その23 隠者か馬鹿か



 「はいはい皆さんお疲れ様です! 炊き出しがありますので良かったらどうぞ! 後はふかふかベッドをご用意しましたのでお休みください。試験の詳細は正午以降、再開についてもその時にお知らせしますので、ごゆっくりどうぞー!」


 ミューレさんがメガホンらしきものを使っててくてくと歩きながら疲れ切った受験者の間を縫いながら告知していく。だけど疲労と眠気、空腹で割とボロボロの受験者が聞いているかどうかというくらいの地獄絵図だった。


 「にゃるほど、試験自体はまだ終わってないみたいだね」


 「ああ、ここまでやって中止だと辛りゃいからにゃ……」


 「食べるか喋るかどっちかにしなさい」


 「あはは……」


 僕達は炊き出しのパンとスープを口にしながら適当に座って受験者の流れを見ていた。あの後、ヒューリさん達と共に森を出て、他の受験者と一緒にギルドの試験会場だった場所に戻った。若いお婆さんのマリーヌさん、グランさん、ヒューリさんから『ゆっくり休め』と言われこうしているというわけだ。


 「とりあえず……寝ようか……緊張の糸が切れたら眠くなったよ」


 「あ、さんせーい。ギルドの三階から上に部屋が割り当てられてるんだっけ」


 「あ、そうですね。二人一部屋なので私とリラさんが同じ部屋です。扉にプレートがかかっているらしいです」


 「なら多分僕とエコールだね。ふあ……お腹いっぱいになったら本格的にやばいや……行こうか」


 「そうだな」


 僕達は疲れた体を引きずりながら吸い込まれるようにギルドの建物へと入って行った。


 あれ? セブン・デイズの色がまた変わっている……ま、いいか……眠いし……




 ◆ ◇ ◆




 「さて、現在の時刻は?」


 「5時半を回ったところです」


 グランがそう言うと、ヒューリは頷き話を続ける。


 「残り七時間で結論をつけないといけない。私は試験を続行、それ以外の意見は?」


 「わしはそれで問題ない。が、あのゴーレムの出先は追及せねばならん。わしの結界を抜けるとは只者ではない」


 マリーヌが挙手をして意見を口にする。それに追従してミューレが挙手をする。


 「はい、ミューレ」


 「ありがとうございます。私も試験の続行は同じ意見です。ここまで頑張ってきた人達に悪いですからね。で、マリーヌさんの言うゴーレムの使役者は最初から結界……魔方陣の中にいたと考えられないでしょうか? 参加者の誰かが生成したと言う線は?」


 「有り得なくはない、か」


 そこでスタッフの一人、セラを連れ去ろうとした覆面が喋り出す。


 「……あのレオスという少年は? 彼は俺を容易く御してきました、怪しいと思うのですが」


 すると、ヒューリ、マリーヌ、グラン、ドモアが目を丸くした後、顔を見合わせて笑い始める。


 「ああ、あいつか。あいつは無いな! 何を隠したいのか分からんが何も隠せていないんだよな」


 「うむ。魔力のレベルは魔聖と同レベルはありそうじゃぞ。マリーヌ、どう思った?」


 「そうじゃなあ、地味な試験じゃったけどあやつは賢い。もしあやつが犯人なら目的がわからんわい」


 「でもあんなにバレバレな演技も中々お目にかかれませんけどね」


 グランが苦笑して言うと、全員が違いないと大声で笑う。そしてギルドマスターであるヒューリが結論を告げた。


 「試験は続行。ただし最終試験である試験官との戦闘を少し変更する」


 「どうされるのですか?」


 戦闘する試験官が尋ねると、ニヤリと笑ってヒューリが言う。そして残りのメンバーも分かっているかのように


 「……試験官は俺達全員。得意な技能で全力でかかってきてもらう。その際、怪しいヤツがいたら捕まえる、それでいいな?」


 「問題ないぞい。わしは少し仮眠をしてくるかのう、レオス相手はちっと厳しそうじゃ」


 「あ、待てよあいつは俺と戦うんだって!」


 「ギルドマスターだからってそれはずるいですよ? ウッドゴーレムを倒したのは間違いなくアイツだ、俺がやらせてもらいますよ」


 ドモアがあくびをしながら出て行くのをヒューリが追いかけていく。その背中にグランが声をかけて自分やると主張していた。


 「まあ、最後に笑うのわしじゃがな。ミューレちゃんや、お主は参加者の再チェックを頼むわい」


 「分かっていますよマリーヌさん! さ、一度皆さん休んでください。お昼からは忙しくなりますよ」


 了解です、という声と共に各スタッフは散っていく。


 「(さて、と。怪しい人は居なかったと思いますけど、見逃していたとしたら相当な曲者ですね。レオス君なんて目じゃありませんよ)」


 各自休息を取る中、ミューレは名簿をもう一度確認するのだった。



 

 ◆ ◇ ◆




 「ふああ……そろそろ時間かな……」


 僕はベッドから身を起こし、窓へ近づくと陽がかなり高くなっていることを確認し、隣のベッドで寝ているエコールを揺さぶってやる。


 「エコール、そろそろ時間だよ着替えて行こう」


 「んあ、もう少し寝たいっぺやリラぁ……」


 「……まさかエコール、リラに毎回起こされているとか……? まあいいや、早く行かないと試験に落ちちゃうかもしれないよ? ほら、起きて」


 「試験ってなんやったかいねリラ……試験……試験……試験!?」


 「うわ!?」


 急に起き上がってきたので、びっくりした僕は尻餅をついてしまう。エコールはきょろきょろし、床に座っている僕と目があった。


 「起きた? リラじゃなくてごめんね?」


 「……おう」


 寝ぼけていたのが恥ずかしかったのか顔を赤くして黙々と用意をし、試験場で待つリラ達と合流を果たす。そういえばさっきカバンを漁って思ったけど国王様からもらったお宝はよく検品していないんだよね。落ち着いたら一度全部出してみようかな。


 「おっはよー! ん? どったのエコール」


 「いや……いつもありがとう」


 「……変な物でも食べた……?」


 「……気にするな」


 二人で顔を赤くしていると、セラが試験会場に現れたヒューリさん達を見つけて僕の腕を引っ張って前へ出る。そこで丁度ヒューリさんが話を始めるところだった。



 「よし、静まれお前達! 次が最終試験になる!」


 (おお、良かった……)


 (まだ終わりじゃないのか! 助かる!)


 (失格は言い渡されていないし、ワンチャンあるかしら?)


 もちろん僕もその言葉にホッとする。危ない橋を渡ったのに冒険者証が手に入らないのはけっこうガッカリ度が高いからね。だけど、その後の言葉で冒険者達、そして僕は沈黙することになる。


 「最終試験は俺達ギルドメンバーとの戦いだ! 心してかかってこい、手加減はしてやるから安心しろよ」


 (……)


 (な、なにい!? スタッフが相手じゃないのか!? 一回目はそうだっただろ!)


 (で、でも手加減してくれるって……)


 (ぱ、パーティでいけるんだろ? そうなんだろ?)


 するとミューレさんがメガホンを持ってにこやかに宣言をした!


 「ルールはタイマン。戦う相手は自由。持てる力は最大限に。野郎ども、死にはしないから全力でいけぇぇぇ!」


 シーン……


 流石に今回は誰も賛同してくれなかったとさ……


 「ど、どうしよう……」


 「大丈夫、手加減してくれるっていってるから頑張ろう」


 セラがおろおろしているので僕が背中を叩いて励ましておく。しかし問題はそこではなく……


 「あ、はい! ありがとうございます。それであの、タイマンってなんですか?」


 うん、女の子は基本的に使わない言葉だよね。


 さて、誰と戦うか……試験官の視線を逸らしつつ僕はセラに説明をしていた。

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