派遣社員、手早く仕事をする
―――村から離れ、木々の生い茂る暗い森の中へと入って行く三人。
「妖精の森、ねぇ……この雰囲気じゃ妖精どころかお化けでも出そうだわ」
暗がりの中ぼやくミシャ。
安心しろ、お前相手じゃお化けの方が逃げ出す、と思ったが、口には出さない程には成長したノエルが、
「怖くねぇか? リンダ」
「は、はい……大丈夫です」
灯りを持ち先頭を歩き、隣で道案内をしているリンダをさり気無く気遣う。
「……ちょっとあんた――」
それにヤキモチを妬いたのか、ミシャが不機嫌そうな顔で口を開く……が、
「俺達は冒険者だからな、一般人には優しくしねぇとミシャの為に『英雄』になれねぇからよ」
「っ……! な、なによそれ……」
後方から
昼間散々オモチャにされたのが効いたのか成長著しい彼だが、この物語は
「まあ、頑張るのはいいけど、無茶しないようにねっ……」
―――それはお前次第だろ。
さあ突っ込めノエル、無茶させられてるのは誰のせいか、懲りずに抵抗してみせろ。
「ああ、でもちっとは無茶もしねぇと、俺はまだ弱いからよ」
………次回最終回、『魔女使いのノエル』、乞うご期待。 ……は冗談として、その会話に物悲しそうな表情を浮かべている少女が一人。
( ミシャさんの為に、英雄に………お二人はやっぱり……そういう関係なの……? )
―――ヘビとカエルの関係性です。
「リンダ」
「――はっ、はい」
「どうだ、そろそろこの辺でいいんじゃねぇか?」
「そう……ですね、もう妖精の森の中心に近いですし」
目的地に着いた三人は立ち止まり、いよいよ犯人のピクシーを探すべく大魔導士様が呪文を唱える。
「よし、じゃあいくわよ。
ミシャの身体を中心に、光の円が広がっていく。
「……どうだ? いたか?」
昼間捉えた、恐らく間違いないというターゲット。 他のピクシーと明らかに違う反応らしいが……
「さすが妖精の森ね、すごい数。 だけど……すぐにわかったわ」
「おおっ、どこだ? 今寝てんのか?」
ターゲット発見の報告を受け、声を小さくして辺りを見回すノエル。
ミシャは冷たい表情で短剣を抜き、言葉ではなく行動でそれを示すべく、その切っ先を目標へと向けた。
「――え……」
「な、なにやってんだミシャ?」
狼狽えるノエルとリンダ。
ミシャはアクアマリンの瞳を細めて、無慈悲な声色で話し出す。
「こんなに近くにいたらすぐわかる。 あなたが犯人だったのね……」
――――リンダ――――
闇の中で残酷に輝く銀色の刃。
その切っ先を向けられたのは、何とラケシスのひ孫リンダだった。
「わ、私……ですか?」
「おいおい、なに言ってんだ? ピクシーって見えねぇぐらいちっちぇんだろ? 冗談やめろって」
身に覚えのないリンダ、どう考えても納得出来ないノエルはミシャに剣を収めるよう促すが、
「リンダ、あなた身体に誰かを憑依させた時、記憶はあるの?」
「それは………ない、です……」
―――嫌な予感がする。 この先の展開に胸騒ぎが止まらないノエルは、つい声を荒げてミシャに言い放った。
「だからなんだよっ!? まさか、ホントにこいつが――」
「このピクシーは特別でね、質は他のピクシーと大差ないんだけど、力の大きさは桁違いなのよ。 それがリンダ……―――あなたの身体に居るの」
「私の……身体に……?」
混乱して震え出すリンダ。
だが冷静になって考えれば、ミシャの発言には食い違いが見受けられるのだ。
「今こいつの身体にピクシーが居るなら、もうリンダの意識は無いはずだろ? おかしいじゃねぇか!」
それに気付いたノエルが必死に食い下がるが、ミシャが剣を下ろすことはなかった。
「そうね。 つまり、そのピクシーは彼女の身体を依り代にして、イタズラしたい時だけ乗っ取るのかも……大体、こんな力を持つピクシーいるわけ無いの―――今は……ね」
「……おい、落ち着けよ……」
いよいよ危機感を感じたノエルが、リンダを庇うように立ち両手剣を構える。
「依頼は、村に被害を与えるピクシーの討・伐・。 私、仕事は手早く片付けるタチなの」
「……それが……わ、私……なの……?」
自分でも知らないうちに村に迷惑を掛けていたのか、青ざめた顔を震える手で覆うリンダ。
「おい……今までで一番タチ悪りぃぜミシャ。 一般人はやめろって、大体ピクシーにそんな力ねぇんだろ?」
「でも、居たかもしれないのよ、大昔はね……大きな力を持った……―――ピクシーがッ……」
「そんな……私、私じゃないッ……!」
「やめろミシャァッ!!」
動き出したミシャを止めようと、両手剣を盾のように平たく構え迎え撃つノエル。
「ぐっ!?」
ミシャの短剣は下からその盾を突き上げる。
金属音が響き、デタラメなその威力は重い両手剣と体格差のある筈のノエルが簡単に万歳をしてしまう。
「――ふっ!」
「ゔッ……! ああぁぁ……っ!」
がら空きになった脇腹に強烈な蹴りを食らい吹き飛ぶノエル。
あっさりと排除された後には、足の竦んだ少女が冷血な魔女に狩られるのを待つのみ。
当然ただの村娘であるリンダには避ける力も無く――――
ミシャとリンダの身体が重なり、短剣がか弱い少女を突き抜ける。
( 嘘だろ……や、やりやがった……! )
ノエルが琥珀色の目を大きく開いた時―――
「離れたッ!!」
「――んあっ!?」
気を失ったリンダを抱きかかえ、後ろのノエルに振り返り叫んだミシャの視線を追うと、微かな光を放ち空を飛ぶ何かが見える。
「こいつかっ!」
それを捉えたノエルが両手剣で叩き落とそうとするが、足の小指程も無いターゲットに躱されてしまう。
「得物も悪けりゃ腕も悪い!」
「ボロクソ言うなっ! リンダは無事だろーな!」
確かに両手剣は小さな目標には向いていないが、良い所無しの物言いにノエルも吠える。
「脇を通しただけよ! こんな若い子の未来を奪うわけないでしょっ!?」
―――村………消そうとしてませんでした?
「村長だったら
「――迷うわけないでしょ」
人道的に少しは迷って欲しいものだが、ラケシスの人格にも問題ありだ。
「それにしても、目で見える大きさのピクシーかよ……」
空に浮かび、こちらを見下ろしているかのような小さな光を見上げて呟く。 ミシャはリンダを地面に寝かせると、険しい顔でノエルと並び空を見上げ、
「リンダちゃんに怖い思いさせちゃったじゃない……―――もう、イタズラでしたじゃ済まないからね」
その顔を隣で見たノエルは確信した。
( もう助からねぇな、このピクシー……元々討伐依頼だけど…… )
「さあ始めましょうか。 飛べるぐらいで私から逃げられると思ってないわよね?」
―――ノエルは思った。 飛べもしない自分はこの女から逃げるのは絶望的だと。
いよいよ決戦の時、鋭い眼光を向けるミシャと、剣を握り直すノエル。
「イタズラ……されたことはあるのかしら? 初体験が私じゃ、ちょっと可哀想かもねぇ」
悪戯に村を消す力を持つ
『だって! リンダだけズルイもんっ! ばかぁッ!!』
「「――え?」」
聴き覚えのある声に時間が止まる。
それを醒めさせたのは、声の主が巻き起こした二人を襲う風の刃だった――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます