その46 疑心暗鬼



 <土曜:コントラクトの町>


 

 森を抜けた僕達は眼前にオークションがあるという町、コントラクトへ到着した。さて、一人の時なら気にならなかったけど、今は女の子達がたくさんいる。こういう時はだいたい因縁をつけられることが多いので、気を引き締めなくてはいけないと思う。


 「五人だな。身分証はあるか?」


 「これで」


 「ほう、Cランクか」


 門番が感嘆の声を出している間に、僕は魔族である二人に聞く。


 「ベルゼラとバス子は持ってる?」


 すると二人は首を横に振る。


 「私達は持っていませんね。冒険者でも無いですし」


 「えっへっへ……魔族のわたし達にも必要なんですかい?」


 あちゃあ、早速トラブルの匂い……バス子に至っては挑発とも取れる発言をし、門番が眉を顰める。


 「あ、あの……」


 僕が声を出そうとすると、門番が先に口を開いた。


 「魔族でも大魔王に加担していなければ咎めることもない。人間と一緒にいるならそれなりに信用はできるのだろう? 身分証は何かしらあった方がいいと思うが」


 「そうね。何かあってもあたし達が何とかするわ」


 「拳聖と賢聖……!? は、かしこまりました、それでは身分証が無い方は銀貨三枚いただきます


 ルビアはさっと可愛い財布を取り出してお金を払う。


 「銀貨六枚、確かに。ではお通りください」


 「ありがと♪ それじゃ行くわよ」


 ルビアの鶴の一声で門は開けられ、あっさり中へ入ることができた。

 「すみません……」


 「姐さん、この借りは必ず返します」


 ぺこりと頭を下げるベルゼラに、なぜか膝をついて忠誠を誓うポーズのバス子。そこにエリィが僕達の前に出て振り返って言う。


 「レオス君の故郷まで距離がありますし、町に立ち寄る回数を考えるとお金を払うよりは身分証が欲しいですね。お二人とも冒険者登録をしてはいかがですか?」


 「そうですね……他に方法があればいいんですけど」

 

 身分証かあ。僕も帰るのに欲しかったから分かるけど――


 「身分証はどこかの町に家を持って定住している人とか、お店を持っている人、もしくは冒険者になるかだよね。商人ギルドでもあれば僕も楽だったんだけど……行商人はお店を持っている人に該当するからねえ……店を持たない行商は居ないし」


 「なら、ちゃちゃっと試験を受けましょうやお嬢様! いざ、ギルドへ!」


 「今やっているか分からないですけど、一応覗いてみましょうか!」


 バス子とエリィがギルドを探すため歩き始め、僕達は苦笑しながら後を追う。


 ……だけど、待てよ? 男一人に女の子四人……これはギルドで絡まれるパターン!? 僕の脳裏にいちゃもんを付けられてからエリィとバス子が相手をコテンパンにしてギルドマスターに呼ばれるまでが再生され、冷や汗が出る。


 「あ、あ、さ、先に宿を探さない? 森を歩いていて疲れているでしょみんな?」


 「え? 全然! レオス君の作ってくれたおうちは快適でしたし、ご飯も良いものが食べられましたから!」


 「そうね。まだ陽も高いしギルドで情報収集でいいんじゃない? オークションがいつどこでやっているのか聞かないとダメでしょ」


 エリィとルビアは余裕の表情で僕に笑いかける。一方のベルゼラもバス子も僕の言葉に首を傾げていた。いや、エリィもルビアもベルゼラも可愛いし、確実に因縁が待っている気がする。


 「……バス子も特殊な性癖の人には大うけだろうし……」


 「何っつったコラァ!?」


 おっと、いけない口に出していたみたいだ。叫ぶバス子は無視して、顔を上げるとベルゼラが手を掴んで引っ張ってくれた。


 「さ、行きましょうレオスさん」


 「……そうだね」


 先行き不安の中、ギルドへはすぐに到着した。


 オークションという怪しげな商売が成り立つからか、冒険者が多く、ギルドも大きかったからすぐに分かったのだ。


 「こんにちはー……」


 扉を開けて静かに中へ入り、受付へと向かう僕達。すると、強面の冒険者たちが一瞬僕達を見て静かになり、その中でも特にゴツイのが数人こちらへやってくる。早く受付で会話をしないと絡まれる。


 だけど、受付には誰も居なかった。


 「おい、兄ちゃん!」


 そうこうしている間に声をかけられた。目は逸らしているけど、僕に向かって言っているのは分かった。やはり絡まれ――


 「今、受付の姉ちゃんはトイレに行ってるぜ」


 「いつもはもっと居るんだけど、今は試験の最中で出払っているんだわ。ま、気長に待ちなよ」


 ――無かった! 


 強面だけどめちゃいい人だった。二人は片手を上げてギルドを出ていく。すると、奥からパタパタと足音を立ててウサギ耳をした女の人が僕達の立つ受付へ帰ってきた。


 「す、すみませ~ん! ちょっと人が足りなくて……」


 「あ、さっき他の方から聞きましたので大丈夫です。それでご相談なのですが……」


 「はい! 何なりとお申し付けください。あ、ワタシは受付のリリと申します」


 「チッ!」


 ぴょんと跳ねるお姉さんを見てバス子が舌打ちをする。どこかの一部分がとても豊かなので、仕方がない。


 「えっと、冒険者試験について聞きたかったんですけど、今日やっているみたいですね? 次はいつになりますか?」


 「あ、そうですね。えっと……次は三日後になりますね。ご予約されますか?」

 

 「私はしておきましょう。ナス子あなたは?」


 「ナチュラルに間違えないでくださいよ……それはあれですか? 体がなすみたいにストーンとなってるからですか? だったらお嬢様も一緒……」


 ガツン!


 「早くなさい」


 「あい……」


 サラサラとサインをして冒険者試験の予約が済む。この辺りはミドラの町と変わらないね。すると今度はエリィがリリさんに訪ねる。


 「あの、この町でオークションをやっていると聞いて来たのですが、詳細をご存じではありませんか?」


 ガタッ!


 ざわざわ……


 「ん?」


 ルビアが冒険者たちが座っているロビーに目をやると、僕達に注目が集まっていた。……もしかしてオークションが地雷だったか? 闇のオークションとかそういうものだったりして……


 ここで絡まれるかと身構えると、冒険者たちが叫び出す。


 「オークションで出品するのかよ!? すげぇな、さぞやいいお宝持ってるんだろうな……」


 「いいものだったら俺が買ってやるよ! だからまけてくれよな!」


 「セコいんだよお前は!?」


 「僕ぅ、魔法のロッドとかなぁい?」


 「あ、あはは、見てのお楽しみということで……」


 気のいい人達ばかりで絡まれなかった。


 リリさんがほほ笑みながら僕達に教えてくれる。


 「オークションは毎週闇曜の日に行っているわ。町の中心に大きな集会場があるんだけど、前日からそこの地下に行けば管理者がいるから声をかけてみて。出品の前に一度査定をしておくといいかもしれないわね」


 「あ、僕商人ですし、目利きは自分でやります。これで相場から離れた金額を提示したり、売れなかったらまだまだだってことですしね」


 「レオス君、将来のために頑張ってますね」


 「Cランク冒険者なのにねえ……」


 「ま、人生いろいろやってみてもいいと思うんだよね。ルビアも意外と他の仕事向いてるかもよ?」


 「戦いしか知らないけどね、あたしは」

 

 肩を竦めるルビアに僕達は笑いながらギルドを後にし、集会場を探しに町を散策する。町の中心とまで言ってくれたので迷うこともなく発見。


 「……鍵がかかってるね。闇曜の日までは無理か」


 「今日が土曜の日ですから、二日後に来ればいいですね」


 「そうだね。じゃあ、これで一応の用件は済んだし宿へ行こうか」


 そしてさらに散策し、”サキアトバライ”という宿へ到着。


 「いらっしゃい」


 「五人なんですけど、僕は一人部屋でお願いします」


 「あ? ……何だ、お前さん男か。可愛い顔立ちしてるからみんな女の子かと思ったぜ」


 「がーん!?」


 僕がショックを受けているとバス子が腹をかかえて笑い出した。


 「げひゃひゃひゃ! レ、レオスさん女の子に間違えられてやんの! まあ、確かに男の子にしては整ってますからねえ!」


 「そっちの嬢ちゃんと体系が似てるからお前さんもそうだと思ったんだすまんな」


 「あ、いえ」


 「ぎゃふん!?」


 宿の親父さんの攻撃がバス子にクリティカルして沈む。すると、受付近くにある談話をするロビーにいた冒険者が立ち上がり声をかけてきた。


 「さっきからうるさいな!」


 「あ、すみません! すぐ部屋に行きますから……」


 バス子の下品な笑い声で不快になって絡んできたのか……!? 今まで何も無かったから油断した……! 難癖をつけられてもいいように頭の中をクリアにしていると、冒険者の男が口を開く。


 「元気がいい奴らだ! でも他の宿泊客に迷惑がかかるからもう少し静かにな。見たところ同業のようだし、その元気は魔物退治にでも取っておくといい」


 やっぱりいい人で絡まれなかった。

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