決着、より海

 


 例えるならば、有り得ない大きさの塗り絵。


 それにまず手をつけ、始めに色が付いたのがこの女性だった。 もし上空から見下ろしたなら、見た者にそう感じさせる光景に一人佇むのは、金色の髪、アクアマリンの瞳。 それだけ聞けば天使のようだが、内容は悪魔だ。



 ―――『いや、俺だってここまでしねーよ』



 と悪魔からクレームが来そうな女は、ゆっくりと目を閉じ、長い息を吐いた。



「終わったわ……アルノルト……」



 本懐を遂げ、感慨深く呟く。


 四年もの間、唯一苦渋を舐めされられた相手。 そして自分を含め、仲間を守る為に散っていったその人を想って。


 だが―――



「あんなぁ! 浸ってるトコ悪ぃけど、こっちも終わりそうだったっつーの!」



 戻って来た四人の第一声は、危うく終わってしまう所だった森のくまさんことヴァンだった。


 それは某国民的アニメのシンガー、ジャ〇アンがお母様に泣きながら「オレはかぁちゃんのドレイじゃないっつーのッ!」、と訴えているようだ。 体型もそれらしいし。


「ミシャ」


 続いて声を掛けたノエルに振り返り、まだ虚ろな目を開く。


「ノエル……」


 さて、ここでノエル氏は何と言い放つのか。



 ①『ふざけるな! 仲間を殺す気か!』

 ②『やるならやるで教えろよ!』

 ③『やったな、遂に倒したな』



 正解は―――






「俺、海行くわ。 シーフードカレーにすっから」





 ほぼ灰と化した森の食材を諦め、コックは海に向かうと宣言した。



「ええ、予想では半径20メートル程度の威力だと思ったけど……」



 破壊神の天気予報はかなり信用性が低いようだ。



「―――何故、なんだ……」


 合流してからじっとミシャに視線を向け、顔を顰めていたブランが口を開く。


「何故お前は、一線を退いて尚こんな力を……」


 共にサイネリア教団で成長しパーティを組み、散り散りになるまで遂に並ぶ事すら出来なかった存在。 だがこの四年で並び、今や超えた自信すらあった筈だ。


「その差は縮まるどころか、広がっていく一方ではないか……!」


 理解し難い、受け入れられない。 トップクラスに位置する剣士は、灰色になった地面に目を逸らす。



「ブラン、あなたは優秀よ」


「やめてくれ、慰めや謙遜など――」

「でもね、優等生は所詮選ばれし者わたしには勝てないの」



「――ッ!」



 さあ、逃げろブラン。

 きっとろくな事にならない。



「あなたが必死に自分を高めていた時間はね、“私と同じ時間” じゃないの」



 ほら、始まりましたよ。



「……それは、どういう――」

「あなたの四年間はいいとこ私の一年よ」


「なッ……!」



 だから逃げろって。



「かなり甘めに見てね」



 コメントは激辛。



「大体あなた、どうせ実力以上の危険なクエストには手を出してないんでしょ?」


「そ、そんなことは――」

「昔からそう、自分が勝てると確信した相手としからない。 格上だと判断すればすぐに一歩引く」


「ぐ……」


 悔しげに頬を引きつらせるが、心にある “思い当たる節” が言葉を出させてくれない。


「そういう自分が嫌で人一倍努力するのは分かるけど、凡人がリスク回避の遠回りして非凡な私に追いつこうなんて虫が良すぎるのよ。 もっと死ぬほどの目に遭って、その上で死線を乗り越えてから言いなさい」


「おいミシャ」


 とノエルが間に入る。 が、


「それでも無理だけど、才能無いから」

「ミシャて」


 再度割って入った時には、プラチナクラスの剣士が一人、その輝きを失い灰色の景色に仲間入りしていた。


「どんなに立派な得物腰にぶら下げてても――」

「灰ってさぁ! 多分もう燃えないんだよねッ!」


 燃え尽きたブランを更に炙ろうとする地獄の黒炎に水をかけたノエル。


 ブランは、自分が今立てているのかも分からずに立っている。 触れれば散りそうなそれに、同じパーティであるヴァンが恐る恐る近付き、


「……おい、生きてるか? ブラン」


 と声を掛けるが、


「…………」



 返事が無い、ただの屍のようだ。



「あー、ブランのかみ、しろとくろになってるよー?」


 クルクルと死んだ目の周りを飛ぶ妖精。 ノエルは尻尾が禿げた時の自分を思い出し、


「アンジェ、これは……メッシュ……って言ってな、お、オシャレ……なんだよ」


 明日は我が身と声を震わせる。


「ふーん、おっしゃれー!」


 地獄の美容師のカラーリング、あなたも是非ご来店お待ちしております。 お代は、




 ――――あなたの心でございます。




 深い溜息で気持ちを切り替え、ノエルはミシャに視線を向けた。




「んなことよりよ、これからどこ行くんだよ」


「へぇ、なんでわかったの?」


「そりゃお前、“まだ終わってない” 、って顔してっからよ」



 それを聞いたミシャは嬉しそうに笑い、灰となった怪物にそっと触れる。


「……これ、よ」


 サラサラと崩れていく怪物の中から何かを掴む。



「会いに行きましょう。 ―――こいつを操ってた奴にね」



 その手には、おとぎ話の魔女ラバンテが作ったとされる種――――マリオネットシードが握られていた。



「なーるほど、ついに決着って訳だな! 俺は行かねーけど」



 ―――主人公行かんのかい。



「海行くから」



 ―――あ、言ってましたね。




 さあ、いよいよサザンピーク救援クエストも大詰め。



 いざ向かわん、悪の根っこを掴みに!( 主人公は来ませんが…… )


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