その134 誘拐犯



 「なんてあっけない……。というか速い……!?」


 刹那の瞬間、髭もじゃ誘拐犯はあっという間にロープでぐるぐる巻きになり、クロウがポカンと口を開けたまま一言呟く。カバンからロープを出して、この状態になるまでが見えなかったようなので、まだまだ修行が足りないわね。


 「さて、それじゃギルドへ突き出しましょうか」


 「この人、何をしたの?」


 アニスが首を傾げてあたしに尋ねてきたので、逃げないよう目を離さずに返事をする。


 「こいつ、誘拐以外にニセ医者とかもやってたらしいのよ。レオスがエイゲート王国の領地で追い詰めたんだけど逃げられて、誘拐騒ぎの時もいつの間にか消えていたの」


 「ああ、詐欺師ですか」


 クロウがポンと手を叩いて納得すると、誘拐犯がじたばたしながら口を開いた。


 「よ、よしてください!? ゆ、誘拐はすみませんでした! 突き出しだけは勘弁をっ!」


 「いや、誘拐で生計を立てるようなやつを野放しにはできないと思うよ、僕は」


 「反省しました! もう二度としませんから!」


 ド正論のクロウに泣きながら詰めより、クロウが若干引いた。そして、あたしに目を向けてさらに続ける。


 「そうだ! ワタシの持っているドラゴンの卵。あれを差し上げますから、それで手を打ってもらえませんか?」


 「できるわけないでしょうが……。そもそも本物かどうかもわからないし」


 「ここで牢へ入れられると、お腹を空かせている子供たちが……! わかりました。では、魔物を取り扱うテイマーペット屋へ行きましょう。そこで本物だと判明すれば、渡して」


 と、いよいよ嘘くさいことまで言い出す始末。うーん、面倒だし、どこかで逃げる隙を伺っての提案だと思うけど、このまま連れて行こうとすれば騒ぎそうな気がするわね。明日まで時間もあるし、提案に乗ってあげましょうか。どうせ偽物だろうし。


 「……いいわ、その提案にのってあげる。もし、本物だったら卵、買ってあげるわ」


 「おお! 話がわかりますね。美人なだけはあります。では、早速向かいましょう!」


 「あれ!? ロープが解けてる!?」


 「こいつ……!」


 誘拐犯はスタスタと歩き、路地の隅に置いていたアニスの胴体くらいある卵をひょいっと抱えてあたし達の前を歩いていく。レオスから逃げたことといい、誘拐騒ぎの時といい、もしかすると能力は高いのかもしれない?


 「待ちなさいっての! はい、アニス持ってて」


 「ひゃあ?!」


 あたしはすかさずもう一度誘拐犯をロープでぐるぐる巻きにして地面に転がし、卵をアニスへ預ける。丁度抱える形になったのが愛らしいと思ってしまった。


 「おおう!? またしても緊縛!? ……アナタ、こういうのが好きなんで――げぶあ!?」


 「さ、クロウ、そいつを引っ張ってきて。ペット屋さんはどこかしらねー」


 「え、エグイ……」


 あたしの後ろで悶絶している誘拐犯を見てクロウが呟き、あたし達はペット屋へを探し始める。そこはすぐに復活した誘拐犯が引きずられながら、口でてきぱきと案内してくれたので程なくして到着。


 町から人が出て行っているのでやっていないかと思ったけど、店はオープンしていたのは割と驚きだったりする。


 「こんにちはー」


 「いらっしゃいませ。テイマーペットショップへようこそ。ペットをお探しですか? 最近新しい魔物の仕入れが無いのでお気に召すものがあるか分かりませんが……」


 短めの茶髪で、眼鏡をかけた優しそうな顔の男性店員が申し訳なさそうに頭を掻いて愛想笑いをする。店内には色々な魔物が檻に入れられ、買い手がつくのを待っている。


 「今日は買いに来たんじゃないの。アニス」


 「はーい!」


 ゴトリ……


 アニスが非常に重そうな大きい卵を机に置くと、店員の目が大きく見開かれ、ぺたぺたと卵を触りながら叫び出す。


 「こ、これってもしかしてアースドラゴンの卵……!? この模様……大きさ……間違いない! こ、これ、どうしたんですか?」


 店員の驚きようを見ると、どうやら本物みたい? この店員とグルという可能性は否定できないけど……もう少し話を聞いてみようかしら。


 「本物なの? 本当に? この男がどこからか持ってきたらしいんだけど」


 「ええ!? も、もしかして巣に行ったんですか!?」


 「詳しくは言えませんが、苦労したことというのは間違いありませんねえ」


 「なぜ縛られて……? お嬢さんは知らないようですから、これを見てください」


 そう言って店員が図鑑のようなものを取り出し、とあるページを見せてくれた。そこにはアースドラゴンの説明がずらりと並び、本体と、卵のイラストが丁寧に書かれている。


 「ルビアさん、これ本当に本物なんじゃ……」


 ごくり、とクロウが喉を鳴らす。もしそうなら、相当な金額になるのではと卵を撫でる。すると、誘拐犯が勝ち誇ったように笑い始めた。


 「はっはっは、どうです! ワタシめが一攫千金を狙ったのはウソではありませんでしたでしょう? さあ、ワタシめを解放するのです!」


 調子に乗ってるわねー。さて、どうしようかしら?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る