上昇していた。
これで風属性パーツの性能が向上するが、村正の持つ風パーツは春塵のみ。
『恩恵が少ないかな?……なら――』
『破壊する気か?――だがもう遅い!』
サツキの声で春夜は上空を見ると、村正の上空でクルスニクSが大きなエネルギーを纏わせたタルボシュを構えていた。
『オベリスクで強化した風属性タルボシュ――そのESを受けるがいい!』
他の4機が風のオベリスクを使ったのはクルスニクSの為だった。
4機が露払い、補助をしてクルスニクSの一撃で止めを刺す連携がサツキ達の強さであり、その一撃を持ってクルスニクSは構えた。
『これがタルボシュのES――『クルースニク』だ!』
クルスニクSはタルボシュを真下へと投擲。
強風と共に真下に放たれると、やがて爆発の様に巨大な暴風と緑光が村正ごと周囲を呑み込んだ。
『ターゲットに命中! やりましたよ隊長!』
『なに、お前達の働きあってこそだ。――だが、覇王といえど口だけの情けない奴だったな』
仲間からの通信を聞きながらクルスニクSも地上に降りた。
周辺は爆風でクレーターの様になっており、確認する意味もなかったが勝負は終わっていない。
『奴にLOST判定がでない? だが時間の問題だろう。――むっ?』
村正撃破の確認がない事も問題視しないサツキは、周囲の異変に気付く。
『なんだ……
クレーターを中心に立ち込める濃霧。
フィールドは水属性強化の水場もなく、フィールドの恩恵などでもない。
それが自分達を包み込んだ事でサツキはEYEに状況を問い合わせた。
『EYE02! これはなんだ!?』
『戦護村正の武装・水属性大弓『海霧』のESと断定。詳細は不明、しかし多少のジャミング効果を確認。視界に注意しろ』
EYE02の説明に、サツキは小馬鹿にするように笑みを浮かべた。
『足掻きだな……霧に紛れて奇襲し、1機ずつ仕留めるつもりか。だが無意味だ』
この手の小細工、サツキは何度も身をもって体験していた。
前に戦った仮想EA犯罪者も似た様な戦術を取ったが、要は周囲の視界を奪った所で、冷静を失わなければいい。
向こうは視界を封じて不安を煽り、方向感覚を狂わせた隙を狙うのが根端なのはサツキは分かっていた。
『各機、冷静に対処。奴は側面か背後から狙ってくるぞ!』
視界を封じながら馬鹿正直に突っ込んでくる者はいないと、4人に警戒を促した。
それにより他の機体も出来る限り、それぞれの死角を補う様に構えるのをサツキは確認すると、満足そうに頷いた。
『よし、後はどこからで来い……閏様もすぐに分かるだろう。貴様が嘗ての覇王とは違うことに』
サツキは春夜の策を破った気でいた。
遊びではなく、実戦で戦っている故の自信もある。
――目の前に自分を見る
『なっ――』
身に覚えのあるデュアルアイの光。
それに気付いた時にはサツキのクルスニクSへ、村正が二刀流で迫っていた。
『勝たせてもらう――!』
雷火と春塵を交差させながら突っ込んで来る村正に対し、クルスニクSもタルボシュで受け止めた。
その接触時に火花が散るが、しかし咄嗟の事で体勢が悪く、クルスニクSは徐々に押され始める。
『馬鹿な!? このクルスニクSは通常機の20%性能向上されているのだぞ!』
指揮官用の更なる高性能機。それがクルスニクS。
態勢が悪いとはいえ、EAW初期から発売されているEAに遅れを取る筈がなく、しかもサツキ自身もカスタマイズしていた。
けれど、春夜も生産された時期等で性能を計って欲しくはないと、強気の笑みを浮かべる。
『こっちの村正の方が特別だ……!』
この村正を春夜が手にしたのは7年程前だが、未だに現行機に劣らない高性能を発揮し、劣る点もカスタマイズで補っている。
『カスタマイズ・操縦技術、その二つの点も春夜の方が上なのさ……歴代で最も苛烈と言われた世代、その最初期の覇王だからね春夜は』
試合を見守っていた閏は楽しそうに呟いた。
自分が手掛けたとはいえ、新型のクルスニクが苦戦していても閏の興味は春夜の方が強く、その目は性能テストというよりも、ファンが暖かく見守っている様だ。
『ありえない! このクルスニクSが、こんな旧式に力負けしているのか!』
サツキは仮想レバーを全力まで押し、出力も警告が出るまで吹かすが、それでもクルスニクSは村正に押し負け続ける。
――推進器か、装甲か、フレームなのか! それとも最初期にして既に、ここまでの高性能機だとでもいうのか!?
だがもう一つ、サツキにはどうにも解せない事があった。
『ぐぅぅ! なんで真っ正面から! なにより何故、お前は無事なんだ!?』
サツキは分からなかった。
春夜の行動と村正の状態が。
わざわざ視界を封じたにも関わらず、馬鹿正直に正面から来たこと。
また強化した特大のESを受けたにも関わらず、村正には損傷らしい部分が見当たらない事もそうだ。
少しの汚れや傷ぐらいであり、強化したESが直撃、また直撃を回避したとしてもこのダメージはおかしい。
すると、そんなサツキの言葉を聞いた春夜は小さく微笑んだ。
『季節には季節の色があってね……生憎、
『甲冑だと……!?――EYE02!』
サツキはEYE02に詳細の名を呼ぶと、モニターに情報と共に説明が入る。
『四季シリーズ・甲冑『四常権現』――ES『四季化粧』はパッシブスキルとなっており、その効果は
『なんだと! つまりそれは――』
火山エリアなら火属性に強く、荒野では地属性にとフィールド依存して耐性が変わると言う事。
そしてモニターに映る村正の甲冑『四常権現』を見ると、確かに甲冑の模様が風属性の象徴色『緑』に染まっていた。
『つまり風のオベリスクか!』
『そういう事だ――ね!』
村正は二刀で勢いよくタルボシュを弾き、クルスニクSが態勢を崩した所に強烈な蹴りを叩き込んだ。
そしてクルスニクSは受け身も取れず、そのまま地面に叩き付けられた。
『ぐあぁぁっ!?』
『隊長!?』
霧が晴れ、他の4機もサツキの声で事態に気付いた。
『隊長を狙ったのか!? えぇい続け!』
赤いクルスニクの命令を聞き、赤を含めた3機がスラスターを吹かし、村正へと迫る。
残り1機もタルボシュの先端からビームとシールドの機銃で援護し、村正の動きを制限させようと試みた。
『多勢に無勢……上等』
村正も迎え撃つ様に二刀を構える。
EPという組織専用機だけあり、連携されるとキツく感じた場面もあったが、クルスニクが速くとも、それ故に彼等の操縦の粗さが付け入る隙だった。
――推進器の性能が良いんだな。
背部の推進器に依存し、地面スレスレで移動してくる3機。
春夜からしても速い事は認めるが、その分――
『――脇が甘い』
最初に突っ込んで来るクルスニクの脇を村正は潜り、後ろに回った直後に逆手に持った春塵を背中から突き刺した。
――春夜得意の背面斬り。
その一撃が致命傷となり、ECが破損したクルスニクは活動を停止して放電しながら地面に沈んだ。
『クロス3がやられたぞ!?』
1機がやられた事で足を止める2機。
その姿に村正も推進器を使って一気に上空へと飛び、その2機目掛けて二刀を振り上げながら落下。
『来るぞ!?』
『くそっ! なんで当たらない!?』
空ならば隙だらけで当てられると思っていたが、射撃担当のクルスニクの攻撃は村正に掠る事もできないでいた。
それだけ落ちるスピードが速いのもあるが、落下しながら更にスラスターも吹かしているで、その村正の姿はまるで隕石。
『構わん! お前は下がれ! ここはオレがいく!』
2機の内1機を下がらせ、黄色のクルスニクはタルボシュを両手で持ち、村正を受け止めようと試みる。
その直後、村正の持つ二刀の纏うエネルギーが増加。
落下・推進器の加速が合わさった斬撃はタルボシュごとクルスニクを両断した。
『クロス5まで!』
『く、くそぉぉ!!』
傍にいた1機は村正へタルボシュを向けるが、村正は雷火を振り上げてクルスニクの腕を両断。
腕と共に宙を舞うタルボシュ。だがクルスニクは、左腕のシールドからブレードを展開させて反撃を仕掛けた。
『たった1機にぃぃぃ!!』
『――されど1機さ』
村正は霜夜に持ち替え、ブレードを構えて接近しようとしたクルスニクの頭部に叩き込む。
そしてクルスニクは霜夜が刺さったまま踊る様に回り、そのまま倒れて停止。
最後の1機は自棄を起こした様に村正へと乱射した。
『接近させなければ――!』
雷属性のクルスニクは接近戦では分が無いと判断し、射撃戦に持ち込もうと考えた。
しかしビームや機銃が村正の周辺を着弾する中、村正はそのクルスニク目掛けて雷火を投擲し、それは吸い込まれるようにクルスニクに突き刺さった。
『な……なぜ、ここまで差が――』
シールドごと貫かれたクルスニクは、そう言ってLOST判定となり、燃えながら活動を停止。
そして村正も手をかざし、その手まで雷火を戻して握り直した時だ。
『これで4機撃破……残りは――』
『うおぉぉぉ!』
咆哮と共に、サツキのクルスニクSが背後から迫る。
クルスニクSはタルボシュとシールドブレードを展開しており、村正も雷火を戻し、望月へと持ち替えて受け止めた。
『何故だ! 何故お前に一人に我々が! 機体が特別なのか! 何でお前が勝っている!?』
『俺も村正も、最初からこの領域にいた訳じゃない……積み重ねだ!』
敗北も多く味わった。だからこそ今の自分と村正がある。
だから春夜自身、己が天才だとは思っていない。
ただ閏に会えた。強敵・サポートしてくれた人達に恵まれた“運”が強く、そこから積み重ねによりここまで強くなれた。
全ては経験が今の自分を作ったに過ぎないと、春夜は昔を思い出し、思わず苦笑してしまう。
だが、サツキはその言葉を単純に考えてしまった。
『努力だとでも言いたいのか! それなら我々とて同じだ!』
お前と何も違わない、そう言いたげに叫び、武器を振り回すクルスニクS。
それを村正は望月だけで受け、そして斬り込んだ。
すると両者高速で動くも、クルスニクSの破損が目立ち始めたが、サツキはまだ解せない事があった。
『何故だ! 何故当たらない!?』
それは自分の攻撃の殆ど、正確には槍のタルボシュを完全に春夜に見切られている事だった。
紙一重、けれどタイミング、リーチ、その全てを上手く回避し、まともに当たらない事がサツキは不思議でならない。
――何故ならば、このタルボシュはリーチを変える事ができる。
少しの長さ調整、それをマニュアルでだが常時変える事ができ、その僅かな長さの変化が相手の感覚を狂わせる事が出来る。
なのに春夜にはそれがなく、村正にダメージというダメージを与えられず、そのままクルスニクSに限界が近付き始める。
――腕の装甲・頭部、関節部も、悲鳴を上げ始めた!?
激しい接近戦の中、クルスニクSの各箇所の音が変わり、EYE02も警告を促す。
『破損率62%に到達。離脱を推奨する』
『出来るものか!』
我々はエリート。敗北すれば今までの功績すら無に帰る立場にある。
EYE02の意見を無視してサツキは戦闘を続行。
だが各装甲は破損し、頭部のバイザーも割れて隠れていたデュアルアイが露わになっていた。
それでも、逃げる理由はサツキにない。
『私は最強のEP実働部隊の副官だ!』
実績・周囲の信頼を勝ち取り、エリート達が集結するEP,その最も責任のある実働部隊の副官にまで昇りつめたサツキ。
なのに引けば、周囲・仲間からの信頼を無下にすると同じであり、サツキは捨て身の攻撃に代わり、シールドブレードで村正のECを狙うが――
『――雑になったな!』
感情的になった事で動きが荒くなり、春夜はすぐに対応。
その隙を突いた村正は左腕で殴ってバランスを崩し、そのままクルスニクSの左腕を斬り落とす。
『腕程度くれてやる!』
隻腕となろうがサツキは戦意を失わず、破損し始めた推進器も更に全力稼働。
タルボシュを構えながら突撃し、村正も背部推進器を起動して望月を向けて突っ込んだ。
――そして両者はぶつかる。
『……無念か』
クルスニクSのタルボシュは、村正の肩部の装甲に傷を付けた。
だが同時に、その腹部には望月が突き刺さっていた。
『一矢は報いたぞ……覇王……!』
『あぁ……確かに受け取ったさ』
そう言って望月を引き抜くと、クルスニクSは活動を停止。
勝負が付いた事で仮想空間ごと消滅する様に回収されて行く。
『おめでとうございます。勝利条件を確認、あなたの勝利です』
『ありがとう……EYE』
EYEの労いの言葉に春夜は笑みを浮かべるが、最後に付けられた傷を見て思わず呟いてしまう。
『……俺もまだまだか』
決死の相手との戦いから身を引いていた事が、ここでツケとなって返ってきたと春夜は思っていた。
けれど、久し振りの熱の昂ぶりを感じ、春夜は最初には感じなかったサツキ達との戦いを思い返し、今はその気持ちを実感できた。
――楽しかったっと。
♦♦♦♦
その後、ディーバを返却しサツキ達がこの場から出ていくのを確認した春夜は、EAボックスを持って同様に帰ろうとしていた。
「これで文句はないな、閏?」
「流石に親友との約束を破る僕じゃないよ……ただクルスニクの感想は聞きたいな」
ワクワクした様子で見てくる閏に溜息を吐くが、春夜は思った事を話した。
「腕の装甲は他より脆く感じた……武装とかも連携するなら良いが、一騎当千を望むなら改良しなきゃ駄目だと思うぞ?」
「……つまりは
「……そうだな」
内心を見抜かれている事が面白くない。
だが春夜はそれでも呟いて肯定する、それが閏だからだと理解しているから。
「でもプレイヤーがあれとはいえ、まさかS型でも駄目だったか……」
クルスニクには自身があったのか、閏は少し気にしていた様子だが、すぐに切り替えるのも彼だった。
「でも、これで今回の事は無意味になっちゃったよ……」
閏は春夜――そして、彼が“持つ物”を手元に戻すことが目的だった。
その気になれば強引にもできたが、親友を傷付けるのも嫌だ。
だから面倒な方法を取ったが、それも無意味になったと嘆く閏だが、春夜は違った。
「そうでもないさ……俺はそのお陰で良い出会いが出来た」
EWAスタジアムへ行く途中で訪れた覇気のない店。
だが入りやすい優しさも感じ春夜は、士郎とアキ達に出会えた。
――まさか、こんな所で
「まぁ君が楽しめたなら僕も満足さ。――さて車を用意しているから、それで送るよ」
「わるいな……」
そう言って春夜は部屋を出て行き、これで残されたの閏だけとなった。
誰もいなくなった部屋で閏は静かに微笑んだ。
「ごめんよ春夜……一つだけ嘘をついたよ。この件、僕にとっては無価値なものじゃなかったんだ」
閏はデスクに隠されたスイッチを押すと、目の前にモニターが出現した。
何かのデータを読み込ませている様子の映像、それを満足そうに見ている。
「“影打ち”をどうしたかは聞かないさ……でも
閏はそう言って『UPdate』と表示されたモニターを静かに閉じた。
覇王の再臨。それは必ず大きな波乱を巻き起こす。
それは自分の利になる事を閏は分かっており、これから起こる戦いを待ち遠しそうな笑みを浮かべながら部屋を後にした。
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