その51 ホックホクのレオス



 <闇曜の日>



 「出品する方はこちらですー。商品を買い付ける方は左の通路をお進みくださいー」


 「あ、じゃあ僕はこっちだね」


 「あたし達は観客席でいいの? お姉さんがついてなくていい?」


 「子供じゃないんだから大丈夫だよ!?」


 さて、ルビアが朝から飛ばしているけど、今日はオークション当日。早朝から集会場は大賑わいで、地下へ降りると先ほどの案内が聞こえてきたという訳。


 「売る方はいいですけど、もし買いたいものが出てきたらどうするんですか? 大魔王討伐でもらった白金貨五十枚がありますし、一緒に居て欲しいものがあったら立て替えてもいいですけど」


 「んー、とりあえず今日は自分の持ち物を売りたいから遠慮しておくよ、ありがとう。それに白金貨クラスの買い物なんていつ返せるか分からないしね」


 そういうと、エリィは微笑んでから僕に言う。


 「分かりました。レオス君は堅実ですね! それじゃ、客席で見ていますね」


 「私もこういうのは初めてだからドキドキするわね」


 エリィとベルゼラがそろって歩き出し、ルビアが後に続くが、動かないバス子を見て声をかけた。


 「ほら、バス子も行くわよ」


 「ごくり……白金貨五十枚……? 報酬……もしかして姐さんも?」


 「え? もちろんもらってるわよ。大魔王のおかげね」


 「えっへっへ……姐さん、それを倍に増やしたくありませんか……?」


 「馬鹿なこと言ってないで行くわよ」


 「あ、ちょ!? 少しだけ、少しだけでいいんです! 金貨い――」


 などと意味不明なことを言うバス子はルビアに抱えられて人ごみに消えていく。まだ全財産をすったのが諦めきれないらしい。まあ銀貨三枚だけど。


 四人を見送り、僕は出品者の集まる部屋へと向かう。明らかに商人と分かる人や、ごつい装備の冒険者、魔法使いに軽薄そうな男に獣人なぢ、色々な人種がこのオークションを楽しみにしているのが分かり、否応なく僕もわくわくしてくる。


 「うんうん、こういうのだよ、僕が求めている生活は。儲かるか儲からないか……自分次第。でも楽しかったら後悔はしないと思うんだよね」


 少なくとも復讐なんてことをするよりかははるかにいい。そんなことを思いながら、やがて大部屋へと辿り着いた。


 「ふーん、警備が凄いね。それにこの中は魔法封印の結界が張られているんだ」


 部屋に入って違和感を感じた僕は一人そんなことを呟く。すると、


 「お、坊主気づいたのか? 魔導士の俺でもしばらくかかったのに入ってすぐ気づくとはな」


 灰色のローブに青い髪、そしてリュックサックを背負った男がニカっと白い歯を見せながら話しかけてきた。この人も出品者のようだ。


 「な、何となくね。ほら、警備が多いし、暴れないようにする処置なのかなって」


 「ああ、なるほどな。いい着眼点だ。ここは初めてか?」


 僕が頷くと、男はドヤ顔で話を続けた。


 「お宝の宝庫みたいなものだからなここは。だから、盗みやいざこざが起こらないよう相当なセキュリティをかけているんだ」


 「へえ、手間がかかりそうだけど」


 「そこはこの町を仕切っている首領って男が色々考えているらしいぜ? ま、今日はお互いその恩恵に預かろうや。じゃあな」


 「あ、はい」


 言いたいだけ言って男は去り、その背中を見送りながらこういう説明をしてくれる人は貴重だなと感心していた。

 

 そんなこんなでオークションが開始され――


 わあああああ!


 「さあ『古代の壺』は金貨三十枚で、ニヤラルドさんが落札されましたぁぁ!」


 「いや、はっはっは、安い買い物だったよ」


 あの汚い壺に三十枚……


 「次の出品者はヒエータさん! 妖しい熟女が出す商品はなんだぁ!」


 「熟女はよけいよぉ! 私はこ・れ♪ あの伝説の縫製職人が作った……下着よ」


 「出ました! 縫製職人『バルバリア』作、伝説のパンツ! 金貨一枚からスタートだ!」


 「三枚よ!」


 「五枚だ!」


 「姐さん、あれ! あれ買いましょう!」


 「落ち着きなさい!」


 「いたぁ!?」


 と、凄い盛り上がりを見せるオークション。


 他にはオリハルコンの盾や金のネックレスといった定番ものから、ワイバーンの肝やキングサーペントの鱗と言ったキワモノまでいろいろと出品されていた。


 「次の出品者は今回最年少のレオス君だ!」


 「よ、よろしくお願いします! まずはこちら、サタナイト宝石のブローチです! 純度は抜群、鑑定保障もばっちりです」


 「さあ、この貴重なブローチ! 金貨三枚からからスタートだ!」


 「五十枚!」


 「おおっといきなりの五十枚からだ!」


 何だって!? 一気に五十枚なんてラッキーだ。一応金貨二十枚で売れれば、と思っていただけに嬉しい悲鳴とはこのこ――


 って、手を挙げているのは、


 「エリィじゃないか!?」


 「レオス君の持ってたブローチ……!」


 何だかよくわからないけど、ここでエリィが買うのは辞めて欲しい。僕は隣に座っているルビアにサインを出す。


 か う の や め さ せ て !


 「?」


 はい、通じてない! 


 ルビアは首を傾げていたが、すぐに僕へサインを送る。


 う ら な い の ?


 通じてた! 首を傾げたのはそっちの理由だったんだね!


 み う ち に う ら な い で し ょ !


 ぱ ん つ か っ て く だ さ い


 バス子邪魔しないで!?


 その後はどうにか通じて、次の人が金貨五十一枚で買ってくれた。


 続く魔除けのアミュレットは金貨一枚スタートだったけど、やはり最初にエリィが手を上げて金貨五枚からの、貴族の男性が金貨六枚で落札。何でも不幸続きだからすがる思いもあるとかなんとか。


 魔法の帽子は鑑定で被っていると魔力が上がるというスキルがついていたので金貨三枚スタート。流石にルビアがまずいと思ったのかエリィの手を上げさすまいと格闘し、こちらは冒険者の女の子が金貨七枚で落札。貯めていたお金をはたいたようでとても嬉しそうなのが印象的だった。


 ――結果!


 「金貨六十四枚! いやっほう!」


 と、舞台から降りて小躍りするくらい稼がせてもらったのだった。ホクホク顔で歩いていると、次の人とすれ違う。


 「おう、結構いったな!」

 

 「ありがとうございます。次はお兄さんですか?」


 「ああ、ちょっといいものだぜ?」


 ウインクして壇上へ上ると、男はささっと杖を取り出す。


 「あれは……」


 それを見て僕はゾクリと鳥肌が立つ。


 「こいつは地底から地上まで幹が伸びているという神樹、イグドラシルの枝で作られたという杖だ。手にしたものは絶大な魔力を得られる、という伝説がある代物だ」


 「ななななな、何と世界のどこかにあるという神の木で作られた杖です! ほ、本物なのでしょうか……?」


 「さあな。信じる者は使えるかもしれないぜ! さ、こいつは白金貨一枚から――」


 「百枚だ」


 「な!?」


 白金貨百枚と即答した人が居て僕は驚く。お客さんを見ると、やはり困惑し、ざわついていた。


 「……他に、居ませんか……?」


 シーン


 白金貨百枚など出せる人がそう居るわけもない。そして僕の直感だと、あの杖には何かしらの力が宿っている、そんな気がする。


 そして執事らしき男にお金を持たせ、壇上へ杖を取りに上がる。


 「ふむ、これは良いものだ、不思議な力を感じる」


 「あ、あなたは……!?」


 男がごくりと唾を飲み込み、口を開く。明るい壇上で顔がはっきりと見える。若い貴族の人かな? その時一部の観客からどよめきが起こり、杖を売る男が驚愕の声を上げた。


 「ディケンブリオス、様!?」


 ディケンブリオスって確か……今いるスヴェン公国の公王様じゃなかったっけ!?

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