何度だって咲き誇れ!

りゅうあ

『八重垣タカネ』という令嬢

 彼女は『染井カスミ』を好いていた。

 きっかけは昔に遡る。


 カスミの家に初めて行った折、彼が一人でいるのを不思議に思い、声をかけたのだ。その時のきょとんとした顔と、控えめに微笑んだその顔を、子供ながらに愛おしいと思った。

 彼が笑ってくれるなら、唇が切れている理由も、爪の跡が残る拳のわけも、聞かない方がいいと思っていたのだ。

 彼の仕草、声、自分への態度、その全てが愛おしくなるのに、時間はそう大して必要なかった。彼女にとって、彼の家に遊びに行くのがとても楽しみで仕方ないものになった。けれど。

 貴族である八重垣家の娘が、理由もなく他貴族の家に出入りするなど、はしたないわけで。きちんとこの交流には意味があったのだ。


……『婚約』


 染井の家に挨拶に行くと言われ、顔を合わせに行った。その日が、初めて彼と遭遇した日。少し年の離れた兄君と挨拶を交わし、別れた…そのあとの事だった。

彼女は親から、『挨拶に行く』としか聞いていなかった故に、その足は彼の元へ向いた。

 彼女はだったから。

 そして初めに戻るわけだ。


 時は経ち、彼女も兄君とのあの顔合わせがどういう意味であったのかは理解していた。けれども、カスミに対しての愛情はそれにも勝るものだった。

 彼女の婚約は兄君と行われる予定だったが、カスミへのタカネの態度から、兄君のほうから拒否をしてきた。

 それは彼女にとっては好都合で、気兼ねなく言えたのだ。

『大きくなったら結婚しましょう!みーくん!』

 その約束は今も胸に。


 その言葉を交わした数日後、染井家当主が病床に臥したと言われ、彼が心配で家から駆け出そうとした。

 もちろんそれは叶わなくて、歯がゆい思いをしながら日々を過ごしていた。


 2週間が経とうという頃、ようやくお見舞いの許可を頂けた彼女は、染井のお屋敷へ向かった。

 そこには、彼の兄弟は居ても彼はいなかった。

 行方を聞いても誰も教えてはくれず、皆俯くばかりだった。

 彼の様子、兄弟の様子、そして察していたこの家の様子。全てが我慢がならなくて彼女はまた、駆け出した。


 今度もまた、私が見つけますわ。

 待っていてくださいませ、みーくん

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