その168 カクェールさん達の誤算
「一緒に来てくれるんですか!?」
「ああ。というより、俺達はもともとラーヴァに行くところだったんだ」
「ラーヴァに? どうしてですか?」
僕がカクェールさんに尋ねると、答えが返ってくる前に懐かしい声が聞こえてきた。
「レ、レオス……!」
「レオスさん!!」
「クロウにアニス! 良かった無事に帰ってたんだね」
あの後どうなったか心配していたけど、大丈夫だったようだ。隣国だったのが幸いしたって感じかな? 僕がそんなことを考えていると、クロウが表情を歪めて口を開く。
「……ごめん。僕はあの時なんの役にも立てず、あげく逃げ出したりして」
「それは仕方がないよ。あれは異常だ、僕の力でもどうにもならなかったからね……」
僕達はお互い俯くと、カクェールさんが手を叩いて僕達の肩に腕をかけて言う。
「今はしんみりは置いてくれ。さっき話そうとしたことを続けさせてくれ」
「あ、はい」
「助かる。……俺達はクロウとアニスからことの経緯を聞いた。だからアマルティアのことも知っている。事態は軽くないが、こちらから手を出さなければ重くも無い、という認識だ」
カクェールがそこまで言うと、立ち直ったガクさんが腕組みをして言う。
「まあ、お前さんの言う通りだな。でも、そっちのふたりが報告したのにラーヴァに行こうとしたってことは……レオスのところへ向かうつもりだったな?」
「ああ。その後どうなったか確かめたかったし、なによりウチの国王様が事態を重く見ていてな。アマルティア討伐のため、色々と考える運びになったんだ」
「ええ!?」
まさか僕達以外にも倒そうとする人が出てくるなんて……
「ヤツにはこの世界の人間や武器による攻撃が効かない。俺達では無理だろうと思っていたが、そこへ俺の契約した風の精霊が案を出してくれたんだ」
カクェールさんがスッと槍を手にすると、どこか反響するような声が頭の中に響いてきた。
<初めましてね。わたしはジャンナ。風の精霊よ>
「風……チェイシャと同じ精霊なんだ?」
<あら、チェイシャを知っているのね。まあ、今はそれどころじゃないから後回し。わたしの考えた案なんだけど、それはズバリ『召喚』よ>
「召喚? ……もしかして、異世界から何か呼び出すってこと!?」
<流石に察しがいいわね。そう、神に匹敵する者を呼べば数が多い分こっちが有利。悪魔達もダメージを与えられるなら勝ち目があると思わない?>
確かに、それが出来ればウルトラC級のどんでん返しだ。同じくらいの力を持った神を呼べばもしかすると倒せるかもしれない。
だけど、一つ問題がある。
「ジャンナは召喚の方法を知っているの?」
<そこよ。ラーヴァに行こうと思っていた理由は。……クロウから聞いたけど、仲間に冥王がいるわね? 彼女、アスル公国の人間だったんでしょ?>
ジャンナがメディナのことを口にし、僕はどきりと心臓が跳ねた。そこへクロウが続けて話をする。
「国王がアマルティアに召喚を唆されたなら、何か知っているんじゃないかと思って尋ねようとしていたんだ。もちろんレオス達が分無事かどうかもね。メディナさんは荷台かい?」
「……」
「レオスさん……?」
僕が俯いてしまったのでアニスが心配そうな声を出す。確かにメディナなら何かを知っているかもしれない。記憶は怪しいけど、思い起こせば何かを思い出す可能性はあった。
だけど――
「……冥王は……メディナは死んだ……あの時の戦いで……」
「「え!?」」
当然、クロウとアニスは驚愕の声を上げる。少し前までみんなと話していたし、ハイラル王国ではふたりを助けてもいるからだ。僕はふたりを荷台へと案内し、棺のメディナを見せた。冷凍されているため、まだ生きているかのような美しさが保たれている。
「そんな……う、うう……メディナおねえちゃん……」
「大けがならまだしも死んでしまうなんて……そんなに強いのか……」
アニスがルルカさんに抱き着いて大泣きし、クロウが青ざめる。そして、焦るように口を開いたのはカクェールさんだ。
「……アテが外れたか……このままアスル公国へ行っても犬死にするだけだな……どうする? 一度レリクスへ相談するか?」
冥王が倒された、という部分も焦りに拍車がかかっているのだろうとカクェールさんを見て思う。無理をする必要は無いだろうとカクェールさんへ告げる。
「そうですね。無理はしない方がいいと思います。さっきも言ってましたが、手を出さなければ向こうから何かをしてくる可能性は低いです。迎え撃つ準備を進めた方が――」
僕がそう言うと、アニスが泣きながら尋ねてきた。
「ひっく……お、おねえちゃん達はどこにいるの……?」
それも僕の心に突き刺さる。隠しても仕方が無いのでアニスへ答える。
「……エリィ達は攫われた……僕は三人を助けるためとメディナを故郷の土へ埋める目的でアスル公国へ向かっているんだ」
「そんな……!? 三人……一人足りない……まさか他に誰か死……!?」
「ああ、バス子は攫われてないんだ。あいつはラーヴァにいるよ」
ホッとした様子でクロウが息を吐くと、僕の手をとって真剣な顔で言う。
「……僕も行くよ。役に立てないかもだけど、今度は逃げない。ルビアさん達を助ける手伝いをさせて欲しい」
「わたしも!」
「気持ちは嬉しいけど……」
どう断ろうか考えていると、何やら話し込んでいたルルカさんとティリアさんが頷き合い、口を開く。
「……レオス君、ボク達を連れて行って欲しい」
「え?」
「ルルカ?」
僕は間の抜けた声をあげると、カクェールさんもポカンとした顔をしてルルカさんを見ていた。そこでティリアさんが続ける。
「……大魔王城に召喚に関する何かが残っているのではないかと思うんです。……それに、レオスさんには何か手がありますね? そうでなくては助けに行こうなどとは思わないはずです。囮にするようで悪いですが、レオスさんとアマルティアが対峙している間に探し物をするつもりです。勝てれば良し、レオスさんが負けるようならすぐに撤退します」
「おいおい、つめてぇ姉ちゃん達だな……。とはいえ、悪くはない手か。いいんじゃねぇかレオス。道中、交代要員が増えるのはありがてぇ。セイヴァーみたいな野郎がまだいないともかぎらねぇ」
ガクさんがどうする? と、僕に促す。
一瞬、目を閉じて考えるが、ついてきてくれるなら戦力として頼もしいと思い僕は言う。
「……よろしくお願いします」
「というわけなのでカクェールさんもついてきてくださいね♪」
「……はあ。お前達を危険な目に合わせたくないんだけど……」
「なんかよくわからないけどカクェールさんについていくわ!」
「……フヨウが行くなら私も同行する。よろしく頼む……」
<……大丈夫かしらねえ……>
――こうして僕はカクェールさん達ペンデス国のメンバーを仲間に引き入れた。ただ、この件を国王様に伝えるのと、危険すぎるということでアニスには残ってもらった。馬車はまだ余裕があるけど、馬達に負担をかけるわけにはいかないと、もう一台馬車を手に入れ、僕達はアスル公国の国境へと向かうのだった。
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