第二章:実家はまだ遠い
その27 そして再び一人旅
「それ!」
ブルゥォォォ!
ガキン! ザシュ!
「悪いね、今日の晩御飯は君だ!」
ブモオオオン!
ドカカ! ドッカ! ザシュ!
ブモォォン……
「素材とお肉ゲットだ!」
暴れ猪こと、トルミノスボアの突進を真正面から受け流し、大きな牙にセブン・デイズをたたきこんでへし折る。頭を振って怒るトルミノスボアから一歩だけ下がって頭をばっさりと斬ると絶命した。内臓以外は売れるので、カバンに入れている手持ちの鉈でサクッと解体だ。
――ミドラの町を出てからすでに三日ほど経ち、僕の旅は順調に進んでいた。地図を見ながら街道をレビテーションでスキップしているので距離を稼げるのが大きいかな。二日目に途中見かけた村にお邪魔して一泊し、今日は街道から少しずれた森の中で野宿を決めた。
じゅー……
トルミノズボアのお肉は黒豚に似ていて美味である。夜空に肉の焼けるいい匂いが漂い、僕のお腹はぐうと鳴る。
「はふ……んまい! 脂のノリといい、固さといいベストすぎる」
スライスした肉を焚き火であぶり、それを口にして舌鼓を打つ。数枚食べたところで改めて地図を見る。
「この調子だと明日には次の町につきそうだね。城からもかなり離れたし、そろそろ宝物庫で貰ったお宝をじっくりみておかないと。お宝といえばセブン・デイズもよく分からないなあ」
剣を抜いて柄の部分を見ると、宝石は緑色に変化していた。今までの経緯から、赤、青、緑、茶、白、黒、無色という順番で色が変わっていたことを記憶している。振れば振るほど色が変わって……とも思ったけど、昨日は青、今日は緑色なのでどうもローテーションで変化するようだ。
「何かギミックがあるのかなあ? それが分かったら高く売れそうなんだけど。まあ切れ味だけでも十分といえばそうなんだけどさ」
カチン、と鞘に納めて僕は食事を再開する。どちらにしてもお宝を売るのは別の国に出てからの方がいいだろう。まだいくつか領地を越えないと隣国へ行くのはまだ先になりそうだけどね。冒険者証が手に入ったから、稼ぐ手段はいくらでもあるし、素材を売って繋ぐのも悪くない。
「いやあ、これはこれで楽しいかも?」
連れ出してくれたアレンに少しだけ感謝かな? 記憶が戻ってなかったら大魔王戦で死んでたけど結果オーライだ。
しかし気になるのはウッドゴーレムを使って僕を襲ってきた人物……こうして一人になる状況を作ってみるものの、攻撃される気配は無い。諦めたのならそれでもいいけど、目的が分からないのが気持ち悪い。
「レオバール以外に恨みを買うような覚えはないんだけどな」
僕はクリエイトアースで作った土のベッドに葉っぱを敷いて寝転がり、夜空を眺めながら呟く。そのままうとうとして眠りについた。
翌日。
予定通り町が見えてきたので速度を落としてからゆっくりと町へ近づいていく。えっと、確かここはネルって名前だったっけ。魔物対策の城壁はどこの町も同じで、ここは検問所が備え付けられていた。
「よろしくお願いします」
「おう、身分証明書はあるか?」
「これでいいですかね?」
「冒険者許可証か、これ以上ないくらいだな。へえ、商人の冒険者か、珍しいな」
詰所の窓口で僕の許可証を見ながらそんなことを言う。ちゃんとジョブは商人にしてくれたんだ? ヒューリさん分かってるなあ。許可証は貰ってから首に下げたまま見ていなかったりする。ま、形式的なものだしね。
「本業は商人で、路銀稼ぎで誰かと依頼を受ける為に取ったんですよ」
「そうなのか? 腰の剣は立派なもんだが……って、お前さんCランクか!? 若いのに凄いもんだな……」
「え!?」
バッ!
僕は慌てておじさんから許可証を奪い取るとそこには――
レオス:商人 冒険者ランク:C
と、書かれていた。
「うおおお……」
「だ、大丈夫かい若いの」
頭を抱える僕に声をかけてくれるおじさんを制して僕は歩き出す。
「あ、ありがとうございます。通っても? それと宿の場所を教えてもらえますか」
「あ、ああ、いいぞ。宿は門を抜けたら左に向かって歩け。少ししたら看板が見えるはずだ」
「どうも」
門を抜けるため、トンネル内を歩きながら僕はため息を吐く。
というのもCランクは中級者か上級者に足をかけているかどうかというレベル。基本的にエコールみたいに受験に受かったばかりはEランクスタートだったはず……ちなみにE~SSまでランクがあり、エリィやアレンなんかはSランクである。それを考えるとそれをものともしなかった大魔王エスカラーチは相当強かったのだ。
「う、うーん、目立ちたくないけど、ある程度実力を出せるのはありがたいからいいのかな? どうせ誰も僕のことなんて知らないだろうし、適当に魔法をぶっ放しても大丈夫かな?」
そう、思おう。その時が来たら考えよう。
さらにてくてくと歩き、おじさんの言うとおり程なくして宿に到着した。ザ・宿って言っても差し支えないくらい普通の外見だ。三階建ての。
「すみません、一人ですけどいいですか?」
僕がカウンターに声をかけると、三つ編みの女性が奥から出てきてにこっと笑いかけてきた。
「お泊りですか! ありがとうございます! 当宿は朝晩のお食事つきで一泊あたり銀貨二枚になります。ボッチのための一人用個室も完備していますので、気兼ねなくあんなことやこんなことも可能です」
「……とりあえず一泊お願いします」
溜まるものはある。しかし、ここでそれをすると負けた気がするので絶対にやらないぞ……!
コホン……とりあえずまだ路銀はあるし、この町は一泊でいいと思い、銀貨二枚を払い部屋へと向かう。女性がにやにやしながら僕を見送っていたのはこの際置いておこう。
「ああー! やっぱりベッドがいい! ……お金ができたらベッドを買ってカバンに詰めておこうかな……」
そんなことを思いながら僕は靴を脱いでベッドであぐらをかき、カバンを漁る。そこからポコポコとお宝が出てくる。
「こんなところかな。……相変わらず臭いなあ……」
アレンの鎧一式を壁の隅に投げ捨てて、早速お宝のチェックを始める。
「この赤い宝石はサタナイトのブローチかな。純度もいいし、高く売れそうだ。この短剣はミスリル製か、まあまあの品かなあ。お、これはいいんじゃないか? ダイヤモンドの腕輪!」
この辺は通常でも流通している物品なので道具屋でも質屋でも鍛冶屋にでも売れる。他にも魔除けのアミュレットや、魔法の帽子なんかもあった。
「へへ、結構貰ったから母さんにおみやげも買ってあげようかな。デッドリーグリズリーのコートとか喜ぶかな?」
僕はお宝をカバンへ仕舞い込んでいると、一つ、奇妙なものが転がっていることに気付く。
「? ワイングラス……にしては、幅が広いか。地球でみた優勝カップみたいな感じだけど、国王様対抗ゴルフカップ! ……無いか。それにしてもこんなの持ってきたっけ……?」
両手で包み込むように持てる、青白いカップに銀で何やら紋様が描かれていた。ちょっと古い感じもするけど、アンティークとして売り込めばいけそうな雰囲気だ。
「獲らぬ狸の、とは言うけど、これくらいあればそれなりに売れるはず……一食くらい豪華に食べてもいいよね?」
腹ごしらえのため、もう一度町に出てみることにした。
◆ ◇ ◆
「見つけて来たわ」
「おお、流石はお嬢様! これで大魔王様復活に向けて一歩近づきましたね!」
「で、彼は?」
「見失いました!」
「は?」
「見失いました!」
「二回も言わなくていいわ! どういうこと? 試験は?」
「……それが、すり替わったことがバレてしまいまして……転移魔法で逃げたまでは良かったんですけど、その後凄いスピードで町を出て行ったんですよ。追いかけようかなと思ったんですけどね? お嬢様を待たないといけないと思ってですね? 決して寝ていたらいつの間にかいなく……いたたたたた!?」
「言い訳無用! さっさと追いかけるわよ、サキュバス子! 彼がいれば――」
「あ、あ、待ってくださいよう! フルネームは恥ずかしいからバス子って呼んでくださいー!」
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