ヒロインは決戦へ、主人公は……

 


 怪物を塵にした後、ミシャは時を待たずしてブラン、ヴァンを引き連れ黒幕の元へ走る。



「大体の場所は種から掴んでるから、ただ向こうも私達が来るのを予測して構えてるかもね!」


「ったく、なにをそんな楽しそうに……ホント鉄火場の好きな女だぜ……」


 呆れ顔のくまさんはひと休みしたい様子だが、大暴れしたばかりの破壊神様はまだまだ食い足りないようだ。


「相手はサザンピークに派遣された兵達と訳が違う、国家の野望を託された、デルドル最高の魔導士だと思っていいわ」


 守る気の無い町とは違い、ガイノス王の野望、その期待を背負う魔導士は超一流という事だ。 それを聞いたブランは目を細め、


「あれだけの大魔法を使って消耗しているだろう、やれるのか?」


 森をほぼ全壊させた悪魔を気遣う。


 今、ここにノエルが居たなら(居ないのがそもそもアレだが)こう思うだろう。




 ―――ブラン、お前はまだ分かってねぇなぁ……―――




「――は? 心配してるのはそこじゃないの」



 ああほら、早速いらっしゃいましたよ。



「きっと数人居るだろう護衛もそれなりの猛者って事よ。 それをあんた達二人に任せるから、私がその魔導士を仕留める間のは粘ってね」


「――ぐっ……!」



 いやブラン、実はこれは、彼女なりに信頼しているのに、気恥ずかしくて言っている『ツン』なのかも知れないぞ。 きっとこの後可愛い『デレ』が……



「その後――――手伝ってあげるから……」


「ぐくく……ッ!」



 なんて蔑んだ目で人を見下すんでしょうね。 まるで自分以外は虫けらのように思っている目です。 まさかね、ヒロインがそんな―――



「倒そうなんて思わなくていいから、怪我されて治すの面倒だし」



 …………ウチのヒロイン、アンジェだから。



「へいへい、わっかりやしたよっ! いーじゃねぇかブラン、俺ぁもう悟ったぜ。 どんなにイキったってコイツには適わねぇ、言う通りやんのが生きる道ってもんだ」



 ヴァンよ、はたしてそれは『悟り』なのか? 『諦め』ではないのか?


 それを議論するつもりはない。 だが、確かに言えるのは、ヴァンノエルに着々と近付いているという事だ。



「……そう、だな……。 結果、ミシャは我々が手に負えなかった相手を倒したのだから……」


「ブラン、そりゃ違ぇよ」

「なんだ……と?」


 同意した筈のブランを否定するヴァン。 一体何が違うと――――こっ……この目……野生の牙を失った虚ろな……獰猛な獣の血をカルピスに入れ替えたような目………見た事がある、どこかで……


「確かにあのバケモンはしんどかった。 けどよ、本当に手に負えなかったのは………ダメだ、言うのもしんどいわ――――何も言えねぇ」



 何も言えねぇそれも聞いた事があるぞっ!






 ◆






 さて、くまキチがいぬキチになりつつあるその時、狼から何度ジョブチェンジしたか知れない主人公は―――



「……いい加減にしろよ」


「だって……!」


 あちらは黒幕と決戦、そしてどうやらこちらも、何やら穏やかではない状況のようだ。


「あのなぁ、こういうのは大人の言うことを聞くもんなんだよ」


「でもっ、やだもん!」


 ノエルとアンジェ、仲睦まじい親子のような二人に一体何があったと言うのか。


「お前の身の為を思って言ってんだぞ!?」


「やだやだっ!」


 これは……決戦に向かったミシャ達を案じて、少しでも力になろうとアンジェは追いかけたい、しかしバカを言え、そんな危ない所にお前を連れて―――



「好き嫌いすんなっつったろっ!!」


「だってアンジェ、イカ嫌いだもんっ!!」



 イカかーい。



「こっちはわざわざ下調べもしてあんだ! この辺の海にはスクインプっつーでけーイカがいてよ、美味うまいしすげー身体に良いんだってよ!」


「でも嫌いだもんっ!!」



 ………まあ、それでも迷惑な破壊活動を行うミシャアレに比べれば可愛いものか。



 結果ヒロインはアンジェ、主人公は……






 ――――もう、誰でもいいなぁ……。


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