その50 親切な理由



 「オークション関連の方は順番に並んでくださいー。あ、こちらにどうぞ」


 「ありがとうございます」


 建物に近づくと係員らしき人が大声で列の整理をしていて、僕達もその中に組み込まれ少しずつ前に進む。並んでいる人は商人はもとより、割と身なりのいい人もいた。


 「お金を持っていそうな人もいますね」


 「だね。この手の人って、こういったところに来る理由は二通りに分かれるけど」

 

 「二通りって?」


 こういう場所に縁がないルビアがキョロキョロしながら僕に聞いてきたので、考えを述べてみることにした。


 「貴族だと仮定した場合、エリィの言うようにお金を持っているはずなんだけど、稀にいる金遣いの荒い貴族なんかは結構困窮することがあるんだ。で、宝石や装飾品なんかを売るパターンが一つ。オークションなのは店売りだと価格が低いから見栄と実益を兼ねてってところだと思うよ」


 「なるほど。ではもう一つは?」


 ベルゼラが納得して頷き、もう一つのパターンについて尋ねてきた。


 「もう一つは本当に見栄を張るためだけに、お宝と呼べるものを出品することだね」


 「何の意味があるのよ……」


 「まあまあルビア、最後まで聞いてよ。レアアイテムを僕が持っていたとして、それを出品する。そうするとそれを持っていた僕に注目が集まるでしょ?」


 「はい! レオス君すごいですね」


 「うん、仮だからねエリィ。まあいいや……それを買い取れないような額を提示するとどうなる?」


 「うーん……恨みを買う?」


 物騒なルビアの言葉に苦笑しつつ、僕は口を開く。


 「それも間違ってないけど、所持者の格が上がったように見えるんだよ。いいものを持っている、あいつは凄いってね」


 「あー、そういうことね。つまんないプライドねえ」


 「次の方、どうぞー」


 「まあ、そういうこともあるってことさ。あ、僕達の番みたいだよ」


 テーブルに近づくと、鑑定に使う虫メガネみたいなものを持ったお爺さんがにこにこしながら座って待っていた。


 「よう来たのう。さ、品物を見せてくれるかい?」


 「あ、では……」


 と、僕がカバンから出そうとしたところで、横に立っていた係員らしきスキンヘッドがにやにやと笑いながら僕に言う。


 「商品ってのはその女達なんじゃないのか? お前みたいなガキが可愛い子を三人も引き連れているのはおかしいだろ? 騙して無理やり奴隷にしたんじゃないのか?」


 「そんなことはしませんよ。それより変な目でそれより仲間を見るのは止めてもらえますか?」


 僕がスキンヘッドを睨むと、ルビアが口笛を吹いてから呟く。


 「おー、レオスって結構言うわね。旅している時にレオバールへこれくらい言えたら良かったのにね」


 「そうですね。でも、もうあの腐れ野郎は居ないですし、今こうやって守ってくれているからいいじゃないんですか」


 僕を持ちあげる二人に、スキンヘッドは不機嫌な顔で再び僕に声をかける。


 「チッ、気に入らねぇな。タダとは言わねえよ、誰か一人寄越せ」


 「お断りですね。すみません、鑑定お願いできますか?」


 「んだと……!」


 肩を竦めてお爺さんに商品を渡そうとしたところでスキンヘッドが僕の肩を掴んだ。さて、どうしてやろうと考えていると、お爺さんの目が見開きスキンヘッドへ一喝した。


 「よさんか馬鹿者! お主、首領ドンの顔に泥を塗る気か!」


 「う……。面白くねえ、俺はあっちへ行くぜ」


 「好きにせい」


 お爺さんの顔を見て怯むスキンヘッドが、ゆっくりと僕の肩から手をどけて別の鑑定士のところへと向かっていった。


 「さ、すまんかったな。では見させてくれるかい?」


 「あ、はい……これを。あの、首領というのは?」


 「ほう、これは凄い……ん? ああ、首領はこの町を根城にしているギャングじゃ。このオークションや、露店の仕切りなんかも請け負っておる」


 するとエリィが困惑顔でお爺さんに聞く。


 「ギャングって悪い人達じゃありませんか? ギルドや町長、領主様は容認しているんです?」


 「ああ、ギャングとはいってもどちらかと言えば冒険者寄りの人間じゃから問題ない。ならず者達ではあるが、首領は卑怯なことを嫌う性格で、悪いやつらには容赦がないくらいさ」


 ただ、その『容赦の無さ』の度が過ぎることがあるからギャングなんだろうとお爺さんは笑いながら言う。なるほど、この町の人たちが親切なのはそういう経緯もあるからなんだろうね。


 「全部問題ないね。明日のオークションは偉い人も来るらしいから、坊主は大もうけできるかもしれないぞ。はっはっは!」


 「名のある貴族とかですかね? ありがとうございます」


 そういって僕達はテーブルを離れ、他の人たちが出すであろう商品をチラ見することに注力する。


 「あの指輪いいわね。さっきあっちの人が出してた髪飾りの魔法付与されたものみたいだったし、あたしも買う側に回ろうかしら♪」


 すでに物色をしていたルビアがそんなことを言う。キョロキョロしていたのはそのせいか……


 「新しいロッドも欲しいですね。ベルは武器や防具は要らないんですか?」


 「私もお金ができたら買おうかと思います。手持ちと合わせても金貨一枚くらいですから難しいですね」


 「ならいいのがあったら私が買っちゃいます! 報酬はばっちりもらってますから!」


 大魔王討伐で得た報酬で大魔王の娘に装備を買う……なんだか頭が混乱しそうだけど、エリィはなぜか嬉しそうなので黙っておこう。するとベルゼラが口を開く


 「……そういえば聖杯は出さなかったですね?」


 「え? 大魔王復活のキーになるアイテムを売るわけにもね。ベルゼラには悪いけど、復活させるわけにはいかないし」


 「そう、ですよね……」


 少し寂しそうな顔をしたのが気になるけど、こればかりは仕方がない。ベルゼラとは別の魔族が狙ってくる可能性も捨てきれないしね。

 

 「それじゃ、仕入れはまた明日にして今日は宿へ帰ろうか」


 「へへー、賛成ー。買った品物を見たいしね」


 「ふふ、ルビア子供みたいですね」


 「拳聖も女の子だなあ」


 「可愛いですね、ルビアさん!」


 ルビアが手を挙げて似つかわしくないことを言うので、僕達は苦笑しながら歩き出す。ルビアは顔を赤くして、大人しく付いてくる。

 ほどなくして宿に辿り着き、部屋へ戻るとなぜかみんな僕の部屋に来るという。


 「お喋りしながらでいいじゃない」


 「いいけど、エリィ達の部屋でもいいんじゃない?」


 「そこはレオスの困った顔がね?」


 「最悪だ!?」


 ガチャリ、と部屋の鍵を開けて中に入ると――

 

 「しくしくしく……」


 「うわ!? ……な、なんだバス子か。先に戻ってたんだ。というかどうして僕の部屋に居るのさ!?」


 ソファにうずくまる人影は紛れもなくバス子で、すすり泣いていた。夜一人で見たらホラーにしかならない絵面だよ……僕が訪ねると、バス子はダッと走ってきて僕に抱き着いた。


 「な、なんだよ!?」


 「お金……」


 「お金? 先ほどもらった給金ですか?」


 バス子はこくりと頷き、続ける。まさか落としたとか?


 「路地裏で面白そうな賭けをやっていて……」


 ん?


 「遊んだら全部すっちゃんたんですよう! あれは絶対イカサマ! イカサマですって! お金、貸してください! 取り返すにはお金がいるんです!」


 「却下!」


 べし! っと脳天にチョップをしてバス子は床に突っ伏した。


 「ギャンブルで負けた分をギャンブルで取り返そうというのはすでに負のスパイラルに入っているからダメだよ?」


 「うう……わたしのお金……」


 「反省しなさい! あなたが従者って恥ずかしいわ!」


 床で泣きながら頭を振るバス子を見て全員苦笑いをし、ベルゼラは怒っていた。


 その後はふて寝するバス子を尻目に、ルビアのセクシーな服やエリィの可愛い服をお披露目され、ドキドキしたりとせわしなく時間が過ぎていった。


 オークション当日、この調子で穏やかに僕の懐が暖かくなると思っていたのに……

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