門兵、ダイヤモンドクラスを知る
「……こりゃ、ヤベェな……」
思わず出た台詞は、サザンピーク入口の門兵を見たノエルの所感だった。
予定より少し早く正面門に辿り着いた三人が見たのは、破損した鎧、疲弊した顔で町を守る四人の兵士。 中には立ってもいられずしゃがみ込み、槍を杖代わりにしている者もいる。
「つかれてるならごはんたべてねちゃえばいいのにねー」
「おいアンジェ、こっからは喋るなよ?」
胸元から顔を出すアンジェをノエルが窘める。
「予想はしていたけど、どうやら冒険者も集まってなさそうね」
「えっ? まさか俺達だけ?」
「どうかしら、何しろ嫌われてる国だから」
ともあれここまで来たのだ、クエストに参加しない訳にはいかない。 二人は救援を待つサザンピークの門へと向かった。
「……どうも」
ノエルが覇気の無い声で話し掛けると、一人の兵士が虚ろな目をして口を開く。
「……あなた方は、冒険者……ですか?」
「ええ、まあ」
「た、助かります……! この時間はそうモンスターも現れませんが、夕方から夜には……」
ノエルに応対する兵士は、藁にもすがるといった表情で感謝を示している。
( 俺を見て何も感じねぇのか? いや、それどころじゃないってこったな )
ハーフである自分に何の拒否反応も見せない兵に内情を知る。
「で、今何人集まってるの?」
ミシャが尋ねると、男は言い難そうに視線を落とし黙り込んだ。
「聞いたからって帰ったりしないわよ、一応把握しておきたいだけ」
「あなた方を合わせて……四名です……」
弱々しく伝えてくる現状に溜め息を吐くミシャ。 男は慌てて、
「で、ですがそのお二人が信じられないくらい強くて……! 昨日から我々も助けられてます! なにせプラチナクラスの冒険者なんですからっ!」
「プラチナクラス!? なんでそんなヤツらがこんな――いてッ!」
この国の評判と安いクエスト報酬から、失礼な発言をしそうな勢いの相棒をミシャが小突く。
「ふーん、じゃあ足でまといにはならなそうね」
「……失礼ですが、お二人は……」
最上位であるプラチナクラスの冒険者と聞いて尚上から目線の女魔導士、そして連れはまだ明らかに少年剣士だ。 彼が二人を身の程知らずだと感じるのも当然だろう。
「私? 私はね……」
「――ッ! おいミシャッ!!」
背後に気配を察知したノエルが振り向き叫ぶ。 疲弊し救援を喜ぶ門兵達は気づかなかったようだが、翼を生やした鳥類系のモンスターが二体、鋭い鉤爪を振り被り上空から襲いかかって来ていたのだ。
「―――
半身を軽く捻ってかざした掌から、火柱が渦巻いたかのような竜巻が放たれる。 その渦に呑まれ消えていくモンスターは、断末魔さえ微かにしか出せずに灰と化した。
「―――こ、こんな高火力の魔法……初めて見たぞ……?」
破壊神様の爆炎ショーに驚愕する兵士達。
その様子を見てミシャは言い放つ。
「ああ、もしかして食糧難だった? もう食べられそうにないわね」
早速派手に始め出した相棒。 だが被害者の会若手幹部は、彼女が消せるのはモンスターだけではない事を心得ている。
( おい、頼むから町中ではやんなよ…… )
ノエルの心配はクエストよりもサザンピーク自体だ。
「あ、あなた方はいったい……」
一瞬にしてモンスターを消し炭にした魔導士に、門兵は顔を強張らせながら再度尋ねる。
「私は “ダイヤモンドクラス” の魔導士ミシャ。 こっちは……未来の英雄よ……」
乙女モードは継続中。
気恥しそうにノエルを紹介するミシャに門兵は目を見開き、
「え、英雄……それに、ダイヤモンドクラスなんてあったのか……」
冒険者の情報に疎いデルドルの兵士には通じてしまうようだ。 何より説得力のある場面を見たばかりなのが効いている。
「とりあえず、クエスト参加登録をしに行きましょう」
「ああ、そうだな」
ミシャに促され頷くノエルは―――
( ―――んなクラスはねぇッ!! )
と心中で叫ぶもすぐに『忘却』。
すごすごと道を開ける門兵達の視線を受け、二人はサザンピークへと入って行った。
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